第26話 好きになるのに、理由は必要なのか?

「ごめん、ユウ。私達少しお手洗い行ってくるね」


 重たい空気を変えようとシウ達は席を立ってその場を離脱した。雪村は「いってらっしゃい」とヒラヒラを手を振っていたが、そんな楽観的な笑みを浮かべている場合じゃない。


「待って、雪村! お前、さっきは紹介してもらいたいとか言ってたのに、何であんな!」

「いやいや、なんで永谷がそんな怒ってるんだよ。そもそもあの頃の年代って、年上が良く見える頃でしょ? 僕じゃなくてに憧れているだけだよ」


 シウ達の姿が見えなくなったのを確認して、やっと雪村の顔に素が現れた。

 いや、憧れるって、実際雪村に好感抱いているとしか思えないんだが?


「大してカッコよくない体育教師ですらイケメンに見える年頃だよ? 狭い世界でしか生きてないから視野が狭くなってると思うし。そんな子に感情強いるとか酷だって」

「やっぱ気付いているんじゃん! 和佳子さんの好意に気付いていながらあんな態度を取るなんて、酷過ぎるだろう!」

「いや、それは語弊があるから! 流石に最初は気付かなかったけど、まぁ……さっきのアレは気付かない方がおかしいでしょ」


 だが困っている表情であるものの、嫌悪というよりも戸惑いを纏っていることにユウは言葉を飲み込んだ。


「———永谷とシウさんのようにお互いのことを知った上ならともかく、僕はさっき会ったばかりの他人だよ。流石に僕も」

「いや、待って。少し確認したいんだけど、雪村はどう思った?」


 少し間を空けて、でもやはり理解できないと聞き返すように雪村は首を傾げた。


「質問の意図が分からない。何が?」

「僕はてっきり二人は互いのことを満更でもない感じに思っているから場をセッティングしようと」

「わあああああぁぁぁぁ—————っ! 真顔で何てことを言うんだよ、永谷! 仮にそうだったとしても、さっき言ったように僕は!」


 真っ赤な顔で取り乱す友人を見て納得した。そうか、あまりにも予期していなかった出逢いに雪村も戸惑っているのか。


『確かに僕もシウからアプローチされた時には信じられなかったもんな……。あんな可愛い子が自分みたいなオッサンにって』


 だが、友人のユウから見ても雪村はいい奴だった。もし女だったら彼と付き合いたいと考えたこともあるほどだ。


「雪村、とりあえず連絡先を交換しよう」

「は? いやいや、何でそんな展開になるんだ?」

「気になるなら行動してないと後悔するぞ? 僕もそれで痛い目にあったんだからな」

「だから、その! せっかくこれから楽しいことが待ってる彼女の可能性を僕なんかが邪魔するのは!」


「あ、あの! 連絡先、私知りたいです!」


 いつの間にかテーブルに戻ってきていた和佳子が言葉を遮るように大きな声を発していた。


「せっかく知り合ったのも何かの縁だし、雪村さんさえ良ければ!」


 ニッとひまわりのように弾ける笑顔を浮かべた彼女に、雪村は見惚れながら口篭った。女の子にここまで言わせて、断ることなんてできるはずがない。


「別に連絡先くらい……」


 そう言いながら交換し合った二人だが、黙り込んだ雪村にしか聞こえない小さな声で囁いている様子が視界に入った。


「私……この前シウ達の様子を見て、いいなって思ったんです。シウみたいに素敵な彼氏とデートするのに憧れてて。そんな時に雪村さんと会って、ちょっと良いかなーって思っただけなんで、そんな警戒しなくても大丈夫ですよ」

「———ん?」


 思っていた言葉じゃないと、思わず雪村は自身の耳を疑った。


「でも、シウ達が勘違いしてるみたいなんで、この場を丸く収めるために連絡先を交換しておきましょ?」


 悪気や下心や駆け引きでもない。おそらく本心で言っているであろう言葉に、むしろ雪村はカッと顔が熱くなったのを理解した。

 これではどっちが大人なのか分からない対応だ。


「雪村、どうした? 何か怒ってる?」

「別に怒ってないけど! けど……!」


 子供だと侮っていた自分が恥ずかしいと激しく後悔していた。

 さっきの和佳子の言葉だが、本心は和佳子本人でないと分からない。だが困ったような眉の形が見えた状況では、無理して言った言葉のような気がしてならないのだ。


「———最悪だね。年下の女の子に気を遣わせて、あんなことを言わせるなんて」

「雪村……。うん、そうだね。すごく情けないと思うよ」

「いやいや、永谷! 適当にそんなこと言わないでくれない? あの時の言葉、聞こえたわけじゃないのに!」

「んー、確かに聞こえなかったけど、二人の様子を見ていたら何となく察したよ? 僕もさ、この前死にたくなるほど後悔したからさ、雪村も後悔しないように行動した方がいいと思うよ? せっかく繋がった縁だし、ゆっくりでもいいからさ」


 まさか恋愛初心者のユウに説教されるとは思ってなかったが、ここは彼の言う通りなのだろう。

 どうせ、どうするか決断するのは和佳子本人なのだ。


 雪村自身も和佳子のように明るく無邪気に笑う子は好みだったし、初見から興味は抱いていた。分かりやすい単純明白なこの方が一緒にいて気が楽だし、変に疑う必要がないので肩に力が入らなくて済む。


 けど、どうやら目の前の女の子はそれだけじゃないようだ。


「これってさ、逆に宣戦布告されたってことなのかな?」

「え、何がですか?」

「ん、何も気にしなくていいよ?」


 雪村の浮かべた笑みの真意を、この場にいる誰も理解できなかった。だが数ヶ月後、シウは満面の笑みを浮かべた和佳子に「彼氏が出来たー」と報告されるのは……もう少し後の話。



 ・・・・・・・・・・★


「———ん? え、何? 僕がぼーっとしてる間に何が起きてた⁉︎」


 うん、ユウ。安心して? 

 書いてた作者ですら、何が何だか分からなくなってきたのでw


 雪村も和佳子ちゃんも互いに気を遣いあっていたけど、和佳子ちゃんの気遣いを知って逆に雪村に火がついた感じ?

 この世界線の雪村は少し面倒くさい感じ?


 この世界線を書いて思ったことは、人間ある程度不幸を味わったほうが優しくなれるのでは⁉︎

 平坦な道だけでは成長しないのかもしれないですね^^;

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