第70話 少し遅い昼食と小さな丘

 すっかり鍛冶屋に長居してしまったヴァイスとクラリッサは、歩きながら昼食をとることのした。


 「わぁ~~凄い…‥。(絶対、早起きして作ってるわ。これってヴァイスさんのためよね?)」


 クラリッサは出掛けにナタリアに渡された包を開くと、思わずその彩りの豊さに感嘆の声を上げてしまった。


 これを渡された時、ナタリアはあたかも偶然を装っていたが。

 絶対に二人が冒険に出かける事を知っていたよね?と、遅まきながら気が付く。


 でなければ、ここまで凝ったお弁当を作ることは出来まい。


 パッと見はパンに切れ目を入れ、ただ野菜や肉を入れただけのサンドイッチに見える事だろう。

 しかし今の季節は初冬である。


 夏のように色鮮やかな野菜を手に入れる事は難しい。


 それなのに、しっかりと味付けがされたお肉の両サイドを、緑色や赤色、黄色の野菜がバランスよく彩っているのだ。

 今は初夏ではないか?と、錯覚を起こしそうな程の出来映えである。


 しかも二人で分けやすいようにと、初めから二つに切り分けられているのだが。

 明らかにお肉の量が多い方が大きく切られていた。


 体型を気にしているクラリッサとしては異論はないのだが、そこまでするか?というのが正直な感想である。


 恋敵の手強さを思い知らされ、クラリッサは小さく息を吐くと。

 小さな方のサンドイッチを素手で掴んだ。


 「お、悪いな」


 残った方の大きなサンドイッチを受け取ったヴァイスが、美少女にさりげなく礼を言い。

 包に使われていたロウ引きの紙を一旦開いてから、手や洋服が汚れないようにとパンを包み直す。


 (やっぱり私とは育ちが違うのね……)


 ヴァイスの事となると、そんな些細な事すら気になってしまう、美少女のクラリッサであった。


 ~・~・~・~・~・~・~・~・~


 「この辺にしようか?」


 少しだけ先輩の冒険者であるヴァイスが選んだ採取ポイントは。

 街外れから1時間ほど歩いた所にある小高い丘であった。


 その丘を避けるように小川も流れている。


 なお、街道に沿って歩いたため時間は掛ったが、直線距離にすると街からはあまり離れておらず。

 一気に丘を駆け上ったクラリッサの明るくて丸い瞳には、ローデンブルックの城壁が映り込んでいる。


 「ふぁ~あ。このまま昼寝したいなぁ~~」


 お腹が満たされているからか、急に眠気が襲ってきた。


 しかし今日こそはヴァイスにいいところを見せないと!と思い直し。

 大きなあくびを誤魔化すように両手を青空に向けて突き上げ。

 眠気を吹き飛ばそうとグーーーっと背伸びをする。


 その様子を見ていたヴァイスが、まるで子供のようだと微笑む。


 今日は天気が良く、休憩なしで歩き続けたこともあり、外套の下は少し汗ばんでいた。

 そこへ忍び込む冷たい風が素肌を撫でて心地よい。


 ヴァイスも、風になびく灰色の髪をグローブをはめた手で抑え。

 もう冬が始まっているというのに、青々と茂る草原を見渡して灰色の目を輝かせた。


 そして思うのだ。

 競争をしているわけでもないのに丘の頂上を目指して駆け上がり。

 なぜ丈の長い外套を羽織っているのに、真っ白で伸びやかな細い脚と、プリンと弾む形の良いお尻を見せるのかと。

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