第15話 神崎女史の更なる陰謀
昨日は結局、シウの許しは得ることができなかったが、少しでも誠意を見せるために毎晩通おうと心を決めていた。
「永谷先輩ー、あの子はもう来ないんですか? 俺はまだ連絡先交換してないんですけどー?」
「———え、水城……シウのこと気になってんの?」
シウが会社を訪れた日から何かと彼女の話題を振られるようになっていた。確かに美人の部類に入るとは思ったが、あのチャラ男の水城がここまで夢中になるとは思ってもいなかった。
てっきりその時だけのノリだと思っていたが?
「シウちゃんは俺の好みのど真ん中なんですよー。先輩、後生なので仲を取り持ってくださいよ?」
「嫌だよ、何で僕が……」
「いいじゃないですか、先輩には神崎さんという素敵な相手がいるんだから俺の応援をしてくれても」
そもそもそれも失礼な話なんだ。
ユウがいくら否定しても神崎とくっつけようとする企みが嫌味にしか感じない。そんな奴の為に人肌脱ぐお人好しがどこにいるというのだろう?
「えー、まかさ先輩、シウちゃんのことが気になってるとか言わないですよね? 先輩って今年で三十でしたよね? そんなオッサンが十八才に夢中とかキモ過ぎじゃないっすか?」
確信を突かれ、ユウはしかめ面で振り返った。ニヤニヤとしてやったり面をしていたが、コイツ……。
———絶対、水城にはシウを紹介してやんない。
嫌味で牽制できたと思ってるのかもしれないが、結局水城の運命の手綱を握っているのはユウなのだ。ユウの機嫌を損なってしまえばいシウには会えないということに水城は気付いていなかった。
「その点俺は先輩よりもお年下だしー、お似合いだと思うのでー」
年は水城の方が近くても、結局選ぶのはシウだというのに。自分都合のいい考えばかりして、職場の人間とはいえ嫌悪感が芽生える。
その時、来店者を知らせるチャイムが鳴り響いた。救いの手が来たと事務所を出て玄関に向かうとそこにいたのは貫禄のあるご老人と上品なおばさまだった。
「いらっしゃいませ、コチラは初めての見学でしょうか?」
ご老人は太い白い眉を顰めながら永谷のネームを覗き込み「君が永谷くんかね」とホリの深くなった口角をクイっと上げた。
「
———む、婿⁉︎
いや、しかも紗季って……まさか
「上がらせてもらうぞ。ほら、お前も手土産渡さんか!」
「これ、紗季の大好物の羊羹なのよ。永谷さんもぜひ召し上がってくださいねぇ」
「いや、あの……こんな頂いても困ります……」
「おまん、嫁の親が持ってきたもんを無碍にするとは何事だ! 紗季ィ! 紗季ィ‼︎」
他に来客者がいなかったから良かったものの、これでは営業妨害だ! そして別室で仕事をしていた神崎さんも慌てて玄関へやってきて、悍ましい光景を目の当たりにして青褪めていた。
「お、お父ちゃん! お母ちゃんまで何でいるの⁉︎」
「いるのも何も、お前が結婚前提に付き合っちょる男がいるっていうから来たんじゃ。しっかし何だ、この婿は。礼儀がなっちょらんぞ?」
「あの、その話は申し訳ないですが!」
「ごめん、お父ちゃん! ほら、彼って見ての通りまだ若いからさー! 私の方からちゃんと言っておくから、ね?」
そう言った神崎さんに口元を押さえられて反論を塞がれてしまった。やめてくれ、ここでちゃんと否定しないと大変なことになってしまう!
だが必死に外そうとするが、一向に神崎さんの束縛から逃れられなかった。
「頼む、永谷! 私に合わせてくれ!」
「嫌だ! 合わせたら最後、もう結婚まっしぐらじゃないッスか!」
ここは土下座をしてでも誤解を解きたい!
そんな二人の様子を見て、神崎さんのお母さんは「おやまぁ、仲がいいこと。紗季もよかったわねぇー」と場違いに和んでいた。
もう嫌だ、水城にしろ、神崎さんにしろ、何で人を陥れようとするんだ! せっかく心を入れ直してゼロからスタートしようとしているのに、邪魔ばかり入る!
「ふん、そんな上辺だけの仲にワシは騙されんぞ!」
「もう、お父ちゃんも勘弁してよー! あとでちゃんと説明するから、とりあえず今日は私の部屋で待ってて? ね?」
そう言って一旦帰らせることに成功したが……その時にはもうユウと神崎の関係は修復不可能なところまで悪化していた。
・・・・・・・・・★
「———あちゃー、神崎さーん。それは悪手っすね。もう望みないかもなー」
水城、それはお互い様……。
更新が遅くなってスイマセン💦
とりあえず神崎さんのご両親の訪問までは書きたくてだったんですが、さすがに神崎さんの諦めの悪さは限度がありますね(-。-;
これはもうホラーでしかない……。
次回は12月17日日曜日、12時05分更新予定です。
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