第34話 君と共に守りたい
自分の人生がこんなにも急激な変化が起こるなんて、誰が想像しただろう?
数ヶ月前の自分は、こうして彼女を抱き締めている姿も想像していなかったし、彼女の人生について考えることもなかった。
正月の時、イコさんに言われた言葉を思い出した。
未知さんの癌を告白された時に、ゆくゆくはシウを支えて会社を引き継いで欲しいと。
あの時は遠い昔のことだと思っていたけれど、覚悟を決めるのは今なのだろう。
「——シウ、僕は君のことをずっと守っていきたいと思っているし、幸せになって欲しいと思っている。そしてそれは……シウの家族にも」
ユウの言葉に軽く首を傾げて、涙を溜めた瞳で見つめ返してきた。
「僕はさ、きっと何も分からないことばかりだし、未知さんに比べれば何もできない無力な人間だと思うけど、未知さんが守りたいと思っていたものを守る意思は引き継ぎたいんだ」
「——ユウ?」
不安そうに見つめる彼女の額にキスを落とし、そのまま胸元に抱き締めて言葉を続けた。
そう、イコさんから未知さんの話を聞いた時から、心のどこかでか覚悟はしていた。ここで絶望している彼女を救わないで、何が男だ。
「僕に——シウ達を守らせてもらえないかな? 色んな意味で……ずっと、シウのそばにいたいんだ」
彼女の頬に、赤味が戻った。僅かに震える唇を親指で撫でて、そのまま頬に手を添えた。
「ユウ、ずっとそばにいてくれるの?」
「——うん。このタイミングでいうのが正解か分からないけど、遅かれ早かれシウを支える存在になりたちとは思っていたから。シウ達が一番困っている今、力になりたいと思ったんだ」
目を細めて、口元に笑みを戻した彼女を見て、ユウも安堵を覚えた。
「シウ、結婚してくれませんか? 僕にできることは何でもするよ」
「ありがと……、ユウが傍にいてくれるなら私も頑張れそう。ありがと……本当にありがとう」
父親の空けた穴をどうやって埋めようかと考えた時、本当は父親の回復を信じて今いる従業員と共に守り続けようと話も出ていた。
けれど先の見えない不安から、叔父や叔母の提案に乗ろうかとも悩んだ……とシウは胸の内を打ち明けてくれた。
「お父さんの代わりを担うのは並のことじゃないと思っていたし、お母さんの心労を考えるとお父さんの看病だけに集中させてあげた方がいいのかなって。けど、私も頑張るよ。お父さんが守ってきたものを私も守る」
従業員30人も満たない小さな会社だと言っていたが、それでも責任は重大だ。
きっとこのタイミングでシウと結婚しようとするユウに不信感を抱く人も少なくないだろうし、何よりもすんなりと手に入ると思っていた会社を継げないと知った叔父達が、どういう行動に出るか分からない。
考えただけで胃が痛くなるが、もう後戻りはできない。
「ねぇ、ユウ。ゴメン……私のワガママなんだけど、お父さんの息があるうちに報告してあげたいんだけどダメかな?」
「いや、ダメなもんか。むしろそのことを考えて今言ったんだし」
「……ありがとう。ユウ、大好き、愛してる」
こうしてユウ達はキスだけを交わし合い、そのまま抱き合うように眠りについた。
安心した子供のように寝息を立てるシウの頭を撫でて、ユウも安心したように息を吐いた。
「結婚か……。人生が一変したな」
けど悪くない。守るものがある人生も生き甲斐があるってもんだ。これから大変な日常が始まるなと気持ちを強く持って、ユウも目を閉じた。
・・・・・・・・・★
「その日の夢に、元気な未知さんが現れて……しこたま
「えー……? 結婚報告をする前にそれって、幸先が不安になるよー……」
未知の実姉の叔母さんと叔父さんが経営するのは下請けの会社のような……って思ってもらえれば💦
ちなみに大きな会社ではなく、個人で一代築き上げたような中小企業みたいなものだと思ってください><
だから身内経営でしゃしゃり出られていると💦
でもそうなんだよね……ユウが覚悟を決めるってことは結婚なのか。こっちは展開早かったなー……w
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