第10話 悪魔誕生の秘密
「そういえば、メリエラ。お前ならこの指輪の事、何か分かるんだじゃないか?どうしても外れないんだよ」
ひとしきり愛の抱擁を終えたヴァイスは振り返り、荷台でいじけている見た目だけは妖艶な美女に話しかけた。
今は大人しくコウモリの翼と尻尾を隠し、魔法使いらしく黒いローブを纏い。
つばが広い三角帽子までかぶっているものだから、さながら魔女である。
「魔法の道具のようですけれど、エンチャント系は専門外ですわ」
顔も向けずに、いつになく不機嫌な声で質問には応えてくれた。
「やっぱり魔法の指輪だったか……」
「そうなんですか!私、魔法の道具を初めて見ました♪神様からの贈り物でしょうか?」
ヴァイスが改めて観察し始めた古めかしい銀色の指輪を、隣で座るサーラが身を乗り出し、水色の瞳を輝かせて見つめている。
それが面白くないメリエベーラが、言葉を続ける。
「主様も”ワタクシと同じく”魂の色が見えるのですから、指輪の魔力も見えるはずですわよ?」
勝ち誇った魔女が荷台から、仲の良い二人を引き離そうとする。
実はもう一つ、サキュバスであるメリエベーラと契約した事で、ヴァイスは能力を得ていた。
それは人間の魂の色が見える能力である。
といっても、彼は人間だからか、何となく魂の匂い?を目で見る事が出来る程度である。
何とも不自然な表現だが、色ではなく匂いとして、鼻ではなく目が感知するのである。
例えば、ベレットとの関係に嫉妬するどころか、彼の事を尊敬の眼差しで見つめてくれているサーラの場合。
朝一番でもぎ取ったレモンの様な、爽やかで透明感のある匂いがする。
それと性懲りもなく、彼の腕に抱きついて来たサキュバスの場合は、血の色に染まった薔薇のような香りがする。
因みにその能力は自身には働かないのか、無味無臭である。
しかしサキュバスに言われ、古ぼけた指輪を注視してみると。
確かに苔のような、雨上がりの森を連想させる匂いが漂ってきた。
あと例の行方不明になっている受付嬢の場合は、陽光をタップリと浴びて育ったオレンジのような香りがし。
彼女を連れ去った可能性がある8人組からは、有機肥料を撒いた後の畑だったり、夏場の体育倉庫のような臭いがした。
つまり簡易的な人物鑑定が出来るのである。
意外と役に立つのではないかと、チラッと視線をダークパープルの髪をした魔女に向ける。
「ところでメリエラも異世界から来たと言うのは、悪魔だから誰かに召喚されたのか?」
「何をおっしゃいますか。ワタクシたち悪魔は人間の醜い欲望に導かれて、空から降ってくるのです」
何故か胸を張り、メリエベーラが言葉を続ける。
「ワタクシの場合は”くそっ!なんで顔がいい俺じゃなくて、キャロンはあんなブサイクな男と結婚するんだよ……。こうなったらベンを殺してを俺の女にしてやる!”と怨嗟の声が頭の中に聞こえ、気がついたら夜空から舞い降りていたのです」
「あっ、その話なら私も聞いたことがあります。たしか悪魔は大人の
「残念ね。それは嘘よ。妖精は知らないけれど、ゴブリンはコレから生まれるのよ?」
勝ち誇った様子のメリエベーラが黒いローブの袖から取り出した物は、気色の悪い彩りのマーブル模様をした小石だった。
「まさか魔石から生まれるのか?」
「ええ、正確にはこの欠片からですわね」
そう言い、メリエベーラは魔石を長い舌に乗せ口に含むと、まるで飴玉を舐めるようにしてコロコロと転がしながら味わい始めた。
「お前……まさかそれ、ゴブリンのじゃないだろうな?」
「魔石なんてどれも同じ味ですわよ?カリッ」
ヴァイスの心配をよそに、人間の姿をしたサキュバスが犬歯に挟んだソレを噛み砕き。
「うぇ……、よくそんな物を食べれられるな……」
ゴブリンは新鮮な生肉を好むが、飢えれば仲間の死肉や糞尿すら漁る汚らわしい妖魔である。
その体内に有った物を口に含むなど、考えただけで身震いがする。
しかし、
「あら、ご存じなかったのですね。ワタクシたち悪魔は地上に種を撒き、こうして収穫した魔石で魔力を補充するのですよ?」
「ちょっと待てよ。ならワインとチーズはいらないじゃ……」
地上に
万年金欠のヴァイスにとっては食事代の方が重要であった。
しかもメリエベーラが飲むワインは、どれも高級な物ばかりなのだ。
「ふふふ、野暮な事はいいっこなしですわよ?」
尖った爪を持つ指先で、ツッンと彼の股間をつっつくサキュバスであった。
・=・=・=・=・=・=・=・=・
聖女の独り言。
「こんにちはサーラです」
「大変です。本当にメリエベーラさんはサキュバス。いいえ、悪魔でした……」
「もしかしたらヴァイスさんの大切なタ〇タ◯も食べられてしまうかもしれません!」
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