只野くんのテンプレみたいな世界

ふみん

第0話 世界を革命する力?

 「卒業式の後、あの樹の下で待ってます。」

 中学の3年間、同じクラスだった藤坂詩織ちゃんはそう耳打ちし、遠ざかっていった。


 ボクの名前は只野のりを。15歳。

 え?ああ、わかってる。そこに行けば君たちの思ってる通りのことが多分起こるんだ。


 式の後、ボクは覚悟を決めて彼女の元に走って向かった。校内のいくつかある木の下に彼女の姿が目に入った。青い制服に赤い髪、黄色のカチューシャetc…

 間違いなく彼女だ。ボクが近づくのと同時に彼女もこちらに気がついたみたいだ。

 

「ごめんなさい。こんなところに呼び出したりして。今日、あなたにどうしても——」

 ダッシュで来たから疲れて話があまり入ってこない。でも、何を言ってるのか、これから何を言おうとしてるのかはおおよそ予想がつく。

 「——だから、勇気を出して言います。あなたのことが」

 「ちょっとまって。」

 赤面しながらもじもじしている彼女の言葉を遮り、ボクは続ける。

 「ボクからもずっと言いたかったことがあるんだ。」

 彼女は照れながらも、コクリと頷き、言葉を待っている。覚悟はもうできている。ボクは口を開いて告げる。


 「お決まりのシチュエーションか。」

「え?」

「お決まりのシチュエーションかって言ってんだ!なんだ君のその見た目!その口調!どっかの恋愛シミュレーションゲームの正ヒロインかよ!」

「ちょ、ちょっとどうしたの只野君。なんだかいつもと様子が…」

「なんだこの樹は!どっから用意したこんなもの!昨日までなかっただろ!?」

「これは昨日植えて…」

「昨日今日でこんなでかい樹に成長するわけないだろ!むらびとの下Bか!」

「この樹の伝説もつくったのよ。」

「伝説って???」

「あぁ!!…じゃなくて!卒業式の日、この樹の下で女の子から」

「告白して生まれたカップルは永遠に結ばれるんだろ!誰だって知ってるよそんな伝説!てかつくったって言っちゃってるし」

「あらまぁ!」

 なんでわかったのみたいにこっちを見る彼女。


「だいたいボクはずっと我慢してたんだ!毎日毎日イベントみたいな日々を君とこなして予想通りのことが起こる毎日!正直君が今日この卒業式の日に呼び出すことなんて2年生の後半くらいから予想ついてたんだよ!」

 

 溜まりに溜まった思いをそのまま叫び続けた。

「大体君だけじゃないよ!なんなんだこの世界は!どこもかしこも死ぬほど見てきたテンプレみたいな人!街!出来事!もううんざりだ!」

 詰まっていたものが流れていき、少しすっきりした気がした。


「どこで経験してきたのかは知らないけれど、それのどこに不満があるのよ。」


 不思議そうな顔で問う彼女の瞳は少し不気味に映った。確かに、不満なんてないかもしれない。頑張ったらその分だけ報われて、可愛い女の子に告白されて、充実した毎日で、側から見れば幸せそのものだ。でも、そんなのって…

「もう、うんざりなんだ」

 そう告げてから、ボクは振り返ることなく校門へ向かった。

 賑わう学校を尻目に帰路につく。

 来月から高校生か。されどこんな日々はこれからもまだ続いていくのかと思うと溜め息も抑えられない。

 特に高校生活なんて1番想像に容易い、テンプレの宝庫じゃないか。


 どうせ美少女がいる、イケメンがいる。いっぱい部活があって、そんなことも許されるのってくらい生徒会の権力がデカくて、個性豊かな生徒や生徒が沢山いて、文化祭や修学旅行などの特別行事はとっても華やかで、ドタバタ騒ぎで……

 なんだか、全部知ってるみたいだな。

 まだ経験してないのに、もうお腹いっぱいになりそうだ。


 今日で最後の通学路、最後という特別感はあまり湧かない。いつもより少し早く帰るだけ…と思っていたが見慣れないものもある。

 黒いランドセルを背負った少年が石を蹴りながらやってきた。小学生は下校時間か。いつも見ないわけだ。


 どこにでもいる小学生だけど。

「ちょっとはよかったかな。」

 ほんの少しだけ日常が特別なものになった気がした。


 あぁ、これからこの少年は石ころをどっかに蹴り飛ばして、それが雪だるま式に事が大きくなっていくんだろう。いわゆる、バタフライエ…いや、やめよう。いかにもテンプレでうんざりする名前だ。おい、シュレディンガー。お前にも言ってるんだぞ。


 石が足元に転がってきた。

 このガキもいきなり転がんねぇかな。そしたら、ローリンボーイってタイトルでボカロ曲にしてやろう。うん。


「お兄ちゃんどいてー」

 少年に言われてボクは道を譲……らない。

 

 仮にもボクは卒業生だ。今日という日は多分結構偉いよな、うん。てか我中学生ぞ?君小学生ぞ?道開けるのは君の方では?ん?

 訳のわからん自信が湧いた。なんだってやってやれるような、そんな自信が。


 ボクは足元の石を拾い上げ、近くのドブに放り投げた。


「なにすんのさー!!!」

「すまん、手が滑った。」テーンテーンテーンテ–ンテーン‼︎

「投げたじゃん!もー!せっかく学校からここまで初めて来れたのに!」

 超次元サッカーで学んだ渾身の言い訳は通じなかったようだ。

「いや、蹴りながら避けれないお前が悪い。鬼道くんなら避けれる。もっとドリブル練習しな。」

「誰だよそれ!意味わかんないよ!」

 ニヒルな笑みを少年に向けてボクは走り出す。


 

 わーきゃー騒ぎだした少年が見えなくなってから再び歩き出した。

 なんだかとても清々しい気分だ。

 少年にいたずらしたっていう快感なんかじゃない。


(今、ボクはありきたりなテンプレをぶっ壊したんだな)


 転がるはずの石をボクは投げ捨てた。

 その先に起こったのは未知のもので、きっとボクとあの少年だけの新鮮なものだった。


 突然、藤坂詩織の顔が思い浮かんだ。

 誰もが見知ったような告白を遮りあいつに思いの丈をぶつけてやったあの時も、ちょっとだけ気が楽だったな。


 ありきたりで、どこかで見たことのあるような、そんなテンプレみたいな日常を抜け出して——まだ、誰も知らない日常を求める、ボクの戦いはこれからだ!(※俺たたじゃないよ)



 次回 只野くん高校生編(本編)へ!

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