第4話 初めてのキス———お兄ちゃんがハジメテだよ?
久々の集まりに酒の入った大人達は各々の楽しみ方をしながら過ごしていた。
再会した時は綺麗なお姉さんだと思っていたイコさんもベロンベロンに酔っ払って終始ミチさんに絡み酒を繰り返していたし、母さん達も父さん達も普段通り語らいながら飲んでいるし……残されたユウとシウは昔話に花を咲かせながら語らっていた。
「それじゃユウ兄ちゃんは不動産関係の仕事なんだ。設計とかもしたりするの?」
「一応、建築士の資格は取ろうと思ってるよ。まだ二級までしか取れてないけど」
「すごいよ、それ。ウチのお父さんが建設会社なんだけど、資格のある若手が欲しいってボヤいていたよ。ユウ兄ちゃん、ウチに転職したらいいのに」
そう話しているシウも建築関係の大学に進学し、ミチさんの跡を継ごうと奮闘しているらしい。多少業種は異なるが共通の話題があって少し安心しながら会話を続けていた。
それにしても———18歳。
11歳も歳が離れているのに、妙に胸が騒がしくて敵わない。きっと近すぎる距離のせいだろう。シウが身を寄せるたびに下がるようにしているのだが、一向に距離は離れない。
あまりの緊張に耐えきれなくなったユウは「少し外の空気を吸ってくる」と席を立った。
———ダメだ、こんなの……無理ゲーだ!
まさかシウに対してこんな感情を抱くなんて思ってもいなかった。
玄関のドアを開けた瞬間、冷たい冷気が
静まり返った黒い世界———背後の声とテレビの音以外は、野生の鳴き声だけが響いていた。
澄み切った空気が気持ちがいい……。
「そっか、僕は……壊れていたわけじゃないのか」
正常に反応した身体に安堵を覚えつつ、どうしようもない現実を嘆いた。仮に自覚したところで11歳も年下の高嶺の花の美人じゃ夢のまた夢。到底叶ことのない望みだった。
腕を組んで寒さに耐えながら空を眺めていると、ドンっと背中に衝撃を感じてバランスを崩しそうになった。腰のところに絡まる腕。少し振り返るとそこにはギューっと抱き締めながら顔を埋めるシウがいた。
「……どうした、シウ」
「……お兄ちゃんが戻ってこないから、心配してきたの」
服越しとはいえ、確かにあった感触にまたしても下心が疼く。コイツ、計算でしているとしたらとんでもない小悪魔だ。
隣に立ってきたシウに羽織っていた上着を肩に掛けて、そのまま肩を抱き寄せた。どうせ束の間の幸せならダメ元で堪能したい。
「お兄ちゃん、ありがとう」
だが、嫌がるどころか肩に頭を乗せて更に距離を縮められた。これはヤバい、心臓が、もたない———……!
「……ねぇ、さっきお母さんから聞いたんだけど、お兄ちゃんって彼女ができたって本当?」
「え……?」
瞳を潤ませて複雑な表情で尋ねるシウに、胸が締め付けられた。まさか切り札にしていたカードのせいで首を絞められるとは思ってもいなかった。
「いや、あれは……」
今更嘘だとは言いづらい。どうせ帰省が終わったら解消さえる嘘なのだが、この場合は継続していた方がいいのだろう。
不本意ながら頷いて「そうだよ」と答えた。
そもそもシウにも彼氏はいるだろうから、自分にいようがいまいが関係ないだろう。
だってこんな可愛い子をまわりが男達が放っておくわけがない。
「シウは……彼氏はどんな人なの?」
聞きたくもないくせに自ら墓穴を掘るように質問を投げ掛けた。だがシウは首を振り、唇を噛み締めながらこう口にした。
「彼氏なんていないよ。私、ずっとユウ兄ちゃんのことが好きだったから」
その瞬間、首の後ろに腕を回され強引に唇を塞がれた。柔らかい感触に思わず身体が硬直した。ぐっと力を込められ離れたと思った瞬間、またチュ……と小さな音が鳴った。
動揺を隠せなかった。
だって突然の告白の後に、こんなキスをされて———焦らない男はいないだろう。
「……初めてのキスだよ。ユウ兄ちゃんの為にとっておいたんだから」
そう言葉と真っ赤になった表情をユウの脳裏に残して、シウは部屋へと戻っていった。
凄まじい破壊力———……!
28歳のユウは年下のシウに翻弄され、見事に弄ばれる結果となった。
・・・・・・・・・・★
「か、可愛すぎるんだけど……! これから僕にどうしろと⁉︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます