第22話 この後はもっと恋人らしいことを……
映画を観終わったユウ達は、カフェに入ってパスタを食べながら映画について語り合っていた。
しかしシウからの執拗な
「だって映画デートなんて、如何にも恋人イベントでしょ? 待ち合わせをして、ポップコーンを食べながらイチャイチャする。それで満足だよ」
「いや、映画を楽しみにして見てる人に謝れ! もっと言うなら全力尽くして映画を作っている人、演じている人、映画に携わっている人皆に謝罪しろ……!」
「そんな真面目な発言が映画業界を衰退させるんだよ。でもカップルシートって良かったね。ユウとの距離が近くてドキドキした」
指先でユウの手の甲をクルクルと描きながら、小悪魔の微笑を浮かべて誘惑する。互いに初めての恋人だというのに、なんだこの圧倒的な余裕の差は?
こっちはドキドキなんてものじゃなく、回りにバレないかとヒヤヒヤしたし、シウの体温に心臓が口から出るんじゃないかと思うほど緊張もした。
「この後、どうする? シウはお揃いのものが欲しいって言ってたけど」
「あ、覚えてくれてたんだ。あのね、すごーくベタかもしれないけどマグカップとか歯ブラシとか、欲しいなって」
マグカップや歯ブラシ? そんな日用品をお揃いで欲しがるんんて、まるで同棲カップルのようじゃ———……!
同棲? 待て、おい。
まさかシウは!
「シウ、それをどこで使うつもりなのか?」
「えー、一緒に並べて使わないとお揃いにする意味がないでしょ? もちろんユウの部屋に決まってるじゃん」
決まってるじゃん、じゃない!
「家? いや、僕ん家に来んの?」
「うん、だって彼女だよ? 彼氏の家に行くのって普通じゃないの?」
いや、そうかもしれないが……お揃いのモノが急に現実味を帯び出して、恥ずかしくなった。シウが自分の家に来たら、もう!
『正月帰省の続きか⁉︎ あれ以上のことをするのか? シウと……僕が?』
胸元のあいた白ニット。頬杖を付いた腕が胸を押し寄せて谷間が主張されてドギマギする。
「せっかくなら、今日早速行ってもいい? ずっと憧れていたんだよね……ユウの部屋に行くの」
「でも今日は本当に散らかってて……」
「なら私が片付けてあげるよ? ゴメンね、ユウ。あのね、私……」
手の甲に置かれていた指がゆっくり動き、そのまま交互に絡み出した。そして節目がちに目を逸らして、恥じらうように唇を動かした。
「部屋に行きたいって言うよりも、ユウともっとくっつきたかったの。ねぇ、ユウはどう……?」
「くっつきたいって、そんな」
ストレート過ぎる言い方に口籠った。そんな言い方をされたらユウも本音を語らずにいられないじゃないか。
そりゃ、自分ももっとシウと触れ合いたいし、何なら先の展開だって羨望しているけれど!
「ダメだ、そんな……付き合って早々! もう少し互いのことを知ってからじゃないと」
「———え? 私達、幼馴染だよ? もう嫌ってくらいお互いのことを知ってるでしょ? これ以上何を知る必要があるの?」
シウの声色が暗く落ちた。
———シウ? え、いや……そう言う意味じゃなくて、ただゆっくりと進展できればと思っただけだけど。
シウの指先に力が籠り、グッと爪が食い込んだ。だが、そのことに気づく様子もなく、シウはボソボソと仕切りに呟いていた。
「ダメなの、そんな悠長なことをしていたら、また違う女がユウお兄ちゃんに近付いて手を出してくるから……。手遅れになる前に私のものにしなきゃ……」
「し、シウ?」
明らかに先程とは雰囲気が違う。
強いて言うなら和佳子ちゃんと別れた後の、あの雰囲気に似ている。
心臓が先程とは違う意味で早打ちし始めた。口角が引き攣る。こめかみに冷や汗が伝う。
「ねぇ、ユウ兄ちゃん」
「は、はい! な、何? シウ」
彼女はニッコリと微笑むと、そのまま両手でユウの手を握って聖母のような笑みを浮かべながら卑猥な言葉を吐き出した。
「今から二人きりになれるところに行こう? 私のことが好きならいいでしょ?」
「え、だからその」
「私、ずっとお兄ちゃんと×××したり、×××したかったの。ずっと、ずっと……だからね、お兄ちゃん」
シウの目が真っ直ぐに射抜く。
それはまるで獲物を定めた雌獅子の眼差しだった。もう逃げられない———。恋愛経験ゼロのユウじゃ、太刀打ちなんて出来やしなかった。
「遠慮や気遣いなんていらないから、本能のまま、イこう……?」
脅迫にも似た言葉にも関わらず、この先どうなるのか想像しただけで興奮を覚える自分はどこかおかしいんだろうと思いながら、ユウはシウの誘いに乗ることにした。
・・・・・・・・・・★
「うん、それでいいんだよ。お兄ちゃんはもう、誰にも渡さないんだから♡」
———あれ、また違う方向に進もうとしてないかなァ? 私のキャラはすぐに暴走しますw
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