第2話 オタクに優しいギャルから殴られる100の方法 その1

 例えば、だ。

 昼休みのランチタイム。3人のオタクが教室の隅でモンハンでひと狩り行こうとしている時、1人のギャルがこちらに向かってきたとして。

「あ!モンハン!あーしもやってるんだ!まぜてまぜて!」

 と一緒に狩りに行くことになったとして。

「えー!!みんな装備かっこいい!!てかみんなランク高!!あーしまだランク4だよー泣」

 と甘い口調でオタクの純心を手駒にとり

「も、もしよかったら、クエスト手伝おう、か?」

「う、うん。俺たちランク上げるの手伝うよ」

「装備強化するのもみんなでやった方が早いよな、うん。」

「えー!!いいの??あーし下手だけど足引っ張らない?大丈夫?本当に下手だよ?」

「だ、大丈夫大丈夫。俺たち結構強いし、な?」

「う、うん。」

「もうストーリーはクリアしてるし余裕」

「ありがとーー!!!みんな優しいね!強くて優しい人結構好きかもー笑」

 みたいな話があったとする。


 もしそんなギャルがいたら、誰だって気になって、そのうち好きになってしまうよね。まして、生まれてこの方女の子に縁の無い男の子には恒星のように眩しくみえる存在だ。


 そんな都合のいい話が、美味しいお弁当を食べているボクの後ろで行われている。


 安達エリカさん。このCクラスの中でも目立つ人物の1人で、ギャルというのが相応しい風貌をした女の子だ。たまにすれ違ったときに香るムンムンとした彼女の匂いと、心を掴まれるようなキリッとした目つき、制服の上から目でなぞってしまうそのボディラインは男という生き物を一時的に獣に変える。そんな魔性の女の子。。。


「…が気に食わない。」

「え?」

「オタクに優しいギャルが気に食わないって言ってんだ。」

「なんでだよ?いいじゃん。理想のギャルって感じじゃん。なにが気に食わないんだ?。あ、ミートボールもらい。」

「おいてめぇ!!返せよ!最後まで取っといたんだからよぉ!」

 入学して2週間がたった今日この頃。高校生活にも少しずつ慣れてきたって感じの日々を送っているボク。そして今一緒に弁当を食べている目の前の男は岡野サトシ。ボクがいなかったらこの学園で主人公になったであろう男。

 色々あったが、この学園でできた初めてのボクの友達だ。

「で?なんで気に食わねぇんだ?今だって暗い連中と一緒にモンハンしてやってすげーいい奴じゃん。…ははーん。まさかお前、あそこに混ざりたいんだなぁ?妬いちゃって可愛んだぷぅ〜」

 ニヒルな変顔で煽ってくるサトシに対しボクは続ける。

「ちげーよ。よく考えてみろよ。安達さんみたいな人がおよそ日陰の連中とも言えるボクら側になんで優しくするんだ?なんの得もないのに。」

「あのなぁ、のりを。本当に優しい奴ってのは損得で優しさを振りまいたりしないぜ?あれが安達さんのありのままなんだよ。そんでお前は歪んでんだよ(笑)」

 ボクが歪んでるかは置いといて、そんな真っ直ぐな目でいいこと言われるとなんだかボクが悪いこと言ってるように思えてくる。

「でもあれは、なんか少し違うだろ。あれはゴミをわざわざ投げ捨ててから拾ってゴミ箱に入れるような優しさじゃないか。わざわざ作るもんじゃないだろ、そんなの。」

「んー何言ってるかよくわかんないけど、考えすぎじゃないか?綺麗なものの裏側を見ようとしすぎだ。ったく捻くれてるのもほどほどにしとけよ?」

 そう、なのかもしれない。

 サトシは正しいことを言う。間違ったことは言わないし、信じることを疑わない。だからこいつに主人公の席が与えられていたのかなと思った。

 でもなあ。世界はいつも正しくて間違いなんて一つもない、なんてことはないと思うんだ。ボクは疑うことを疑わない。正しさが本物の正しさであるために。

 だからボクらは少し似ていて、決定的に違う。

 


 帰りのホームルームはいつもより少し長引いた。

「えーとですね。生徒会役員の募集のお知らせが届いてま〜す。皆さんはまだ一年生ですが生徒会に入ることはできますよ〜。立候補したい人はこの後先生に言いにきてね〜」

 小さな身体をゆらゆら揺らしながら石川先生がふわふわとした口調で語り出したのは生徒会役員についてのことだった。

 この学園の生徒会は、まぁ皆さんの想像通り、この学園での様々な権限が与えられている。『業務上のやむを得ない場合での学校の宿泊に、1000千万単位の予算処理。たとえ授業中でも生徒会の運営とあらば教室を退室しても構わない。』等、知っている限りでも夢のような話ばかりだ。こいつらほんとに高校生か?


 話が終わり、帰る準備をしていると、サトシがこちらに向かってきた。

「おーっす」

「ういー」

「俺生徒会立候補しよっかなー。」

「がんばれサトシがこの学園をより良くしていくことを心から応援するよ」

「まてまて、冗談だっての。ったく、俺が生徒会なんか入れるわけねーだろ?」

「そうだな、当然っちゃ当然だ。主人公が生徒会に入ってるケースは少ないからな。」

「なに言ってんだのりを…。でもいいよなぁ〜。噂じゃ生徒会室にはテレビやパソコン、冷蔵庫にシャワールームまであるらしいじゃねぇか。学校にしちゃやり過ぎだろ、なぁ?」

 同意だ。それほど、この学園は生徒会に厚い信頼を寄せているということでもある。

「まぁ選ばれるのは各学科のエリートって話だ。秀でた才のない俺たちには夢物語ってなもんだ。普通科で選ばれるとしたら、まずAクラスの誰かだろうな。」

 そんな話をしていると先生のもとに安達エリカが近づいていく姿が見えた。まさか立候補する気なのか。さすがのギャルでも生徒会に入るのはボクたちでは困難なことくらいわかっているはず…。一体どうするつもりだ?



——狙うは生徒会の一座??

次回、オタクに優しいギャルから殴られる100の方法その2———

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