LAST STORY 僕らは夢を見ていた

 その日、僕は不思議な夢を見ていた。

 僕が大学生の時に両親が亡くなって、それからイコさんとシウの三人で暮らすという摩訶不思議な夢だった。


 その夢ではイコさんと未知さんは結婚していない上にシウもそっけない態度で冷たくて、三人とも一緒に暮らしているくせにろくに会話も交わしていない……それぞれが大切な何かを失いながら生きている状況だった。


 だが、最終的には僕とシウは結ばれ、やがて双子の娘を授かって幸せな日々を過ごしていた。



「……ユウ、どうしたの?」

「——え、いや……。少し変な夢を見たんだ」


 シウに心配されて目を覚ましたユウだったが、しばらく経っても頭がボーッとして変な感覚が襲っていた。まだ夢の中にいるような不思議な心地が続いていたのだ。


 夢に出てきたシウは自分の知ってるシウとは別人で、どこか冷めている雰囲気を漂わせていたけど、それはそれで守りたくなるようなか弱さがあって愛しさが込み上がっていた。思い出しただけで顔がニヤけてしまう。


『明るくて嫉妬深いシウも可愛いけれど、憂いを秘めたシウもよかったな……』


「……何? 何かやましいことを考えてる?」

「い、いや! そんなことは!」


 同じシウなのに誤魔化すなんて変だが、勘付かれないようにユウは目を逸らした。


 しかし夢の中とはいえ、解せないことも複数あった。それは自分の夢だと言うのに長い間童貞だったことだ。しかもイコさんと夫婦生活を送っておきながらだ。

 夫婦でありがなら性行為がなかったって、どういうことなんだ?

 夢の中の僕らは何の為に一緒に住んだんだ?


 しかも結婚していたと見せかけて、実は婚姻届を提出されていなかったとか、隠れて未知さんとデキていたとか。

 夢の中の自分、お人好しにも程があるだろう。怒れよ、どうせ夢の中なんだから……。


「まぁ、ありえないことが起きるのが夢だからな。仕方ないか」


 そんなことが現実に起きたら死にたくなる。夢で良かったと安堵しながらグッと背伸びをし、そして隣で寝息を立てている愛する娘、美羽の頭を優しく撫でて表情を綻ばせた。


「……やっぱりどんな状況であれ、の自分達が一番幸せだな」


 眠っている美羽を抱き上げて、そのままキッチンで朝ごはんを作っているシウのところへと向かった。

 エプロンを着けて家族の為に支度をしている後ろ姿が愛しい。


「あ、ユウ。今日の朝はご飯がいい? それとのパン?」

「んー……今日はパンにしてもらおうかな?」

「はーい、了解。それじゃご飯の支度をしている間に美羽の支度をしてくれる? お願いね」


 まだ僕の腕の中で夢の世界を楽しんでいる美羽を抱えながら、シウの隣へ向かった。彼女は怪訝な顔をして「邪魔なんだけど」と不機嫌に言葉を呟いていたが、聞こえないふりをして愛しい彼女の頬にキスをした。


「ん……、何、急にどうしたの?」

「ううん、ちょっとね。シウ、これからもよろしくね」


 そんな僕の行動を最初は面倒そうにしていたシウも、コンロのスイッチを切ってキスを続けて抱きしめ合った。

 こうして僕らは今の幸せに感謝しながら、屈託のない笑みを交わし合った。


 きっとこれからも、ずっとずっと……共に生きていく。僕らはずっと共に歩み、生きていくのだろう。 



・・・・・・・・★ END


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