第5話 勇者の塔
勇者の紋章が彫られた扉を抜け、光に慣れてきた目で辺りを見回した。そこは森だった。
神殿の奥には森が広がっていた。正確に言えば神殿の奥にあるドームの天井は大きく切り抜かれており、そこから入り込んだであろう植物たちが割れた石の床の間から芽を出して森を作っていた。その森の奥、くり抜かれた天井から見える空の彼方まで届きそうな塔が、静かに俺を待っていた。
この塔の上に、勇者が眠っている。その確信を胸に、俺は一歩を踏み出した。
果ての大地に育つ植物は気候の厳しさから低木や苔のような植物が多い。木の実や果物が実る植物もあるが、どれも俺が住んでいた周辺では見ないものばかりだった。
果ての大地の植物が独自の進化を遂げているにしても、この勇者の塔の足元にある森は異常だった。塔の影響なのか、このドームがそうさせるのか、果てとは思えない瑞々しい植物が群生していた。甘い香りを放つ果物や花まである。ここはまるで、勇者のための祭壇のようだ。
「神聖な力というのは、ここまでのことができるのか」
森の中、塔に向かう道は人二人分ほどの石の道ができていた。そのまま進むと塔の入口と思われる場所に辿り着く。
「ここが、入口か……」
森で囲まれた塔の足元には円形の足場があり、そこから塔の入口への階段が伸びていた。足場の中央と塔の入口扉には勇者の紋章が描かれている。
俺はゆっくり階段を登りきり、扉に描かれた勇者の紋章に触れた。
「わ、光っ……!?」
次の瞬間、勇者の紋章は青色に光出し、中央から二つに分かれた扉がゆっくりと左右の壁に吸い込まれていった。目の前には白く、美しい階段がある。
「………………なんだ、これ」
塔の内部はこの塔がおとぎ話になるぐらい昔に作られたことを忘れさせるぐらい、美しく新しかった。もっと言えば、この塔は現代の技術よりも遥かに進んだ技術で維持されている。
塔の内壁は石とは思えない滑らかな手触りで、外の寒さが嘘のように一定の温度に保たれていた。内部は吹き抜けになっていて、螺旋階段がかなり上まで伸びているのが見える。
あまりの高さに足を踏み出すのを躊躇したが、こんなところで終わるわけにはいかない。この上に勇者がいる。それはもう俺の中では確信となっていた。
何段あるのか考えないようにひたすら階段を上り続け、休憩を挟みながら3時間ぐらい経っただろうか。塔の内部はランプがなくてもぼんやり明るくて時間帯がよくわからなかったが、足腰の疲れが限界を迎えた頃、ようやく天井が見えてきた。
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