第2話 甘やかな窓辺の風
再び訪れた静寂と、長い時を経て。
崖から滑落し死亡した男は、ごくありふれた魔法と剣が存在する世界へと転生した。
カーテンを揺らし窓から舞い込む。穏やかな風に満たされた部屋の中。
朝からベッドの上で、聖女と呼ばれる裸の若い女性と抱き合ったまま、男がおはようのキスを彼女のオデコにする。
朝日を浴びて輝く髪の毛と同じ金色のまつ毛が眩しそうに開く。
「ん、ん。ヴァイ……スさん?ふぁ~~お、おはよう……ございます……」
「おはよう、サーラさん。良く眠れたかな?」
可愛らしくあくびを抑え込んだサーラが、彼の顔を見てニッコリと微笑むも。
自分が彼に腕枕され、しかも裸だということに気が付き。
少女のようにも見える美しい卵型をした顔が、見る見るうちに朱色へと染まっていく。
なお転生した男の新しい名前は、ヴァイス=アイガーである。
生前に登ることを夢見ていた、スイスにある山の名前に由来する。
「はい……、あ、あの……ヴァイスさんにいっぱい愛してもらいましたから。きゃっ、恥ずかしい…………。私ったら……」
うっとりとした表情で問に答えた娘が彼の視線に気が付き、慌てて顔と胸を両手で覆い隠す。
昨夜、うなされているサーラを安心させようと、抱きしめているうちにいい雰囲気なってしまい。
ここは壁が薄い安宿だというのに、ヴァイスは成り行きで最後までしてしまったのである。
二人は付き合い始めて2ヶ月が経つというのに、未だに恥じらいを忘れずにいる。
だから彼は彼で、それとなく彼女の胸元から視線を外すと、照れくさそうにして頬をポリポリと掻いている。
なんとも微妙な空気が部屋に漂い始めた。
なお、今は朝といっても、太陽は通りを挟んで立ち並ぶ家々の屋根よりも高く昇っており。
この部屋にも温かな陽光が差し込んでいる。
しかも開け放たれたままの窓からは、風に乗って雑踏の音までが聞こえて来ているではないか。
しかし直に触れ合った肌からは、お互いの体温がジワジワと伝わり、若い二人の胸にも徐々に熱が帯びていく。
ヴァイスは”このままではまずい”と思いつつも、下半身の
右手をサーラのふっくらと膨らんだ胸へと伸ばしかけたところで、ふと、彼は大切な用事がある事を思い出した。
「あっ、そうだ。今日はカプアの森に行ってみようと思うんだけど、いいかな?」
一方のサーラは、彼が次に取るであろう行動に心の準備を整えていただけに、想定外の言葉を聞かされ大いに慌てた。
実は彼女の指先も、彼の筋肉質の背中に触れようとしていたのである。
急ぎ手を彼から遠ざけて平静を装っているが、顔には動揺が出てしまっている。
「えっ、ええ。私は平気……ですけど……、でもあの森にはヴァイスさんの苦手な、アレが沢山いると伺っています。大丈夫なのでしょうか?」
しかし間近に迫る彼の顔は、裸だというのに真剣な表情に切り替わっていた。
自然と合った視線に、彼女の心も落ち着きを取り戻していく。
「分かってる。でもいつまでも逃げてちゃダメだと思うんだ。この前みたいにキミを危険な目に合わせたくないからね」
「まぁ……ヴァイスさんったら。それでしたら私から特別な祝福を贈りますね。目を閉じてもらってもいいですか?」
細い腰に回された硬い手に抱き寄せられ、サーラは真剣な眼差しで語られた彼の言葉に嬉しそうに微笑んだ。
そして自らも身体を密着させてから寝返りを打った。
ヴァイスの顔が見下ろせる位置まで移動している。
必然と下半身が重なり合う。
「こ、こう?でいいかな?」
「はい。ではそのまま、動かないでくださいね……」
サーラの大胆な行動に戸惑を見せるも、彼が素直に目を閉じた。
それを見届け、彼女も小さく頷くと青い瞳を閉じた。
ゆっくりと、じれったいほどの時間を掛けて、二人の顔が近づいていく。
自分から行動しておきながら、サーラの清らかな白い顔は、先程よりも真っ赤に染まっている。
そして慎ましく閉じられたピンク色の唇から、甘い吐息が漏れ。
二人の距離がゼロになろうとした時。
「アラアラ、朝から随分と見せつけてくれますこと。昨夜はあんなに激しく交わっていたというのに~~、もしかして、まだ、し足りなにのかしら?」
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