第62話 二人っきりの冒険へ出発
ようやく鬼教官のベレットから許しが出た事で、まだEランクのクラリッサは。
今日から冒険に出ることが可能となった。
なおベレットは受付嬢をしていた時も厳しい先輩であったが。
まさか剣を持つとあそこまで性格が変わるとは思ってもいなかった。
だからヴァイスに言われた通り、軽い気持ちで槍の使い方を教えてくれとお願いしたのに。
クラリッサが全く戦えないと知るや街から出る事を禁止され。
その日のうちに猛特訓が始まったのである。
来る日も来る日も厳しくしごかれ、ようやく卒業試験と称しヴァイスとの模擬試合が行われたのに。
それにも負けたことで、追加の訓練をみっちりと受けさせられてしまった。
ようやく大きくなりだした胸が
そんなヘロヘロ状態のクラリッサであったが、今日は念入りに金色の髪を編み込み。
お気に入りの丈の短い半袖と短パンを着ている。
「やっぱり、外の空気は気持ちがいいんだろうなぁ♪」
それにこっそりと、男性からは分からない程度に化粧もしている。
これは美少女ならではのテクニックである。
そしてなぜ冒険へ行くのにお洒落をしているかと言うと。
今日は彼女の事を心配して、ヴァイスが同行してくれる事になったからだ。
あと前回のような失敗をしないように。
昨夜のうちに安全で見通しの良い、平野での採取依頼も受注済みである。
準備万端、持ち物の準備も終えた彼女が階段を、軽い足取りで降りていくと。
先に準備を終えたヴァイスが待っていた。
「なあ、クラリッサ。流石にその格好は寒いと思うぞ」
見れば、ヴァイスは皮鎧の上に厚手の外套を羽織っていた。
身長だけでなく肩幅もある彼が、何時もよりも更に大きく見える。
それは頼もしくもあるが、せっかくの均整の取れた完璧なスタイルが隠れてしまっている。
もったいない気もするが、クラリッサは彼の灰色の目が、彼女の服装を見て呆れている事の方がショックであった。
「アハハハハハ、そうですよね~……。直ぐに着替えて来ます!」
「いいよ。俺のを貸してあげる。途中で丁度いいサイズの外套でも買って行こう。それに寄りたい所もあるし」
引きつった笑みを浮かべ、慌てて2階に戻ろうとしたクラリッサの華奢な身体に。
ヴァイスがバサリと音を立てて、くすんだ色の外套を被せてくれた。
温もりとともに包み込む彼の臭に、真っ白な頬をサクランボ色に染める。
「あ、ありがとう……。(別にこのままでもいいんだけどな~)」
戸惑いがちに礼を言った美少女の思考が、カチリと音を立てて妄想に切り替わる。
冒険に出る前に、ショッピングをして~。
あれこれ迷っているふりをして、彼の好みを探るの!
そして選んでもらった外套を羽織って腕を組んだら、もうこれってデートよね?
その後もお昼ごはんをどうしようか?って相談しながら、通りかかった屋台で美味しいスィーツを買って~。
あ~んって食べさせてもらうの♪
そしたらアタシもお礼にって、背伸びしながら食べさせてあげて。
彼の口の端に付いた砂糖をペロッて……。
キャーーー、アタシ、なに考えているの~~。
もしかしたら、もしかして、今夜、一緒のベッドで……。
「あら、お二人さん。仲良くお出かけかしら?」
「ええ、クラリッサが採取に行くから、僕も気分転換に付いて行こうと思って」
美少女の淡い願望がエスカレートしていき。
イケナイ領域に突入したところで、艶のある大人の女性に声を掛けられた。
それに答えたヴァイスは、いたって普通の様子。
今は店が営業中とあり、2人は裏口から出ようとしたのだが。
この家の主、ナタリアに見つかってしまった。
その手に持っている包を見て、クラリッサが嫌な予感を覚える。
「なら丁度良かったわ。これ、お昼にでも食べなさい。あと、それじゃーアナタが風邪引くから、クラリッサちゃんには私の外套を貸してあげるわね」
「えっ、いいんですか……(まずい、どうしよう。ヴァイスさんとお買い物に行けなくなっちゃう!)」
そして嫌な予感ほど的中するものであった。
クラリッサは直ぐに、ナタリアの赤い唇から出た言葉の真意に気がつくも。
恋心を隠しているだけに、美少女は思っていることとは反対の言葉で返すしかなかった。
ナタリアは笑顔で持っていた包をヴァイスに手渡すと。
慣れた手付きでクラリッサの華奢な体からヴァイスの外套を剥ぎ取り。
そのまま薄着となった美少女の背中を押して2階へと向かう。
クラリッサは救いを求めて、背が高い彼の顔を振り返ってみるも。
返って来たのはニコヤカで爽やかな笑顔だけだった。
(いや~~、どうしてこうなるの~~。アタシの、アタシの計画が~……)
なすすべもなく、連行される美少女の頭の中には、
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