第27話 瀬戸と根岸

 その後、店を変えて夕食を食べようとしていた時「もしかしてシウ?」と、一人の若者が声を掛けてきた。


 振り返るとそこには細身で悪そうな雰囲気を醸し出している青年と、爽やかでスポーツをしていそうな好青年が立っていた。


「やっぱシウと和佳子だ。何だよ、お前ら。俺達の誘いには乗らなかったくせに飯食いに来てんの?」

「根岸……、それに瀬戸まで。二人で来たの?」

「いや、俺達も彼女と一緒。その人達は二人の彼氏?」

「うん、まぁーね」


 瀬戸と呼んだ青年に彼氏と言われ、ご満悦な笑みを浮かべるシウ。軽く会釈をすると瀬戸も「ども」と頭を下げてきた。


「スゴいイケメン! えー、シウの? それとも和佳子の?」

「私の彼氏のユウだよ。カッコいいでしょー」

「うん、カッコいい! でも俺の彼女もめっちゃ可愛いんだよ? 寿々っていうんだけど、今度ちゃんと紹介するから」


 自分の恋人のことを素直に褒める瀬戸に、ユウは好感を抱いた。普通は謙遜しがちなのに、よほど彼女に惚れ込んでいるのか、はたまた彼が正直過ぎるだけなのか。


「えー、なぁシウ。そんなオッサン達よりも俺と付き合った方が絶対に楽しいって。今からでも全然間に合うから、俺と付き合おうぜ?」


 ———それに比べ、彼氏の前で口説く根岸という男は……不誠実にも程があるだろう?


「絶対にありえない。あのね、ユウは私の長年の片想いの相手なの。やっと振り向かせることができたんだから邪魔しないでくれる?」


 肩に置かれた手をササっと払い除けて、キッパリと言い切るシウが一番清々しくて潔かった。

 これは惚れる、惚れ直す。トゥクン……と恋の始まりの音が鳴り響く。


「ちぇー……、そこまで言われちゃ、どうしようもねーな。んじゃ、ソイツに飽きたら俺に連絡してよ」

「そんな日、絶対来ないけどね。んじゃ、今年もよろしくね」


 ヒラヒラと見送ってから、ユウも和佳子も席に戻ってきた。


「何、今のリア充の語らいは」

「別に大した話じゃないよ? 根岸も瀬戸もただのお調子者だから気にしないで」


 気にしないで———だと?

 いやいや、それは無理があるだろう!

 今更だが、やはりシウはモテるんだと再認識した。ただでさえ歳の差でハンデがあるというのに、あんなイケメン達に囲まれて好意を寄せられているのに、実際付き合っているのは恋愛初心者の童貞オッサン。


 若者同級生にはない魅力に惹かれたとしても、余裕のある雪村ならともかく経験不足なユウにそれは期待できない。


 何故、こんな冴えない男ユウハイスペック美少女シウは付き合ったのだろうか?

 冷静に考えると疑問が湧いて、募る募る。


 会えない時間が理想の精度を間違った方向へと磨き上げたのでは?

 現実から憧れがかけ離れて、思い込みで気持ちが先走ったのでは⁉︎


「ユウ、どうしたの?」


 自己嫌悪に陥り、テーブルにうつ伏せにしていたユウに声を掛けてきた。大きな瞳が心配そうに見つめていた。


「……いや、その」

「行こう? 和佳子と雪村さんは先にお店に向かったよ。チーズドリアのお店だって」


 こんなにも眩しい笑顔を向けられて、申し訳ないと思う反面、やっぱり他の男には渡したくないなと独占欲が込み上がる。

 この可愛い彼女につり合う男になりたい。それこそあの男、根岸という男に負けないくらいに。


「シウはさ、どんな男の人がタイプなん?」

「え、何? そんなのユウみたいな人に決まってるじゃん♡」


 自分みたいな……?

 いや、そんなのどこがいいのか理解できないと不満そうに眉を顰めると、シウの形のいい唇が更に笑みを深めた。


「いつも私のことを想ってくれて、私のそばにずーっといてくれる……優しくて頼りになるお兄ちゃんだよ♡」

「それは他の男にも当てはまる条件じゃ」

「ユウは私が小さい頃からずーっとしてくれたんだもん。それこそ下心もなく、利己的でもなく。そんな素敵な人、他にいないよ。それに顔も性格も、全部好きだよ♡」


 それはズルい言い方だ……。

 顔が熱くなって、ニヤけてしまう。必死に繋いでいない手で隠したけど、シウにはバレバレだったようだ。


「ねぇ、今度はユウのことを教えてね? 私のどこが好きとか、どんなことをしたいとか♡」

「いや、そんな恥ずかしいことできるわけないだろう?」

「何でー? 私には聞いてきたくせにズルい。それじゃ私がいいって言うまで『好き、愛してる』って言い続けるのはどう?」


 それも恥ずかしい。そんな恥ずかしいこと出来るわけがないのに———この子は何を考えているのだろう?

 顔を真っ赤にしながらタジタジになっているユウを見て、満足そうに腕にしがみつき直した。


「今、私達恋人らしいことしてるね! スゴく幸せ」


 人通りの多いフードコート内だというのに、人目も憚らず嬉しいを口にするシウにつられて、ユウも「僕もだよ」と笑い合った。


 ・・・・・・・・・・★


「あ、大成。遅かったね。ワック混んでた?」

「ううん、ちょっと知り合いに会って話してきただけだよ。友達にイケメンの彼氏ができてて惚気てきたから、俺の彼女も美人なんだぜーって惚気返してきた」

「恥っ! でもありがとう。私、大成のそういう真っ直ぐなところが好きだよ」

「今度、改めて紹介するときに、もっと寿々の良いところを惚気てやるよ!」



 噂のカップル、瀬戸くんと寿々ちゃん。こちらは健全にお付き合い中ですw

 根岸もこの世界では然程悪い奴ではなく、寿々ちゃんにちょっかいを出すことなく、普通にお友達を続けてます(これが普通なんですが……笑)

 しかし爽やかですねw

 この世界線の悪役は神崎さんと水城くらいですね^^;

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