第69話 名誉挽回(布教活動)
「うわぁ~美味しい~~♪本当にさっきと同じコーヒー?なんですか~?」
「そうだよ。砂糖を多めに入れて、ミルクもタップリと入れたけどね」
ヴァイスはコーヒーの名誉を回復するべく、簡易的なドリッパーをウィルに作らせ。
布袋をフィルターにして、ドリップコーヒーを淹れたのだ。
流石に焙煎まではしていないが、長年培った勘を頼りに、精魂込めて
「ッ……全然、違うじゃねーか……」
飲み慣れているはずのウィルも、砂糖を少しだけ入れたコーヒーの味に驚いている。
なお、この世界ではドワーフ族の間で、普通にコーヒーが楽しまれているようなのだが。
なんと砂糖ではなく塩を入れている事が発覚したのだ。
それはそれで苦味と酸味が和らぎ意外と美味しいことに、今度はヴァイスの方が驚かされたのだが。
お返しに砂糖を入れて、ウィルを驚かせたというわけである。
なお、味覚がお子様なクラリッサに作ったのは、甘いカフェオレである。
「ふぉ~~、何じゃ?このいい匂いは!?」
「お、爺ちゃん、いいところに来た。ヴァイスのヤツがまたやらかしだんだよ!」
「またってなんだよ。またって……」
実はヴァイスが持ち込んだアイディア商品が冒険者に売れに売れ、この鍛冶屋は大いに繁盛していた。
その儲けの殆どがウィルの女遊びと、爺さんのお酒に消えてたりするのだが、そこまではヴァイスも知らない。
そして臭いに釣られ現れたドワーフの爺さんも、コーヒーの新たな魅力に魅せられるのだった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
それぞれの味覚に合わせてアレンジしたドリップコーヒーを堪能しながら、4人は世間話をして過ごした。
そして出来ることなら、愛するセーラにもコーヒを飲ませてあげたいと。
ヴァイスはコーヒー豆の入手先を尋ねたのだが。
なんと、ノームから貰った物だというのだ。
ノームとは大地の妖精で、臆病な性格をしていることから滅多にお目にかかれない。
と、魔法使いでもあるナタリアが言っていた。
またドワーフは鉱山の洞窟に住む民と言われているので、ノームとの関わりが深いのかもしれない。
「そうなんですか……。残念だな~」
「そう嘆くでない。これを取って来たら分けてやらんでもないぞ?」
そう言い、ドワーフの老人が上着のポケットから取り出したのは。
掌サイズの黄金に輝く、何かであった。
一見するとカブトムシのようにも見えるが角が無い。
「これは?」
「うわぁ、綺麗……」
黄金の輝きに、クラリッサが身を乗り出している。
「黄金のスカラベじゃ。お主の鎧の留め具や装飾に使おうと思っての」
スカラベとは、
古代エジプトでは太陽神の象徴として崇められていたそうだが。
この黄金のスカラベが現実世界で見つかったら、世紀の発見!と大騒ぎになるのではなかろうか。
「分かりました。ちょうど草原で薬草採取をする予定だったので、ついでと言ってはなんですが探してみます。確か近くに牧場があったと思うので」
「えっ、スカラベって、あの……臭いヤツよね?」
ドワーフの硬い掌に乗っている黄金のスカラベは、甲殻だけとなり綺麗に洗われているのだが。
その正体が分かるなり、可憐な美少女がサッと身を引いた。
思わずヴァイスが苦笑いする。
「あっ、そうだ。ウィルに例の素材を使って、クラリッサにも鎧を作って欲しいんだけど、ダメかな?」
「えっ、俺には無理だって……」
これまで黙ってコーヒーを味わていたクォーター・ドワーフのウィルが、急に話しを振られ戸惑の表情を浮かべている。
何度もチラチラと美少女の様子を伺っているようだが、気絶している間に何かあったのだろうか?
なお、ヴァイスは、ウィルが武具作りから手を引いた事を知っている。
何となくその理由にも察しがついている。
しかし彼は、ウィルの才能を見抜いてもいた。
「でも、ナイト・アントの甲殻を加工する事は出来るんだろ?」
「まぁ、それくらいなら……」
「なら出来るって。ウィルにしか作れない鎧を作ってくれよ。なぁ、いいだろ?」
「…………チッ、本当に強引だなお前は!やりゃーいいんだろ、やりゃーー。どうなっても知らねーからな……」
まだ動きの鈍いヴァイスにバシバシと音を立てて肩を叩かれ、ウィルが渋々頷いた。
「それに、彼女を守ってみたいと思わないか?」
「…………お、おう。そういうことなら、俺に任せとけ……(そうしたら俺に惚れてくれるかもしんねーもんな)」
まだブツブツと言っているウィルに、お返しとばかりに太い首に手を回したヴァイスに耳元で囁かれ。
クォーター・ドワーフの若き鍛冶師は顔を真赤にするのだった。
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