第6話 童貞にはハードルが高すぎる

「ねぇ、ユウ兄ちゃん……お兄ちゃんの彼女と私、どっちの方がお兄ちゃんを好きだと思う?」


 バックハグをされながら、究極の質問を投げ掛けられてユウは動揺していた。そんなの偽りの彼女よりもシウの方が———!


 だが、ここで馬鹿正直に答えれば最低野郎の称号が叩きつけられてしまう。「彼女がいるのに他の女にフラフラするなんて、最低! この浮気野郎!」と張り手と蔑んだ目を向けられる可能性がある。

 だからと言って彼女と答えれば「やっぱりそうだよね……私なんかが入る隙間なんてないよね」と引かれる可能性がある。


 神崎さん……! あなたはなんて取引を提案してきたんだ! バクバクする心臓……分からない、圧倒的に恋愛スキルも経験も不足しているユウには対処できない。


「———いやいや、シウ。あまり大人を揶揄からかうなよ。いくら彼女がいるからって安心してると、押し倒されて襲われるかもしれないぞ?」


 そう、少し脅せばきっと怯えて離れていくはずだ。腕の力が緩んでシウの顔が見えるようになった時、真っ赤になって恥ずかしがる顔の彼女が上目で見上げて「私は……そのつもりで部屋に来たんだよ」と言われ………。



 ———そのつもりって何⁉︎


 待って、え、その、男女が二人きりでベッドのある部屋ですることって、もしかしてアレ⁉︎


 おいおい、自分たちは10年振りに再会を果たして数時間しか経っていない! 展開が早い! いくら知らない仲ではないとは言え、そんな———! シウ、お前はもっと自分を大事にする子だっただろう? そんな軽々しく人を好きだというような———いや、この子は幼少期から「ユウ兄ちゃん、大好きー♡」と頬にキスしてくるような子だった。


 だとしても、いやいや……。


「ユウ兄ちゃん、私……今度会った時は後悔しないようにちゃんと言おうって決めていたの。私、お兄ちゃんのことが好き! たとえお兄ちゃんに彼女がいても諦めないから!」


 ガバッと抱き付かれて押し倒されたかと思ったら、そのままぶつかるようにキスをされ、数秒間貪るように口付けを押し付けられた。


「んン……シウ、僕は……」

「———良かった、お兄ちゃんが変わってなくて。シウの大好きなお兄ちゃんのままだ♡」


 熱を帯びた荒々しい呼吸を繰り返しながら、至近距離で妖艶な笑みを浮かべて、最後のキスを落としてきた。今度は舌を絡ませた、大人のキスだ。


 目を閉じで観念し出した時「カシャ」っとシャッターを切られた音がした。


 ———ん? なんだ?


 目を開けて見上げると、そこにはシウに跨がれて満更でもない表情のユウの写真が撮られていた。

 何でそんな写真を……?


「これでお兄ちゃんの弱みゲットだね。この写真を彼女さんにバラされたくなかったら、私の言うことを聞いてね♡」

「なっ、卑怯だぞ、シウ!」

「彼女がいるのにイケないことをしたユウお兄ちゃんが悪いんだよ? でも……迷ってくれたってことは、私にも勝ち目はあるってことだよね?」


 勝ち目の何も、相手のいない不戦勝だ。

 そんなことより、こんな写真を他の人に見られたら、そっちの方が問題だ。11歳も年下の女の子に何をしてるんだって———!


「もう、お兄ちゃん。私も18歳だよ? いつまでも子供じゃないんだから」


 写真弱味を見せながら、シウはニッと子供のように屈託のない笑顔を見せて、あどけない様子で部屋を出て行こうとした。


「これからもよろしくね、お兄ちゃん♡」


 そんな煩悩まみれの二人を嘲笑うかのように除夜の鐘が遠くに聞こえ出した。ユウの新しい年は波乱で始まりそうだ。


 ・・・・・・・・★


「え……え? コレって、どうなんの?」


 嘘の彼女だから何もハードルはない。

 いけ、思う存分イチャつけユウ!


次回の更新は12時05分です。

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