第47話 数年後——……そして僕らは
あの日、ユウとシウが再会してから5年の歳月が流れた。
それまでの道のりは決して平たんではなかったが、今では未知さんの後を継いでシウと共に経営に携わっている。
そしてシウとの間にも子供に恵まれ、もうすぐ1歳になろうとしていた。
生まれた頃はハゲチャビンで心配したが、今では赤ちゃん特有の細くて茶色い髪が愛しい。
両家のジィジとバァバに愛られ、幸せいっぱいな日々を皆で分かち合いながら過ごしている。
「
「あちゃちゃ? あばぶぅ?」
マシュマロのように柔らかいぷにぷにの肌。ウチの子が世界一可愛い……。
「ユウも準備してよ? 今日は久々に雪村さんや水城さん家族に会うんだから」
「うん、すごい久しぶりなんだよね。特に水城。久しぶりに連絡もらった時はビックリしたけど」
「まさか瀬戸の彼女とイトコ同士だったなんて。瀬戸から話を聞いた時はビックリしたね」
「しかもそのお姉さんと結婚だし。水城と瀬戸くんが義理の兄弟とか、スゴい変な感じだよ」
その水城の子供も3歳になったと聞いた。
あんなにシウに熱を上げていたのに無事に結婚したことも驚きだったが、その子供が未熟児で生まれて色々と大変だったこととか。募る話もしたいと思い、雪村経由で声をかけたのがきっかけで集まることになったのだ。
「雪村のところも子供が生まれたし、みんなママパパになったんだよな」
「和佳子の赤ちゃん、蒼ちゃんでしょ? まだ生まれて4ヶ月なのに目鼻立ちがくっきりしててイケメンだし。将来が楽しみだよね」
「いやいや、将来で言えばウチの美羽が一番楽しみだよ。何たってシウに似ていて綺麗な顔立ちしてるからね」
黒目が大きな瞳が、ジィーッとユウを見つめている。薄い髪を隠すように大きいリボンのついた帽子を被っている姿がとても愛しい。可愛い、間違いない。
その瞳に吸い込まれるように抱きしめて、思う存分頬擦りを始めた。
あぁ、この瞬間が一番幸せかもしれない。
「もうパパ、いつまでも美羽とイチャイチャしてないで、早く行くよ?」
夫婦で愛する子供の成長を見届けられることが、どれほど幸せなことか。彼女と共に
「あ、永谷先輩! お久しぶりッス! もしかしてこの子が先輩とシウちゃんの子供ッスか? スゲェ可愛い!」
今日は小さい子供が多いので個室を予約したのだが、先に到着していた水城親子と雪村親子が
自然と顔が綻ぶ。この空間にはマイナスイオンが漂っているに違いない。
「永谷、顔が緩みすぎ。幸せだからって締まりない顔ばかりしていたらシウさんに愛想尽かされるぞ?」
「は? いや、僕だけじゃなくて皆もそうだろう?」
「まぁー、そうっすね! 俺も子供が生まれてからは人生観が変わったというか。全てが子供と嫁中心っすもんね」
水城は自分に瓜二つの粋くんを抱き上げながら、妻の胡桃さんと一緒に挨拶に来た。あの遊び人だった水城を更生させた強者だが、優しそうで奥ゆかしい印象を受けた。
「主人から色々お話は伺っています。勝手にライバル意識燃やされて大変だったんじゃないですか?」
「え、そうだったんですか? 全然そんな素振り感じなかったけど」
確かに当時は小馬鹿にされたり、ことあるごとにケンカ腰になられて大変だったが、水城がそんな目で見ていたなんて思ってもいなかった。
「先輩は俺のことなんて眼中になかったですもんねー。まぁ、今となってはいい思い出ッスけど」
「たしかに永谷ってそういう鈍感なところがあったよな。僕も同期として永谷を意識していたし。ちょっと水城の気持ちが分かる気がする」
話に乗ってきた雪村にも驚かされた。むしろユウの方が雪村に憧れていたくらいだったので意外だった。
つくづく人ってない物ねだりだと思い知らされる。それぞれが幸せを手に入れたからこそなくなった嫉みなのだろう。
