第41話 この時を、どれだけ待ち侘びたことか R−指定

 初めてキスをした時、ただ触れるだけでこんなに心臓がバクバクするんだって驚いたのを覚えている。

 息をするのを忘れるくらい、頭の中が真っ白になって——……。


「ユウ、本当に大丈夫? 傷、痛くない?」

「大丈夫。そんな心配しなくてもいいよ。子供じゃありまいし」


 電気を消した薄暗い部屋の中で、ソファーに座って甘い時間を堪能し合った。毛布の下には一糸纏わぬ生まれたままのシウの姿。肌が温かい。柔らかくて気持ちがいい。


「何だろ、いざとなるとすごく恥ずかしい。ずっと憧れていたユウとこんな関係になるなんて思ってなかったから、すごく夢みたい」


 ユウの場合、小さかったシウと今のシウが一致していないから新鮮な気持ちが大きいが、多くの面影を残しているユウが相手だと恥ずかしいだろう。


 首筋に顔を埋めて、ゆっくりと舌を這わせる。ビクッと反応する彼女の身体を抱き寄せて、少しずつ指で弄りほぐす。

 紅潮して上がる体温。次第にシウの表情も快感に歪んで指先に力がこもり出した。


「んっ、待って、ユウ……」

「どうした? もしかして痛い?」

「違う、何か……余裕じゃない? 何で? 初めてだって言ってたよね?」


 うぐっ、何で今、そんなことを言うんだよ!


 ぶっちゃけて余裕なんで1ミリもねぇよ!

 けど来たるこの日のために、どれだけ勉強したことか。もちろん男性主観のAVではなく、女性の為の女性が気持ちよくなる——とうたった書籍やアプリを駆使して勉強したのだ。


 勢いだけでいくのではなく、ほぐすように、じっくりと。ちゃんと相手の反応を伺いながらだ。


 きっとがっくいていない行動がシウには余裕に映ったのだろう。


 とはいえ、怪我をしているユウには最適なセックスでもあった。スローペースでシウが蕩けていく様子を見れるのは眼福でもあった。


「う……っ、わ、私もするし! 私だけこんな、恥ずかしいから!」

「そんなことないし! 僕だって余裕なんてないし、今、シウに触られたりしたらもう!」


 ムードもクソもないなと、必死に抵抗しながら二人は吹き出して、そして大声で笑い合った。


「あー……もう台無しじゃん。すっかり気分が燃え下がったんだけど」

「だって、悔しかったんだもん。ユウって、この前まで私の存在忘れていたでしょ? 私はずっと……ずっとユウのことが好きだったのに。ずっと、ずっと……」


 それを言われたら、ズルい。

 否定できないし、何ならその通りだ。


 ユウにとって再会したシウは、初恋のイコさんの生き写しみたいなもので、その衝撃から恋が始まったようなものだった。


 けれど再会してから、色んなシウの表情を見て、想って、考えて……好きになった。

 今は誰よりもシウのことが好きだし、彼女を守っていきたいと思っている。


「二度とシウを泣かせたくないし、ずっと僕の隣で笑っていて欲しいと思っているよ。その気持ちには嘘はない」

「——ユウの好みの女性が現れても? ちゃんと私を愛してくれる?」

「僕も30年生きて、それなりに女性とも出逢ってきたけど、好きだと思ったのはシウだけだよ」

「私だけ……。でも私、きっとユウが思っているよりもずっと面倒だし、嫉妬深いよ? 本当にいいの?」

「嫉妬深いってさ……それだけ僕のことを愛してくれてるってことなんでしょ? だったらそれまで含めてシウのことを受け止めるよ」


 彼女の頬に手を添え、そのまま顔を近付けた。唇を甘噛みして、ゆっくりと間に舌を入れて……身体を寄せ合い、甘え合った。



「ユウ、好き……ずっとずっと、大好き」


 シウの爪先がユウの背中に食い込み、互いに痛みと快感を刻み合った。



 ・・・・・・・・・・★


「——大好き」


 やっと、やっと結ばれましたw


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る