第39話 瞼を開けたら——……
それから暫くして、ユウは後頭部に鈍痛を感じながら目を覚ました。
シウの手に付着した血の量を見た時は死を覚悟したが、幸い致命傷にはならなかったようだ。むしろ首に鋭利な痛みを感じるのだが、気のせいだろうか?
「あ……っ、ユウ! 良かった、目を覚まして」
声がする方を見ると、そこには涙でぐしゃぐしゃになったシウの顔があった。ユウの手を強く握ったまま、ずっとそばで見てくれていたのだろうと察した。
「——なぁ、シウ。僕はあの後どうなったん?」
「あのね、結局水晶で殴られたのはタンコブで済んだんだけど、知沙さんが付けていた指輪で引っ掻かれて、首の裏に傷ができたの。それでスゴく血が出たみたい。知沙さんも伸哉さんも事情聴取で警察に連れて行かれたし、お母さんも無事だよ」
つまり、軽症で済んだと言うことか。
凶器が凶器だっただけに覚悟したが、大事に至らなくて安心した。未知さんに引き続き自分まで重体になってはシャレにならない。
「ごめん、シウに心配かけて。まさか水晶で殴られるとは思っていなくて」
「……ううん、ユウが悪いんじゃないからいいの。むしろお母さんを守ってくれてありがとう」
首の後ろに腕を回され、そのまま密着するように抱き締め合った。
頬に伝わる柔い頬の感触。濡れた涙の感触を指で拭い、そのまま鼻頭を擦り合わせて、唇を重ね合わせた。
「そういえばもう一つ朗報……。ユウが意識を失っている間にお父さんも目を覚ましたよ。ちゃんと認識もしているし、大丈夫だって」
「——え?」
思わぬ報告に思わずベッドから降りようとしたが、その行為をシウが許してくれなかった。
「ダメだよ、ユウ。今日は安静にしてないと」
「けど、やっと未知さんが目を覚ましたのに」
「だから急がなくていいんだよ。もう大丈夫なんだから……」
長いまつ毛の下に覗かせた瞳を潤ませながら覗き込む。もう、何もかも大丈夫だから——と、そのまま求め合うようにキスを続けた。
「——ねぇ、もう邪魔が入らないうちに結婚しようよ。私……ユウ以外の人と結婚なんてしたくない」
それは自分だって同じ考えだ。あんな意味の分からない男にシウを奪われるくらいなら、自分が傍にいて、守り続けたい。
「ユウにも変な虫が寄ってくる前に」
「——僕には来ないよ。心配しすぎだよ」
「ユウは自分のことを卑下し過ぎなんだよ? ずっとずっと、ユウのことを見てきたから分かるの。私のことが好きなら、今すぐ結婚して?」
いつの間にかベッドに乗って跨ってきたシウに生唾を飲み、気付けば言われるがままに頷いていた。
この目の前で勝気に笑うシウに、一生敵う気がしない。
この先、ずっと尻に敷かれたまま、重すぎる愛を一身に受けることになるのだろう。
「ユウの怪我が治るまで、私が全部お世話してあげる。だから安心していいよ?」
「え、全部って?」
シウはニヤッと笑みを浮かべて、猫のように舌を出して唇を舐めてきた。
「だから、全部……♡」
怪我は大したことなかったのに、今度は不整脈でおかしくなりそうだ。
・・・・・・・・・・★
「遅いわね、シウ達。やっとお父さんが目を覚ましたって言うのに……」
「はは、構わないよ。ユウくんもイコを庇って怪我を負ったんだろう? そりゃ心配だよ。それに、もしかしたらシウなりに気を遣ったのかもしれないからな。俺達が二人きりになるように」
——未知さん、それはない。この世界線のシウは、ただユウの傍にいたいだけだよ……と、イコさんだけは分かっていそう💦
でもずっと意識を失っていた未知のことを思って黙るイコさん。
——うん、未知さんの言う通りってことにしておこう……。
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