第16話 四面楚歌
神崎の両親がいなくなってから、ついに堪忍の緒が切れたユウは神崎を問い詰めた。
大体何かがおかしいとは思ったんだ。きっと神崎さんは初めから『恋人のフリ』をする気はなかったんだ。
両親まで呼び寄せて、ユウが逃げられない状況に追い込むのが狙いだったと今更気付かされた。
「違うんだ、永谷! 両親のことは私も予想外で!」
「それなら尚のこと否定してほしかったです! 大体こんな形で恋人のフリを続けてもご両親を騙し続けるだけですよ? そんなことをして胸が痛まないんですか?」
「そりゃ、私だって良心の呵責に苛まれる。だが永谷、私は思うのだ。演技も続けていたらいずれ本物になるんじゃないかと!」
その時だ。またしても訪問を知らせるようにチャイム音が鳴り響いた。誰だと思って覗いてみると、そこには多くの図面を抱えたユウの同期の
「あ、永谷ー。明けましておめでとう。急で申し訳ないけど、ちょっと今からお客さんとの打ち合わせに部屋を借りていいかな?」
どこを向いても敵ばかりで心休まる気がしていなかった職場に、唯一気を許せる同期が訪れ、不覚にも涙腺が緩みそうになった。
「雪村……っ! 頼む、少し時間をくれないか?」
「え、え? 僕今からお客さんが来るんだけど、何?」
そんな二人を微妙な顔付きで見る神崎。だが粗方の説明を聞いた時、あまりの気の毒さに雪村もため息を吐いた。
「神崎さん、まだそんなことをしてんですか? 前にも似たような問題を起こしてましたよね? あなたも営業マンの端くれなら約束事くらいは守ってあげてくださいって」
「違うんだよ、雪村! この件は私も非常に困っていて」
「はいはい、そうやって困ってるふりをしてるけど、神崎さんがちゃんと説明してないのが原因じゃないですか。永谷も永谷だよ。なんで神崎さんの恋人のフリなんて面倒なことを引き受けたんだよ」
「あの時は名案だと思って……」
「永谷……。こう見えて神崎さんはエリア賞を何度も獲得してる敏腕営業なんだよ? そんな人が自分の親を丸め込むことくらい朝飯だと思わない?」
———そう言われれば、そうだ。
改めて神崎さんを見ると、悔しそうに舌打ちをしていた。
「この場合、追い詰められたふりをして永谷を言いくるめて逃げられないようにするのが、神崎さんの狙いだったんだよ。前にも他の社員が神崎さんに言い寄られて、鬱になって長期休養に入った男性社員がいるんだ。まさか今度は自分の同期が犠牲者になろうとしてるなんて、思ってもいなかったけど」
「……知らなかった」
「ともかく、永谷は僕にとって最後の同期なんですから、彼をいじめるようなことはしないで下さいよ? もし今度何か言ってきたら、上に報告させてもらいますからね!」
ビシッと言い切った雪村に、流石の神崎さんも頷かさる得なかった。
「はぁー……、もうこれから打ち合わせなのに! 永谷、もう僕一人じゃ間に合わないから手伝ってもらうよ?」
「分かった……! 何でも手伝うから雑用でも何でも指示してくれ」
むしろ雪村が来てくれなかったら、どうしようもない状況に追い込まれていたのだ。慌ただしく用意を始める同期に感謝を言いつつ、改めてお礼をしようと決めていた。
「はは、僕がこのタイミングで永谷の展示場に来たのも縁があったのかもね。それなら今度バルにでも行こうよ。永谷の奢りでね」
何とも緊張感のない笑いを浮かべる雪村に釣られるように、ユウも久しぶりに笑みを浮かべた。
その後、神崎さんはご両親に事情を話し、全ては二人で企んだ嘘だったことを白状した。
「そげんこつかと思ったわ。でももし本当なら、婿殿の気が変わらん前に囲っちゃろうと思ったんじゃがな。もう、紗季! お前は地元でお見合いじゃ! お前と同じくらいので、耕太郎っておったじゃろう? アイツが嫁を探しとったが!」
「待ってよ、お父ちゃん! 耕太郎さんって私よりも3つも上のオジサンじゃない! いやよ、私はもっと若くてイケメンじゃないと!」
「オジサンってなんじゃ! 紗季も似たような歳じゃろうが! 自分のことを棚に上げて恥ずかしくないとか‼︎」
ぐうの音も出なくなった神崎さんは、黙ったまま父親の言う通りにするしかなく、そのまま耕太郎さんとお見合いをしたそうだ。
・・・・・・・・・・★
「私は年上の男よりも年下のイケメンがいいのに……!」
神崎さん、実はモテないモテない言われていましたが、それはあくまで自分好みの年下のイケメンには……でした。年上の方々からは結構モテていたのに、選り好みをしているうちに婚期を逃していたパターンです💦
次の更新は金曜日、12時05分になります。
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