第24話 晴姿の君を見て

『ねぇ、ユウ。今度の月曜日って仕事休めないかな?』


 デートをしたその日の夜、電話したいと言われて掛けてみたら、急に休みの催促をされてしまった。

 たしか今日は親戚の集まりがあると言って帰って行ったが、月曜日に何があるんだろうか?


『月曜日、成人式で晴れ着を着るんだよね。せっかく着物を着るからユウにも見て欲しく』

「あぁー、そっか。成人式……」


 未だに18歳で成人というのがピンとこないが、そうかシウはもう成人扱いになるのかと不思議な感覚に襲われた。

 あんなに小さくて自分の周りをウロチョロしていたシウがと思うと感慨深い。


『高校の友達と一緒に会場に行こうと思うんだけど、ユウも見にきてくれないかな?』


 シウの頼みなら仕方ない。ユウは二つ返事で了承したが、電話を切った後に深く後悔した。


 成人の集いの場に三十路前の男が一人、その光景を浮かべただけで背筋が凍った。きっとシウは友達と一緒にこうどうするだろう。そう考えると大半を一人で行動するのだ。


「……無理、それは流石に無理!」


 ユウは友人である雪村に電話を掛けて助けを求めた。頼む、雪村! 暇であってくれ!


『え、月曜日? 別に暇だからいいけど』

「雪村! お前は僕の救世主だよ!」


 彼に苦難が襲いかかった時には何が何でも力になろうと心に誓いながら、雪村に感謝した。



 そして成人式当日、華やかな式の会場付近でおっさん二人が居た堪れない様子で眺めていた。心の底から雪村がいてくれて良かったと痛感した。


「え、永谷……何で成人式を見に来たん? しかも会社を休んでまで」

「休んでまでって言わないでくれ! いや、実は……最近彼女ができたんだけど」


 気まずそうに口篭らせながら報告をすると、雪村は自分のことのように嬉しそうな表情で喜んでくれた。


「良かった、神崎さんのことで病んでないか心配してたけど。えー、いつの間に?」

「いや……正月の帰省の時に。よく遊んでいた子と」

「よく遊んでたってことは同級生? 同窓会か何かあった?」

「いや、同級生じゃなくて、その……彼女、今日成人式なんだよね」


 雪村の頭上に「?」が浮かんでいるのが分かる。


「成人式……? え、18歳⁉︎」

「……うん。そう、18歳」


 流石に引かれるかと覚悟をしていたが、雪村は素直に祝福の言葉を掛けて喜んでくれた。嘘偽りのない友人の表情に肩の重さが軽くなったのを感じた。


「いいなー、10歳年下? 僕も彼女いないから紹介して貰いたいよ」

「え、引かないん?」

「引くわけないでしょ? あ、もし永谷がパパ活とか出会い系で出逢ったとかなら引くけど」

「いや、流石にそんなのはしてないけど!」


 正直、年の差を気にしていたユウは雪村の反応に救われた。自分も彼のように優しく、そえでいてサラッと生きたい。


「彼女の晴れ姿を見にくるために会社を休んだとか、永谷よっぽど大事にしてるんだね。愛されてるね、彼女」

「……初めての彼女だから、どうするのが正解なのか分からないんだよ。それに付き合う前に神崎さんとのトラブルで泣かせたし」

「あー、あの神崎さんは酷かったもんなー。そういえばお見合いが上手くいって、結婚することになったんでしょ? 結果的に神崎さんも上手くいって良かったね」


 最近、業務的なこと以外は話していないので知らなかった情報だった。何で本社勤務の雪村の方が知っているのか不思議だったが、そうか……。神崎さんにも幸せが訪れたと分かり、多少の後ろめたさが薄れたのが分かった。


「あ、永谷。スマホ鳴ってる。もしかして彼女じゃない?」


 雪村の言う通り、シウからの連絡が入っていた。会場を出たところだから見に来てほしいとのことだった。

 近くの珈琲店に入っていた二人は店を出て、会場の近くへと向かった。


「わー、すごいな。僕も7年前か……。スーツで行ったけど、せっかくなら袴着れば良かったな」


 同級生同士で絡み合ってる若者達を見ながら、楽しそうだなって他人事のように言葉を発しながら歩いていると、桃と朱の華やかな着物を纏ったシウ達を見つけた。

 アップにした髪にラメがまぶされて、直視するのが申し訳ないほど綺麗だった。

 普段から可愛いとは思っていたけど、やっぱりシウは一際可愛くて目立つ———!


「あ、ユウ! 良かった、ちゃんと会えて」


 互いの姿を見つけあった瞬間、弾けるような笑顔が眩しくて胸が苦しくなった。


 恋って……苦しい(惚気)


「あ、シウ。紹介するよ。僕の会社の同期で友人の雪村。今日、一緒に来てくれたんだ」

「初めまして、雪村です。永谷くんにはいつもお世話になってます。えー、すごい美人! 永谷、良かったね。こんな美人と付き合えて」


 シウのことを褒められて満更でもない気持ちになった。けど、何やら雪村の様子がおかしいことに気づいた。珍しくソワソワと目を泳がせて、落ち着かない様子だった。


「雪村? どうした?」

「え、いや……僕がってより、なんか視線が気になって」


 視線? 何のことだと周りを見渡すと、シウの後ろでチラチラと雪村のことを見ている小動物のような子に気付いた。彼女は確か、和佳子ちゃん?


「和佳子、どうしたの? そんな隠れて」

「だ、だって! 来るのってシウの彼氏さんだけだと思ってたから! 他にもメンズが来るなんて聞いてない!」


 メンズ? 普段聞きなれない言葉にユウ達は固まったが、女子高生に男性として見てもらえるのは悪い気はしないなと笑い合った。


「いやいや、僕らよりももっとイケメンがウヨウヨしてるし。こんなおっちゃん達のこと、気にしなくていいよ?」

「無理無理無理ー! 瀬戸とか根岸とか、クラスの男子よりも何倍もカッコイイし! 同じ空気が吸えない!」


 冗談みたいなフレーズ連発だが、本人はいたって本気のようだ。シウの後ろに全力で隠れていた。流石に可哀想な気がして一足先に帰ろうかと思った時、雪村は和佳子さんの目線に屈んでニッコリと笑った。


「緊張するとかって、むしろ僕らのセリフ。こんな可愛い子を目の前にしたら心臓止まりそうになるし。だからさ、友達の後ろに隠れてないでちゃんと晴れ着を見せて回らないと。勿体無いよ?」


 子供をあやすように、柔らかい空気を醸し出して……。だが、どの口が緊張するって言ってんだとツッコミを入れたくなるほどセリフが滑らかだ。


 コイツ、とんだスケコマシだ!

 だが、ユウとシウの心配を他所に和佳子はポーッと頬を染めながら雪村に見惚れていた。


 何だ、この甘い空気は……?


「ゆ、ユウ。あのさ、もし良かったらなんだけど、4人でご飯でも食べに行かない?」

「———うん、僕もそう言おうと思ったところだった」


 満更でもないトキメキの瞬間に立ち合ったユウ達は、再び落ち合う約束をして、とりあえずこの場を解散した。


 ・・・・・・・・・・・★


「永谷の彼女の友達、可愛かったね。まるで実家で飼ってる犬を思い出したよ」

「雪村、お前……アレを無自覚でしたなら、とんだ食わせもんだよ」


 サクッと和佳子ちゃんと雪村さんを会わせてみました^ ^

 けどやっぱり鬱展開がないと本編のような雰囲気にはならないですね^^;

 平和すぎる……(笑)

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