第21話 何か、面白くない
もうすぐで予定の映画が始まる。チョコレートコーティングとシュガーバター味のポップコーンを購入して準備ができたと思った矢先のことだった。
「し、シウ! 待って……!」
息を切らした女の子がシウの腕を掴んで引きとめた。最初は誰だと怪訝な顔をしていたシウだったが、その正体が親友だと分かり驚いた顔で振り返った。
「え、和佳子も映画観にきたの? すごい偶然」
「違う、私は……たまたまシウの姿を見つけたから」
フゥーフゥーと数回深呼吸をした和佳子は、意を決して顔を上げた。
「誰、その人! シウの何⁉︎」
な、何と言われたら———何だろう?
この前までは幼馴染のお兄ちゃんだったが、今は彼氏彼女。だが公言していいのか迷っていた。だって彼女はシウにとって親しい仲なのだろう。万が一、こんな年の離れた三十路前の男と噂になったりしたらシウが気まずくなるのではないだろうか?
だがユウの心配を他所に、シウは惚気るように紹介してきた。
「彼は私の彼氏で
「か、彼氏……?」
豆鉄砲を食らった鳩のような表情で驚く和佳子はジロジロとユウを見つめ出した。さっきは焦っていて気付かなかったが、よく見ると芸能人並みに整った顔付きだ。高く筋の通った鼻に色気のある唇。タレ目だが目力のある瞳。見れば見るほど胸が締め付けられて高鳴る。
「はわわわわ……っ、し、シウ! いつの間にこんな人と⁉︎」
「実は小さい頃にお世話をしてくれた近所のお兄さんなの。正月に帰省した時に再会して、そのまま告白して付き合ったんだよ」
「ねぇ?」と同意を求めるように見つめられ、思わず深く頷いた。
だが、何だろう? 心なしかシウの機嫌が悪くなった気がする。
「———あのね、和佳子。今日は付き合って初めてのデートなんだ。だからゴメンネ?」
シウの腕が再び腕を挟んで束縛してきた。そんな甘い雰囲気にいたたまれなくなった和佳子は顔を真っ赤にしながら身を引き出した。
「勿論だよ! ゴメンねー、せっかくのデートを邪魔しちゃって! また学校始まったら色々聞かせてね? じゃね、またねー!」
ブンブンと手を振りながら立ち去る彼女をみて、本当にこれで良かったのだろうかとユウは不安になっていた。だがシウは気にする様子もなく、ユウの腕にしがみついていた。
「……シウ、友達帰ったけど良かったん?」
「え、あ、うん。だって今日はユウとの初デートだよ? きっと和佳子なら分かってくれるから大丈夫」
と言いつつ、シウの表情が少し曇ってきたことに流石のユウも気付いた。和佳子ちゃんが悪いとは思えないのだが、変わったのは彼女に会ってからだ。
「ねぇ、もう入場開始だよ? 早く行こう」
聞きたい反面、急かすシウに引っ張られて結局聞くことができないままスクリーンへ着いてしまった。ゆったりと腰掛けることができる2、3人用のソファーに座って流れていた予告に見入り出した。
肘をつきながら座ったユウに身体を預けるように寄りかかって、シウは絡ませた腕をギュッと抱き締めてきた。
薄暗い環境で、甘えるように縋ってくるシウが可愛くて堪らなかった。よく見ればあまり客入りは良くなく、まばらに座った観客はスクリーンに集中していて回りなんて気にしていない様子だった。
くいっと顎を上げてねだるように目を瞑ったシウに応えるように、顔を近付けて触れるようなキスをした。
映画が始まる前から、緊張で頭がおかしくなりそうだ。
「———やっぱりユウ兄ちゃんは、カッコいいんだよね」
ボソリと呟いた言葉を聞き取ることができなくて聞き返したが、はぐらかされてしまった。
腕を掴む力が強くなったが、ユウはそれを流して始まった映画に意識を集中させた。
———だが、結局シウに掴まれた幸福の腕の感触ばかり気にして、映画に集中できなかった。
・・・・・・・・・・★
「………はぁ、ユウ兄ちゃんって無自覚イケメンだからムカつく。私だけが独占できたらいいのに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます