第38話 一周回ってホラーだろう、これは
「シウ、お前は騙されているんだよ! そんな男の企みなんて、金だよ金! それにお前のことを風俗に売り飛ばして、骨の髄まで吸い尽くそうとしているに違いないんだ!」
「この淫乱女! さっさと株を渡しなさいよ! アンタみたいな股を開くしか脳のない女じゃ、会社の経営なんて無理なのよ! 私が大先生に相談して会社を大きくしてあげるから、さっさと権利を渡しなさい‼︎」
こんなの、手に負えるわけがない——っ!
身内同士の相続問題は泥沼と化すと聞いたが、ここまで酷いとは思ってもいなかった。
「……最悪にも程があるだろう! イコさん、もうハッキリ言ってくれ! アンタ達に渡す株も金もないって‼︎」
「ゆ、ユウくん……!」
「知沙さん、アンタもアンタだ! 未知さんの意識がないのを良いことに会社を乗っ取ろうとするなんて、卑劣極まりない! イコさん、未知さんがお世話になってる顧問弁護士と連絡は取れないのか? 万が一自分に何かあった時のためにって、エンディングノートとかに記されていなかった?」
「待って……、確か名刺をもらったことが」
いくら身内だからといって、限度というものがあるだろう。そもそも当事者である未知さんがこんな状態の時に、醜い争いをするのが腹立たしくて仕方ない。
「それに伸哉さん! アンタもしつこい! シウはアンタに1ミリも好意がないんだから諦めてくれ。シウは僕の彼女で、婚約者だ。これ以上彼女に迷惑行為を行うなら、それなりのところに相談させてもらうからな!」
「な……っ、何なんだよ! 新参者のくせに、生意気な事を言うな!」
だぁぁぁぁ! コイツら、ウザい!
何で自分の回りはウザい人間ばかりなんだ⁉︎
だが知沙も伸哉も喚くばかりで、一向に主張を止めようとしなかった。良い加減にしてほしい……、仮にも血縁者である未知さんのことを心配しているのなら、黙ってほしい!
「これ以上、この病室で問題を起こさないでくれ! 未知さんを——ちゃんと未知さんのことを心配して、寄り添ってくださいよ……。今、一番苦しい思いをしているのは、他ならぬ未知さんなんですから」
流石に分かってくれたのか、二人とも黙るように口を閉じてくれた。
——だが、そんな神妙な雰囲気の中、空気を読まない占い師がツラツラと言葉を並べ出した。
「とても悪い気が発せられています。この男、偽善の顔で近付いて、人の良心につけ込む相が出ています。騙されてはいけません。この男は要注意ですよ!」
ブチン——と、堪忍袋の緒が切れた。
人の弱みにつけ込んで金を巻き上げているのは、お前だろう!
「まぁぁぁぁ! もう少しで騙されるところだったわ! シウ、聞いた? この男の本性はそういう男なの! そんな男やめて伸哉と結婚しなさい! 伸哉はあなたを一目見た時から一途に想っていた純な子なのよ?」
「い、嫌です! 私はユウ以外の人と付き合う気は毛頭ないので!」
「シウ、騙されるな! そんな男、お前をボロ雑巾のように使い古して捨てるに決まっているだろう⁉︎」
もう意味がわからない……!
ダメだ、もう。とりあえず病院のスタップに声をかけて、警備の人にこの人達を連れ出してもらって。
「あ、あの! 静かにしてください!」
珍しく声を上げたのは、ワナワナと震えるイコさんだった。彼女はスマホを握りしめながら、勇気を振り絞って制止を促した。
「これ以上騒ぐなら……全部まとめて弁護士さんに相談させてもらいます! 本当は身内を訴えるようなことはしたくなかったんですが、未知さんが築き上げたものを無碍にされたくないので……お姉さんとの会話を提出させてもらいます」
イコさんの言葉に、ヒクヒクと口角を引き攣らせる知沙。会話を提出——って?
「万が一、未知さんに異変があった時にすぐに気付けるように、カメラを仕掛けさせてもらっていたんです。だから先日からの出来事を全部撮らせてもらっています」
「は、はぁぁぁぁぁ⁉︎ ちょっと、アンタ! そんなの許すわけないでしょ! プライバシーの侵害よ!」
「私は! ——お義姉さんのおっしゃる通り、経営に関しては無知です。今まで未知さんの補佐くらいしかしてこなかったです。けど長年、未知さんの仕事を見てきて、彼が培ってきたもの、守ってきたもの……その大切さは痛いほど理解しているつもりです! あなたのような人に渡すくらいなら、私が引き継ぎます!」
ハッキリと宣言したイコさんに、知沙はさらに拳を震わせて、占い師が持っていた水晶を取り上げた。
「この売女! 疫病神がっ‼︎」
咄嗟に庇うようにイコの前に立ち塞がったユウ。そんな彼の頭に水晶が直撃したが、その後手を滑らせてベッドの淵に当たりバリーンと割れた。
「いやあぁぁぁぁぁぁっ! 数十万の水晶が‼︎」
絶叫する占い師。そして知沙と伸哉。
いや、水晶なんかよりもコッチの方が重傷なんだが?
グラグラする視界の中、必死に声をかけてくれるイコさんとシウが見えた。え、今……どうなっているんだ?
「警察! それとお医者さんを! どうしよう、血が止まらないんだけど‼︎」
真っ赤になったシウの両手を見た瞬間、ユウは意識を失った——……。
・・・・・・・・・・・★
「先生、先生! 私、捕まるんですか⁉︎」
「知りません! それより私の水晶、ちゃんと弁償して下さるんですよね⁉︎ そうでないと訴えますよ!」
——カオス(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます