第12話 うまくいかないのは、自分のせい?

 なぜ叩かれた?

 理由がわからず、ユウはただ茫然と眺めていた。『28歳のオッサンが調子に乗るな! このエロイ◯ポ!』と思われたのだろうか?


 いや、シウはそんな子ではない。そもそも最初にモーションを掛けてきたのは彼女の方だ。そう考えると導かれる答えは一つ。


 よくよく考えたら微妙になってきたので、とりあえず逃げよう。


 そもそもシウみたいな美少女なら、男なんて選び放題だ。わざわざユウのようなヘタレを選ぶ必要なんてない。

 正月の帰省、あまりの田舎で暇だったから童貞からかって遊んでやろうと企んだのかもしれない。


 そうだよ、きっとそうだ。

 そして一気に現実に戻って、逃げたに違いない。


 そう思った方がマシだ。でもいくらそう思い込もうと思っても無理だった。


 ユウの知ってるシウはそんな子じゃない。

 そんな人を弄ぶ様な子ではない。


 とはいえシウの連絡先も知らない。歯痒い思いを噛み締めながらユウは色々と頭を働かせた。守岡建設に行けばシウに会えるだろう。だが逃げたと言うことはユウのことを避けている可能性がある。それに行ってシウに会えればいいが、従業員の人に取り次いでもらうのは———不審者扱いされる可能性がある。


 詰んだ、詰んだのかもしれない。

 項垂れるように膝に手をついた時、ユウの頭に一人の人物の名が浮かんだ。


「……イコさん、イコさんならうまく取り次いでくれるかもしれない」


 幸い彼女とは連絡先を交換しているので相談しやすい。ユウはメッセージを送って、スマホをしまった。これでシウと仲直りできればいいんだが。

 不安な気持ちを払拭できないまま、仕事場へと戻った。そこもそこで、面倒な事態になっていたが、あえて気づかないフリを貫いていた。


「永谷先輩、ズルいっすよ! あんな美少女と知り合いなんて! 後生です、俺に彼女を紹介して下さい! これからは先輩のことを尊敬しますから!」


 今までは尊敬してなかったのかよとツッコミたくなったが、面倒なことになりそうだったのでやめた。そして神崎さんも上の空で全く業務に集中していなかった。


「永谷にはあんな可愛い知り合いがいたんだな……そりゃ、私なんて相手にされるわけがないか」

「神崎さん、何を弱気になっているんですか! 問題ないっす! なぜならシウちゃんは俺が幸せにするので神崎さんは永谷先輩をしっかり掴んでいて下さい!」

「み、水城! お前は私を応援してくれるのか!」

「あったり前じゃないっすか! 共に運命の恋に向かって前進しましょう‼︎」


 勝手に進めないでほしい……。

 そもそも神崎さんとの契約は無効だ。あんな強引にキスもされて、これ以上厄介なことになる前に距離を取らなければならない。

 そもそも合意もなしにキスなんて犯罪になるんじゃないのか? 嫌悪感を抱かれてまでする意味があるのだろうか?


 その点を考えるとシウの時は、嫌悪感どころか嬉しくて胸が締め付けられるほど歓喜したのものだ。

 気付いてしまった以上、神崎さんとのいざこざは収めなければならない。大丈夫、彼女もいい大人だ。話せば分かってくれるはずだ。


 ———だが、水城と一緒に「気合いだ、気合いだ、気合いだ、気合いだー!」と掛け声を掛けている様子を見て、ユウは本気で転職を考えた。


 無理だろう、こんな環境でまともに働ける気がしない。

 来客のチャイムが鳴っても動こうともしない二人を他所に、ユウは業務へと戻っていった。




 そして無事に仕事を終えたユウは、スマホのメッセージを確認した。通知は3件。二つは広告メールで残り一つはイコさんからのメッセージだった。


『今日、ユウくんのところにシウがお邪魔したんだね。ごめんねー、何も知らなくて。シウは部屋に篭ったきりだけど、何かあった?』


 ズシっと肩に重みがのしかかった。自分のせいでシウが傷ついたと思うと罪悪感で頭が痛くなった。

 しかしどう説明しよう? いきなりシウの連絡先を聞いてもいいのだろうか?


 そんな考えている間にイコさんからもう一件メッセージが届いた。


『よかったらさ、明日の昼にでもランチしない?』

「ランチ……? イコさんと?」


 思わぬ誘いに胸が少し騒めいた。シウの件も中途半端なのにいいのだろうかと躊躇いもあったが、イコさんに繋いでもらわないとシウとも仲直りすらできないのだ。


 苦渋の末、ユウはイコの誘いに乗ることにした。


 ・・・・・・・・・★


「そういえば私は永谷とキスをしたんだよな……! くっ、なぜ私は可愛く振る舞えなかったんだ!」


 後になって後悔する系女子、神崎さん。

 彼女の勝算はどれほどでしょうか……?


 次回の更新は12時05分です。よろしくお願いいたします!

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