第42話 実家、再び……
それからしばらくして、ユウ達は実家に帰省して両親に挨拶へ出向いた。
シウはユウの親に色々と相談をしていたから、それとなく勘付いていると思っていると話していたが、内心は穏やかではいられなかった。
ある意味、守岡夫妻に報告をするよりも恐い。
「ユウ、大丈夫? 顔色が悪いけど?」
「う、うん……大丈夫」
嘘だ、全く良くなかった。
昨日からまともに食事も喉を通らないし、考えただけで頭が痛くなる。
せっかくの喜ばしい報告だと言うのに、前についた嘘のせいで幻滅させてしまったらどうしようと、後悔ばかり襲いかかっていた。
そんなユウの手を包むように重ね、シウは微笑んだ。
「大丈夫、おじさんもおばさんも、そんなことで幻滅するような人じゃないから」
頭では分かっている。分かっているんだけれども。そう言ってシウは玄関の引き戸を開けた。シウの明るい声が実家に響き、そして母親が慌ただしく玄関に駆けてきた。
「ユウ、シウちゃん……! あら、思ってたより早かったわね。寒かったでしょう?」
久々に見た母の顔はいつものように優しくて、さっきまでの気持ちは杞憂だったと思い知った。込み上がる感情に、思わず顔が歪んだ。
「母さん、僕——」
「うん、いっぱい話を聞かせてね。奥でお父さんも待っているわ。二人が帰ってくるのを楽しみにしていたのよ」
何だろう、安心した瞬間に目頭が熱くなって涙が滲んで堪えきれかった。そんなユウの背中を優しく押して、シウは先に部屋の中へと入っていった。手を差し伸べるその笑顔に胸が締め付けられる。
「ユウ、行こう」
つくづく自分にとってシウは、かけがえのない存在だと感じた。きっと嘘を吐いたままだったら、両親に合わせる顔もなかったし、喜ばせることもできなかったかもしれない。
ユウはシウの手を取り、つられるように歩き出した。
「——ってことで、僕はシウとお付き合いをしていて、結婚することになりました」
母親がお茶を淹れて一段落した際に、二人は改めて交際を報告した。予めシウから聞かされていた為、驚きこそなかったものの、嬉しそうに顔を綻ばせて喜んでくれた。
「良かったわね、お父さん! やっとユウに彼女が出来て。しかもシウちゃんだなんて、あぁーもう嬉しいわ!」
「そうだな。ユウ、ちゃんと大事にするんだぞ」
二人はユウの吐いた嘘を追求することなく、ただただ祝福してくれた。その優しさが身に沁みて、余計に涙が込み上がる。
「結婚式は? いつするの?」
「あぁ……一応、半年くらいしてから? まだ式場とかも決まってないから、それ次第かな? 六月頃が未知さんの仕事も忙しくないからって話していたし」
「そうなのね! 嬉しいわね……私達が生きている間にお嫁さんが見れるなんて」
そんな大袈裟なと内心では思ったが、この前の未知さんの事故を考えると人生何が起こるか分からない。元気なうちに願いを叶えるのも、大事なことなんだと考えさせられた。
「そうだわ、ユウ。婚約指輪はもう買ったの?」
「いや、そう言うのは報告が終わってからかなと思って」
「あらあら、そうなの? なら良かったわ」
そう言って母は自室に戻って、一つの指輪ケースを持ってきた。蓋を開けるとそこには大きなダイヤと豪華な装飾が施された指輪が入っていた。
「シウちゃん、もし嫌でなければ貰ってもらえないかしら? これは私がお父さんからもらった永谷家の指輪なの」
そんな指輪があったなんて、知らなかった。今まで母は大事にしていたであろう指輪をユウに渡して託した。
改めて結婚とは家族の繋がりが増えることなのだと、重さを感じる。
「おばさん……じゃ、なかった。お母さん、お父さん……ありがとうございます。指輪、大事にします」
「うん、ありがとう。シウちゃん、ユウのことをよろしくね。二人で幸せになってね」
ユウはシウの左の薬指にはめて、幸せを噛み締めていた。
「ユウ、お前も頑張るんだぞ。これからはシウちゃんと一緒にマメに帰って来なさい」
「そうだね。父さんと母さんに会いに帰ってくるよ」
親を安心させてあげることが何よりも親孝行なのだろうなと胸に刻みながら、シウに笑かけた。
この笑顔を守り続けたい——……。
そう思いながら、ユウ達は幸せな日を過ごした。
・・・・・・・・★
「でもシウちゃん、大丈夫? ユウったらちゃんとしてる? ずっと彼女がいなかったから心配なのよね……!」
「お母さん、大丈夫です! その点はしっかりと」
「だぁぁぁぁぁぁ! シウ、親になんてことを報告してるんだ! 母さんも母さんだよ、余計なお世話!」
あぁー……、私……このエピソード泣きながら書いてしまいました。本編では描けなかった話なんです。ユウ、良かったね。本当に良かった……。
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