第45話 羨ましい!
「ほぇー……っ、それじゃシウは高校卒業したら結婚するの?」
「んー、今のところは婚約中かな? 資格を取るために大学にも行きたいし。でもねー、ユウに仕事を覚えてもらう為に実家に泊まってもらってるからほぼ結婚してるようなものなんだけどね?」
——結婚じゃないけど。親御さんも一緒だから同棲でもなく、同居が正しいと思うけど。
久々に雪村と和佳子さんと一緒にご飯を食べに出かけたのだが、ほぼシウと和佳子さんの女子トークばかりだった。話についていけないユウと雪村は苦笑しながらコーヒーを啜っていた。
「ところで和佳子と雪村さんはどんな感じですか? お付き合い始めたと聞きましたが」
思う存分惚気たシウは付き合いたての二人に話を振ったのだが、想定外な言葉にカウンターを喰らうことになった。
「あのね、実は……私と雪村さんも高校卒業したら同棲しようかなって話をしてたんだ」
「——え? ど、同棲?」
「永谷とシウさんに比べたらゆっくりだけど。ほら、仕事をしていると中々時間が合わないから。この前、和佳子ちゃんのご両親に挨拶をした際にお願いしてきたんだ」
初々しい雰囲気の漂う二人のことだから中々進展しないんじゃないかと心配していたが、報告を聞いてホッとした。
何よりも人間不信になっていた雪村が穏やかな表情をするようになったことが嬉しかった。
「部屋はどうするん? もしかして雪村の部屋に一緒に住むの?」
「いや、僕の部屋ってワンルームだから2LDKの部屋を借りようかなって見学に行ってるよ。和佳子さんの短大と僕の職場の間くらいかな?」
「中々希望の部屋が見つからなくて焦ってるんだよねー。って、あれ? シウ? 大丈夫?」
妙に静かだと思ったら、シウはポカーンと口を開けたまま固まっていた。何、どうしたのだろう?
「ず、ズルい! 羨ましい! 二人きりの同棲とか私もしたい! 私もユウと新居探しとかしたい!」
さっきまで自信満々に威張っていたシウが駄々を捏ね始めた!
いや、何を言っているんだ? そんなの無理に決まっているじゃないか。あまりのワガママっぷりに和佳子さんも雪村も呆れて黙り込んでしまった。
「だってユウ! イチャイチャするたびにお父さんとお母さんに気を使わないといけないし、何よりも楽しみがない! いつも夜はお父さんの晩酌に付き合わされるし、ご飯だってお母さんが作っちゃうからユウに手料理披露できないし!」
「ご飯は作れるんじゃないか? シウが面倒くさがって作らないだけだろう?」
「ちーがーうー! 私はユウの為に作りたいの! 一緒に買い物して、一緒にご飯作って『シウ、とっても美味しいよ』って褒められたりしたいの! 羨ましいー! 私も和佳子達みたいにイチャイチャ同棲したいー‼︎」
見た目は大人になったと思っていたシウが、こんな子供っぽい一面を見せるなんて珍しいと思っていた。確かにいきなり同居はユウもキツいとは思っていたが、未知さんが完治していない今、イコさん一人に看護を任せるのは気が引ける。
「でも、きっと同居したらずっと一緒に住むことになると思う! 一生ユウとは二人暮らしできないかも⁉︎」
そう言われれば……そうなのかもしれない。だが今更同居をやめて二人でどうせいしますなんて言えない。言えやしない!
「……何でコントみたいなことをしてるんだよ。シウさん、永谷と一緒に過ごす機会は沢山あるんだから大丈夫だよ」
大人の余裕を醸し出して宥める雪村にユウも心の中で声援を送った。きっと自分が言ったところで火に油を注ぐようなものだ。頑張ってくれ!
「……でも実家ですよ? 四六時中親がいるんですよ?」
「その分、たくさん旅行とかしたらいいんじゃないかな? 親御さんに宿泊券をプレゼントしてもいいし。いくらでも方法はあるよ」
確かに実家だとお金が溜まりやすいから、そういう楽しみ方もありだ。
「それに今、駄々を捏ねて親の印象を悪くするよりも、いい子にしてたほうが色々と上手くいくと思うよ?」
「色々って……?」
意味深な笑みを浮かべて「色々だよ」と誤魔化した。そこは想像にお任せしますと言ったところだろうか?
満更でもない感じに落ち着き出したシウを見てユウ達は胸を撫で下ろしたが、ここで再び和佳子ちゃんが無自覚に甘え出してきた。
「えー、いいなー。雪村さん、私も旅行行きたい! 色んなところに一緒に行きたい!」
「そんなの当たり前だよ。僕も和佳子ちゃんと一緒に行きたいところがたくさんあるからね。とりあえずはネズミーランドに行きたいね」
しまった、自分達はまだ旅行らしい旅行をしていないし、そんな約束もしていない。恐る恐るシウに視線を向けると、またしても頬を膨らませて不機嫌になっていた。
「ユウ! 私も和佳子達みたいにデートとか旅行とか行きたい‼︎ 」
「で、でもシウ! 今、色々と大変な時期だし、中々時間が合わないから僕らは!」
「もぉ———っ! 何でユウは雪村さんみたいにスマートにしてくれないの⁉︎」
そんなことを言われても、元々のスキルが違いすぎる!
雪村みたいにモテる男と比べられても困るのだ。大体、そんな気遣いができれば、シウとももっとスムーズにお付き合いできたはずなのだ。
「いやいや、仕方ないよシウさん。永谷は見た目はイケメンだけど残念ってところが良いところなんだから。これで気遣いまでできたら嫌味だよ?」
「そうそう! 雪村さんみたいにデキる男だと心配が絶えないよ?」
和佳子ちゃん、さり気なく惚気るのはやめてくれないか?
それに雪村も、褒めているようで褒めてないから。それ、全く良いところじゃないから。
「むぅ……っ、まぁ、ユウがモテ出したら困るから我慢するけど。でも少しは私のことも考えて欲しいな……。せっかく好きだった人と付き合えることになったんだから」
「シウ……!」
——しかし、和佳子ちゃんには散々惚気過ぎって言ってた割には、一番惚気ているのはシウだよな……と、心の中で呆れながら話を聞いてたユウ達だった。
・・・・・・・・・★
「和佳子さん、シウと友達でいるのって疲れない? あんな理不尽な怒られ方をして」
「え、そうですか? シウって素直だから一緒にいて楽ですよー! 私はシウのこと大好きです♡」
「良い子! めっちゃ良い子! シウ、お友達は大切に!」
惚気大会でしたねw
水城の話との落差が激しい!
さぁ、次は誰の話を書きましょうか?
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