第17話 いいものはいい
結論から言えば、キノコの栽培所から見つけたワイバーンの槍は強かった。
亀の甲羅から出来た盾も同様である。
まずこれまで硬い甲殻に剣が弾かれ、苦戦していたソルジャー・アントを、ゴブリンよりも簡単に倒すことが出来ている。
アレほど硬かった角張った甲殻を、ワイバーンの爪から作られた穂先は、安々と突き破り。
まるで甲殻がプラスチックか何かで出来ているような感触が伝わってくる。
唯一の攻撃手段である長くて尖い顎すら、この槍であれば簡単に切り取れてしまう。
これまで剣しか使ったことがなかったヴァイスだが。
槍はリーチがある武器なので、とりあえず間合いを取って突いていれば倒せてしまう。
それに例え、2匹のソルジャー・アントに囲まれたとしても。
左手に持っている盾で攻撃を防ぐ事が出来るので、その間にもう一方を倒してしまえばよい。
こちらも革鎧などとは違い、とにかく硬いので敵の攻撃を完全に防いでくれる。
しかも金属製ではないので軽い。
もちろん、人間よりも大きな、しかも昆虫タイプのソルジャー・アントは、とんでもなく力が強い。
しかしそれに関しては、良く鍛えられた肉体が頑張ってくれる。
気のせいかもしれないが、このダンジョンに入る前よりも力が強く感じられる。
流石に、正面を切ってソルジャー・アントと力比べをすれば負けるだろうが、攻撃を弾き返す事は十分に可能である。
それに余裕が出来た事でソルジャー・アントの弱点も発見することが出来た。
昆虫ならではの複眼を傷つけるのもいいが、それいじょうに眉間から生えている触手を切断すると。
十秒ほど行動不能に陥るのだ。
しかもヴァイスが手にする黒い槍の長さは3mもある。
体高が2m近くあるソルジャー・アントが相手でも、槍を手にした彼のほうがリーチが長い。
だから十分に、触覚を切ることが可能なのである。
またこのダンジョンの2層は、巨大なソルジャー・アントが動けるように、広く作らえている事も幸いした。
人間の姿を見かけるなり、走り寄ってくる赤黒い魔物の眉間を一突きし、倒れ込んだ所で横に回り込み首を跳ねる。
あとアント系の魔物は、顎による攻撃しか出来ないのも弱点であった。
攻撃が単調なため防ぎやすく、カウンターで攻撃を当てるのも簡単なのである。
つまり厄介なのは硬さだけで、それさえクリアしてしまえば、低級な魔物でしかないのだ。
なおソルジャー・アントは大きさにばらつきがあるのだが、大きいからといって強くなるわけでなく。
赤よりも、黒に近いほど強くなる傾向が伺える。
「ふぁ~~あ、出番が無くて退屈ですわ……。ぼうっとしてないで、アンタも短剣でも持って戦いなさいよ」
「な、何を言ってるんですか、メリエベーラさん……。私なんかが前に出ても……」
非戦闘員であるサーラが参戦したところで、餌になりに行くようなものである。
たとえヴァイスと同じ装備を身に着けていたとしても、それは変わらない。
それにメリエベーラは気が付いていないかもしれないが、気絶する前よりも、ヴァイスは明らかに強くなっていた。
サキュバスが掛けた
それ以上に、槍の扱いにぎこちなさは在るも、複数の敵に囲まれても慌てること無く。
即座に状況を判断し。最も安全な防御態勢とりつつ、同時に最適な攻撃をしかけていた。
これまでには、無かった戦い方である。
戦闘経験がないサーラであっても、この2ヶ月間、彼の事だけを見守り続けて来ただけに分かる違い。
一方のメリエベーラは退屈しすぎたのか、背中から羽を生やしていないのに、空宙で横になりくつろいでしまっている。
確かに今のヴァイスの戦いぶりは危なげがないが、ダンジョンに潜っているいじょうは、常に危険と隣り合わせである。
「あ、危ない……。ヴァイスさん、上です!」
今もヴァイスは3体の大型ソルジャー・アントに囲まれて善戦しているのだが。
いつの間にか天井に這い上がった、小型で真っ黒なソルジャー・アントが、息を潜めて攻撃のチャンスを伺っているのだった。
・=・=・=・=・=・=・=・=・
聖女の独り言。
「こんばんはサーラです」
「私は戦えないので人の事を言えませんが」
「それでもメリエベーラさんには、もう少し緊張感を持って欲しいと思うのです」
「それに、もし飛んでいるところを誰かに見られたら、どうするつもりなのでしょうか?」
「あと不謹慎ですけど、やっぱり戦っているヴァイスさんの後ろ姿は素敵だなと……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます