第40話 「娘をよろしくお願いします」 R-指定
それから暫くして、ユウはシウに肩を借りながら未知の病室を訪れた。まだ身体は寝たままのものの、閉じていた瞳はしっかりと開いて、ユウ達を見つめていた。
「未知さん! 大丈夫ですか?」
「あぁ、ユウくん。心配かけてすまなかったね。それに姉が飛んだ醜態を晒したようで」
そのことに関しては苦笑しか出ないが、こうして未知が目を覚ました今、思惑通りに行かなかったと落胆しているに違いない。
「まさか俺が意識がない間に会社を乗っ取ろうとするなんてな……。伸哉くんに関しても、今後シウに近付かないように処置をしてもらおうか」
伸哉の話題が出た瞬間、ユウは自分のことも打ち明けなければと覚悟した。
万が一の時は自分がシウとイコさんを守らなければと思ったのだが、無事に目を覚ました今、もしかして浅はかな行動をとったのではないかと焦り出した。
「——ユウくん、話はシウから聞いたよ」
「え?」
すでに報告済みだったのか。
もう後戻りはできない。あとは認めてもらうためにひたすら許しを請うしかないだろう。
「シウさんのことは一生かけて幸せにしますので、どうか僕に娘さんを!」
「あぁ、よろしく頼むよ。ユウくんなら安心して任せられる」
——ん?
顔を上げると、イコさんの時と同様に穏やかな表情で笑う未知がいた。
いや、すんなりと認められて嬉しいんだけど、こうもうまく行くと不安になるのは何故だろう?
「どっちにしろ、そろそろ後継者を育てなければと思っていたところなんだ。情けないことに指先に少し麻痺も残ってしまってね。日常生活には支障はないが、今までのように仕事となると、いささか不安が残る」
命が助かっただけでも上等だったが、そうか……。ふとイコさんに視線を向けたが、細く笑うだけで真意までは見抜けなかった。
「……だが、良かったな。ちゃんと娘の花嫁姿を拝めるなんて。ユウくんのご両親にも話をして、盛大な式をあげたいな」
ついこの間までは偽装の恋人を作って騙していたというのに、わずかな日数で結婚まで話しが進んでしまった。
『——しかも
いっそのこと、結婚するまで清い関係でいるか? いや、シウを見たが肉食系と化していて、とても制御できそうもなかった。
だがそれはお互い様だ。ユウ自身もとても我慢できそうもなかった。
「今日はお祝いだね……♡ ユウも怪我して大変だったから、早く家に帰って安静にしよ?」
その帰宅、本当に安静にさせてもらえるのだろうか?
いや、されたらされたで困るのだが。
こうして未知さんとイコさんに別れを告げて、ユウ達は病室を後にした。今日は念の為にタクシーで帰ることにしたのだが……その時から既にシウのアピールは始まっていた。
ピッタリと寄り添うように座り、手はユウの膝に乗せられ……摺り寄せられた。
よくドラマやマンガでタクシーの中でイチャつくカップルなどがいたが、その時運転手はどんな心境なのだろうか?
見て見ぬふり? それとも「こいつら人の車でイチャつきやがって! 料金上乗せしてやるわ!」と憤っているのだろうか?
「し、シウ。一応、公共の場だから淫らな行為は慎んでくれ」
「うん、分かった。でも少しだけ……ユウに触れさせて」
その時、自分が目を覚ました瞬間のシウの顔が脳裏を過ぎった。つい先程まで意識不明だった父親を見ていたのだ。さぞかし不安だったに違いない。
腕にしがみついた指先に力が籠る。
そんなシウの頭をポンポンっと叩いてそのまま撫でた。
ふっと、窓の外に視線を向けると、見慣れた景色が流れるように去っていった。アパートまでもう少しだ……。高鳴る心臓、緊張で指先が震え、手のひらにじんわりと汗が滲む。
もう、二人に立ち塞がる問題はないのだ。
恐いのにソワソワと体が浮ついて、遠足の前の夜のような感覚だ。最もするべきことは健全なことではないのだけれども。
長いような短かったような時間が過ぎ、二人はタクシーを降りて部屋へと向かった。白い息が黒い空に消える寒い夜。だがその寒さですら肌を合わせる理由になるのだから、恋人というのは羨ましいものだ。
鍵を開けて玄関に入ったと同時に、シウが背中から乗っかるように抱き付いて、そのまま顔を見合わせて——二人は唇を重ね合った。
角度を変えて、何度も何度も。冷たいドアに身体を預けながら求め合った。
「……あ、手洗いうがい」
「ん、あぁ、そっか。一応病院にいたんだし、洗ったほうがいっか」
とはいえ、離れ難い。乱れた着衣から覗かせる下着に気持ちが高ぶって、やめたくない。離れたくない。
「——一緒にお風呂入っちゃう? って、流石にそれはハードルが高いかな?」
シウは茶化して笑っていたけれど、溝おちの辺りを掴んだ手が緩まない。駄々をこねる子供のように後ろめたそうに俯いて……。
「……パパッと洗ってしまえばいいだろう?」
そんな彼女の身体をひょいっと抱き上げ、いわゆるお姫様抱っこをして脱衣所に向かった。あまりに突然のことにシウも「ひゃあ!」っと裏返った声を上げていたが、満更でもないように歓喜の声を上げ出した。
「スゴっ! ユウって意外と力あるんだ」
「いや、僕がってよりもシウが軽すぎる。ちゃんとご飯食べてるん?」
唇の間からペロっと舌を出して、悪戯に笑った。
「私がちゃんと食べているか……ユウが確認してみたらいいんじゃない? ユウになら全部見せられるよ」
この子、なんてエロい——⁉︎
絶対に経験豊富だろ? 処女にこんなセリフは言えないぞ?
悔しい、思えば最初からシウに主導権を握られてばかりだった。初夜くらいは自分がシウを思う存分……。
「痛っ、やっぱ首の裏、強く触れられると痛いな」
無造作に回されたシウの腕が、時折触れて痛かった。ケガの存在をすっかり忘れていたシウは慌てて降りて心配そうにオロオロと様子を伺ってきた。
「ゴメン、私……! ユウが怪我人だってことを忘れてた」
いや、シウだけでなく自分も忘れていたからいいんだけど。
やっぱタンコブとはいえ、今日は激しい運動は避けるべきなのだろうか? 縫ったわけじゃないし、身体は至って健康なんだけど。
むしろこれ以上の我慢の方が体に悪い気がする。そう勝手に判断して、彼女の着衣の中に手を忍ばせた。モゾモゾと動く指がブラのホックを外して、抑え付けられていた胸元が緩まった。
手のひらの中にブラジャーの感触と硬さを帯びた突起が当たる。
「んっ、恥ずかしいね……、いざとなると」
シウも赤くなった顔を手で覆い隠しながも、しっかりとユウの反応を確かめて、安心したように口元を綻んだ。
「ユウ、今夜はよろしくね……?」
「こちらこそ。末長く、よろしくお願いいたします」
・・・・・・・・・・・★
「そして——……」
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