第36話 本当に失礼極まりないわね!
その後、ユウに本心を突かれた知沙は、顔を真っ赤にしながら暴言の数々を喚いていたが、流石に看護師達に宥められて半ば強引に病室を追い出される結果となった。
「アンタ達、絶対に許さないからね! 必ず痛い目に遭うわよ! 私がお世話になっている占い師の先生に相談して、天罰を下させてやるんだから‼︎」
捨てセリフが占い師の先生ってスピリチュアルにも程があるだろう! そんな思想に頼り切った人間に会社の権限なんて持たせたら、あっという間に倒産しそうで恐ろしい。
とは言え、やはり身内に喧嘩を売ったのは悪手だっただろうか?
思わず口走ったことを謝ろうとイコに視線を向けたが、彼女は安心してベッドの端に座り胸を撫で下ろしていた。
「——ごめんね、ユウくん。見苦しいところを見せてしまって」
「いや、そんな。イコさんが謝ることじゃないから気にしないで。それよりも……日頃からあんな暴言を吐かれてんの?」
売女とか、淫乱女とか。財産目的で誑かしたなどとも言っていたが?
その点に関してはイコとシウは顔を見合わせて、苦笑を溢し合っていた。その様子を見てユウも察した。
あぁ、理解しました……あの方は救いようもない人間なんですね。
「普段は未知さんが庇ってくれるから、あんなに酷くはないんだけれどもね。でも気にしてないの。言いたい人には言わせておけばいいから」
「とは言え、あれは流石に酷くないか?」
「お義姉さんのところ、何かと物入りらしいからお金が必要なのよ。元々自分の息子とシウを結婚させてまで会社を乗っ取ろうと考えていた人だし」
はァ? シウと結婚?
聞き捨てならない話に思わず二人にガンつけてしまった。だって叔母さんの子ということは、いとこ同士だろう? 実の息子を使ってまでやることか?
「最初は『お父さんの会社なんて、忙しいだけで面倒そうだから未知が継げば? 私は三割くらい株を貰えれば十分だわ』って責任を放棄していたらしいけどね。いざ立ち上げた旦那の会社が軌道に乗らなかったから、あの手この手で甘い汁を吸おうとしているのよ」
自分勝手にも程があるだろう……。
本当に救いようもないお人だ、知沙っていう人は。
「でも安心してね。私はユウ以外の男の人に興味ないから」
「それはどうも……」
やっと慌ただしい雰囲気が落ち着いて三人とも一息をついたのだが、我に返った瞬間に本来の目的を思い出して、ユウは別な意味で焦り始めた。
チラッとシウを見ると、今か今かと切り出すタイミングを企んでいるし、他人とは言い切れないくらい様々なことに口を挟んでいる。
とは言え、いざとなると勇気が出ないものなんだと己の度胸のなさを痛感した。
「——え、何? 二人ともソワソワしてるけど、何かあった?」
「い、いや、その!」
「もう、未知さんが大変な時に何してるの? 籍よりも先に孫の顔を見せるようなことにならないでよ?」
なんて下世話な!
流石にそこは自重したと言うのに、この母親は……!
「違うよ、お母さん。私はこれから先をユウと一緒に歩みたいって話していたの」
シウはユウの手を取って、ゆっくりと視線を合わせた。早過ぎると否定するかもしれない。甘過ぎると嘲笑されるかもしれない。
だが、昨日の悲しそうな表情のシウを見た時に覚悟は決まったのだ。
「イコさん、僕も……生半可な覚悟じゃなくて、ちゃんとシウのことを守りたいと思ったんだ。だから僕らの結婚を認めてくれませんか?」
「え、逆に何でそんなに必死なの? 私、シウとユウくんの結婚を止める気なんて更々ないわよ?」
想定の倍以上、あっさりと認めてくれたイコさんに、ユウの方が豆鉄砲を喰らった鳩のように情けなく驚いてしまった。
え、更々? 少しくらいは反対するものじゃないのか?
「だって、互いにどんな性格か知った上だし、私も未知さんもユウくんならって思ってたくらいだし。むしろ嬉しい報告が聞けて安心したくらいよ」
変に緊張していた自分が情けないくらい、呆気なかった。
こんなものなのか、結婚報告って。
いや、これはイコさんだったからであって、もし未知さんがご健在ならば『お前みたいな奴に大事な娘はやれん!』と三文芝居をしたかもしれない。ちなみにそのセリフを言われてみたかったのも否定はできない。
「でもユウくんも実際に身をもって味わったかもしれないけど、未知さんの身内って面倒な人が多いわよ? ちなみに未知さん自身も相当癖があるし、そんな親族との関わりも出てくるけど大丈夫?」
結婚となると当人だけの問題ではないのも重々承知している。だが、それも含めシウと一緒になりたい。
シウと、その両親であるイコさんと未知さんを助けたい。
「イコさんも義母になるんだよね。お手柔らかに頼みます」
「あははー、まさかユウくんが息子になる日が来るなんて思ってもなかったわね」
シウが生まれる前まで、憧れていた幼馴染のお姉さんが義母に——……。
11歳年下と付き合って結婚するのも特殊だが、5歳違いの義母もイレギュラーだろう。
『AVでありそうなシチュエーションだ……。まぁ、実際に起きたら困るんだけど』
そもそもユウ自身が未経験なので、そんな高レベルなラッキーイベントは到底対処できない。
というより、
状況だけが進んで、肝心な経験だけが積めずに歯痒い思いをしていた。
『色んな意味で早く目を覚ましてください、未知さん……! そもそも僕だけでこの二人を守るのは荷が重過ぎる!』
早く元気になってもらって、一緒にお酒を飲んで語り合いたいんだ。そう願いを込めて、未知の回復を祈った。
・・・・・・・・・★
「ふふふっ、これでユウの退路は塞がれた♡」
何でだろう、こっちの世界のシウは焦り過ぎな気がするのはw まだ未経験なせい? 早く安心させてあげてください、ユウさんw
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