第4話 思いがけない出会い

 あれは今から2ヶ月前、ヴァイスがこの世界に転生してから1ヶ月後のこと。


 数あるギルドの中から、彼が迷いもせずに選んだのは冒険者ギルドであった。

 冒険者ならば自由に旅をして山登りが楽しめそうだからという、単純明快な理由である。


 とは言え、お金を一切持っていなかった彼は働かなければならず。

 否応なく剣を手に魔物が住む森へ分け入り、薬草などを採取しながら、ゴブリンなどの低級な魔物を狩り生計を立てていた。


 そしてようやくお金に余裕が出来たところで、一番遠くまで行ける輸送の依頼を受け。

 訪れた先で、彼の人生に大きな影響を与える事になる事件に遭遇したのだ。


 目的地のフィコン村は山間にある小さな村で、特産品の山葡萄のワインやヤギのチーズが有名な場所。

 とてものどかで静かな場所だと、彼は聞いてたのだが。


 ヴァイスが村に入ろうとしたところで、村人たちが列をなして出てきたのである。


 先頭には真っ白なローブを纏う少女と言ってもいい若い娘が一人。

 両手をロープで縛られて、隣を歩く大柄な男に引き連れられていた。


 その後に、くわやナタを持った男衆がぞろぞろと続く。


 想定外の事に、ヴァイスは呆然と立ち尽くす事しか出来なかったが。

 彼の横を通り過ぎた時の、若い娘の諦めとも取れる微笑みを浮かべた美しい横顔を、彼は今もはっきりと覚えている。


 「ヴァイスさん。早くしないと夕暮れまでにカプアの森に着かなくなってしまいますよ?」

 「ん?ああ、そうだった。ついボーっとしちゃって……」


 しかし今では、背中を向けて着替えていた彼よりも早く洋服を着替えてみせ。

 屈託のない笑顔を向けてくれるようになった。


 出会った頃に身につけていた丈の長い司祭服も持参しているが、冒険に出るときには動きやすいようにと。

 サーラは七分丈のカットソーと膝丈の青いラインに縁取られた白いスカートを着用する。


 そしてクルッと回り、スカートをひらりと広げて見せた若い娘が、物思いに耽っていた彼の顔を下から覗き込む。


 「もしかして、メリエベーラさんの裸を思い浮かべていたのですか?」

 「いやいや、違うって。俺の頭の中はサーラの腰使いで一杯だよ」


 「キャ、も~~朝から恥ずかしい事を思い出させないでください……。先に食堂へ行きますからね」

 「あっ、ちょっと待ってよ~~」


 そして少しぐらいなら、エッチな冗談も言い合える仲になった。


 なんとか革鎧を身につけ終えたヴァイスは、剣を吊るすためのベルトを腰に巻くのを諦めると。

 鞘を掴んで大人の女性になりきれていない少女の後を、大急ぎで追うのだった。

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