第23話 タイミングが悪いな……
その後、雑貨屋で色違いのマグカップや歯ブラシ、器などを買って満足になったシウに引っ張られるようにユウは買い物に付き合った。
「あ、シウ。部屋着とかは買わなくていい? 僕の服を着てもいいけど」
前々から気になっていたモコモコのルームウェアが飾られているショップで立ち止まって、シウに勧めた。お値段は結構するが、この服を着たシウが隣にいたらかなり幸せだ。
「ジェラードピケ? ここの服って可愛いもんね。私も好きだよ」
パーカーとショートパンツのパステルカラーのグラデーションになった服を掲げて「どう?」と聞いてきた。
そんなの答えは決まっている。最高だ。
「これ、僕が初デート記念に買うから。シウ用に部屋に置いておくよ」
シウは若干申し訳なさそうな表情をしていたが、値段なんて気にしないでほしい。ついでに靴下も2、3足取ってレジに持って行った。
「え、ユウ、本当にいいの? 迷惑じゃない?」
「迷惑? 何が?」
確かにさっきのシウには圧倒されたけど、自分だってシウと一緒にくっつきたい気持ちはある。進展するかしないかは別として、部屋に招いてイチャイチャするくらいは許されるだろう。
大事にしたい気持ちもあるが、シウの言葉を聞いて目が覚めたのも事実だった。
「それに僕だって人目を気にせずに……キスくらいはしたいし」
「ユウ……。え、キスだけでいいの?」
わざとらしく胸の谷間を作って見せてきたが、それは次の楽しみに取ってて欲しい。あまりにも早く先に進みすぎると、飽きるのも早過ぎて捨てられそうで怖いのだ。
女々しいと思うかもしれないが、これでも長年恋愛してこなかったユウには大きな譲歩なのだと切実に思った。
「ふふっ、でもいいよ? 今はそれでも。少しずつ進むのも、また一興だよね♡」
本当に分かっているのかは多少不安だが、ここはシウを信じるしかない。
二人は手を繋いで駅ビルを出ようとした、その時だ。
シウのスマホに数件の通知が届いた。ピロンピロンピロンと、連続になる音に嫌な予感しかしない。
だがシウは気付かないふりをして、そのまま話を続けていた。
いや、流石にそれは無理があるだろう?
「シウ、通知見なくていいの?」
「うん……大丈夫だよ。きっと広告だって」
だがそんなシウを追い詰めるようになり続ける通知音。流石に誤魔化すのも無理があり、シウは渋々スマホを取り出した。
「あ……お父さんからだ」
顔を顰めてメッセージを確認したが、最後の浮かない表情から事情を悟った。
「———ユウ、ごめん。今日は家に帰らないといけないみたい」
「そうなんだ。ちなみに何があったか聞いてもいい?」
「あー……叔母さんが急遽来たから挨拶しろって。少し気難しい人だから、お父さんの言うとおり同席した方がいいかなと思って」
そう言うことなら仕方ない。むしろ家族を優先してほしい。
だが問題はこの表情だろう。ユウも同じように楽しみにしていただけに落胆は隠せないが、自分まで落ち込んでは埒が開かない。
「車で来たから送るよ。デートはまた今度、仕切り直そう」
自分達の関係は始まったばかりなのだ。またつぎがある。そう互いに言い聞かすように、ユウは気持ちを上げてシウの手を取った。
「んー……っ! ユウ、今日買ったモノ、ちゃんと家に置いててよ? 今度、私が並べるから」
「うん、いいよ。今度は家デートしようか?」
「約束だからね? もう……お正月の時みたいに逃げたりしないでよ?」
正月の時も逃げたつもりはなかったんだけど、シウを傷つけた事実は変わらないので肝に銘じることにした。そもそも自信がなかったあの頃とは違うんだ。
むしろシウが嫌だと言っても、簡単に諦められないくらい想いが募っている。
車を走らせ、シウの家に近くに着いた頃、彼女の手を取って名残惜しそうに握りしめた。
「また落ち着いた頃に電話するよ。シウ、好きだよ」
「ユウ……、そんな言われたら離れたくなくなるよ」
ギューっと子供のように甘えてくるシウを抱き返して、二人は「またね」と手を振り合った。家に入るまで見届けてからユウも車に乗り込んだのだが———これはキツい。
入ってしまったスイッチが中々切り替わらない。
「タイミング悪過ぎだろ、これ」
むしろ狙ってきたんじゃないかと思うほど、悪意すら感じる連絡だった。
応援しているとはいえ、やはり大事な娘のデートが心配だったんだろうなと、昂った感情を押し殺しながらユウは車を走らせた。
・・・・・・・・・・★
「くっ、でもやっぱり……イチャイチャしたかった!」
これまた「意地悪なことばかりしてー」って言われるパターンw
次の更新は6時45分更新で頑張りたいと思います!
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