第1話 ありふれた入学式
4月。桜の季節。
…まぁボクの通学路に桜の木はないのだが。
そして出会いの季節。
どの曲がり角を見ても遅刻した女学生がパンを咥えて男と衝突している。
入学式の時期には毎年恒例の見慣れた風景だ。
曲がり角で立ち止まればどこからともなく女学生が飛び出してくるんだからおもしろいものだ。あ、ほらまたあそこでぶつかった。
「あ」
今チラッと見えた薄桃色は今日という日を最良のものにしてくれることだろう。幸せとは青い鳥ともう一つはピンクの下着なのだ。
見慣れた光景は他にもある。例えば、長い高級車に乗ってボクを横切ったのはおそらくどこかのお嬢様だろう。遅刻に対して、早々に登校する新入生もいることだろう。
あなたが想定する入学式という日によくある光景は全て起こり得る。
そんな退屈な世界。
そんな世界へのできる限りの抵抗を決意したボク、只野のりをは今日から晴れて高校生だ。
「…やっぱでかいなぁ」
校門の前まで来て少し立ち止まる。
今日からボクが通うここ、国立万英学園は5年前に設立された新設の高校だ。
この高校には一般的な普通科の他に、留学生や帰国子女なんかが在籍する国際科、音楽や美術を学ぶ芸術科、運動部の主戦力が多く在籍するスポーツ科の4つが存在する。
「この馬鹿でかい綺麗な校舎が通常棟で、隣接してる校舎が芸術棟だな」
RPGのダンジョンでマップを埋めていくように、事前にもらった案内用紙を片手に場所を確認しながら目的の場所へ。目指すは普通科のCクラスだ。
ボクは入学式の日が割と好きだ。教室を開けると知らない顔ばかりで、やけに窓の外が気になる。既に友達を作って談笑している奴らの声はやけにでかく聴こえる。緊張しつつもワクワクしている。もしかするとそれは表裏一体なのかもしれない。
「はーい、じゃ次は……只野くん。」
「はい。」
「只野、只野のりをです。えと…みんなと仲良くしていきたいです。よろしくお願いします。」
簡素な拍手が添えられた。自己紹介っていつまでたっても慣れないんだよなぁ。正解とかテンプレはあるんだろうけど、そもそも、自分を晒け出すのが苦手な人もいるだろう。
そういう奴は入学初日の段階で華々しいグループには属せないことが確定していると言っていい。涙拭けよ。。
しかし、例外は存在する。
例えば、窓側の1番うしろの彼。たしか岡野と言ったか。髪は無造作だが整った顔立ちに前髪の隙間から窺える綺麗な瞳。頬杖をつき、窓の外を眺めている。ああいうのはなにも特別なことをしなくたって自然に人が集まるように設計されている。
頭のてっぺんから足のつま先までいかにもな窓際主人公って感じを醸し出している。
おそらく今彼の頭の中では
『平凡な日常、退屈な毎日。そんな日々がこれからも続くと思っていた。そう、今日この日までは……』
みたいなライトノベルの冒頭の語りが繰り広げはじめているにちがいない。
半年後にはどうせ美少女たちとほろ苦いラブコメ始まってんだろ?そういう奴を沢山みてきたから知ってんだわ。
なんで主人公みたいな君たちはみんなみんな陰キャの皮を被ってるのかね。はー。
女の子と話す時、強気な態度とったり?やけに美少女とのエンカウント率が高かったり?モブ男のボクたちの気持ちも考えて欲しいよね。ほんと。
はーい!今から美少女と出会った時の本来のあるべき姿再現しまーす。
「あ……あ………」
これよな、普通。自分でやって悲しくなったわ。なに一人で盛り上がってんだろ。
やはり、入学式の日は浮かれずにはいられないんだろうか。誰だって。ボクだって。心の底では期待やめられないね。
全員の自己紹介が終わり、体育館へ入学式に向かう。
なにはともあれ今日からボクの、ボクと個性豊かなメンバー達との学園生活が幕を開けるんだってばよ!!
話の最後は"本当の"主人公がバシッと決めるって相場が決まってるのさ!
——次回、のりをにまさかの恋の足音??
オタクに優しいギャルから殴られる100の方法—
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