少し離れたところでお互いの子供達を対面させている母親達に目をやった。楽しそうに遊ぶ姿に表情筋が緩む。子供が生まれてからというもの、涙腺が緩んでしまって仕方がなかった。
「あ、そういや永谷先輩も雪村先輩も瀬戸くん知ってるんッスよね? 実は瀬戸くんも俺のいとこの寿々ちゃんと結婚して、子供産んだんッスよ?」
「え、そうなんだ。んじゃ、シウの同級生は出産ラッシュなんだ」
「うん、そうっスね! ちなみに男の子で
その時、ユウの背筋にゾクっと……冷たいものが這った気がした。
何だ、このぞわぞわと襲う不安な気持ちは。
「何気に親同士が仲がいいから、子供達も自然と仲良くなりそうだよね。うちの奥さんも育児のこととか、シウさんや胡桃さんに聞きたいって言っていたし。できればこれからも定期的に集まりたいね」
「分かるッス! 俺も家族ぐるみで集まれるのって助かるんですよねー。粋も楽しそうだし、集まりましょう!」
うん、それは良いと思うんだけど……。
ユウは正体不明の胸騒ぎを抱えながら、美羽に視線を向けた。
この世で一番可愛い、命よりも大事な目に入れても痛くない愛娘——そんな美羽に仕切りにペタペタと触る粋くん、そしてキャッキャと愛想を振りまく蒼くん。
おいおいおい、そんな小さいうちからもう
おい、粋くん! そこはほっぺじゃない! もう唇だ!
「僕ですら口にチューは禁じられているのに、やめろ! ダメだ、大事な美羽の唇は何人たりとも渡さないぞ!」
娘の貞操を守る為に、慌てて抱き上げた。
ふぅー、やはり水城Jr.、油断ならない。
「——いやいや、先輩ー……子供同士の戯れにムキになってどうするんっスか? 今からそんなに溺愛していたら先が思いやられますよー」
いやいや、だって口にチューだぞ?
ユウは助けを求めるようにシウに視線を向けたが、彼女も愛想を尽かすように苦笑を溢していた。
『えぇー……? もしかして僕だけなのか? この状況を危惧しているのは』
だがユウの予想は的中しており、十数年後には美羽を巡る激戦が繰り広げられることとなる……。
そしてその度にユウの胃には穴が開くほどのストレスが襲いかかるのであった。
「可愛い娘を持った男親の宿命だね? パパ、美羽を守る為に頑張らないと」
意地悪に笑うシウにユウは涙目になりながら嘆いた。愛娘はとても可愛いのだが、可愛すぎるのも問題だ。
「え、皆で集まる度にこんな思いをするのか? 待って、待って、待って? 今から不安で仕方ないんだけど?」
「きっと瀬戸と寿々さんも集まるから、もう一人彼氏候補が現れるね」
「はは! 仕方ないよ永谷。それにしてもウチの蒼と粋くん、桜羽くん。誰が美羽ちゃんのハートを射止めるのか楽しみだね」
そんなこと認めるわけがない! 美羽の貞操は一生守る!
「アハハハー! 永谷先輩、もうウッザイ父親になってるじゃん! マジで先が思いやられるっスね!」
「るっさい、水城! お前達にどう思われてもいいよ! それでも僕は美羽を守る続けるって決意したから!」
四面楚歌に陥って身動きが取れなくなった父親を想ってとった行動なのか。ユウの顔をペチペチしていた美羽がパパの頬にチューっと唇を押し当ててきた。
「パンパ、ばぶぅ♡」
可愛すぎる……! その光景を見ていた者、皆が美羽に心を奪われていた。流石、シウの子供……一歳にしてすでに小悪魔だ。
「美羽……! パパも美羽のことが大好きだ!」
「もう美羽、パパはママのなのよ? いくら娘と言え、ユウのことは渡さないわよ!」
そんな永谷家の騒動を見ながら、幸せだなと思う一同であった。
・・・・・・・・・・★
「平和過ぎるエンド。ユウ、シウ……そして皆。末長くお幸せに!」
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