第4話 勇者への扉
大昔、この土地は勇者を迎える場所だったそうだ。荘厳な神殿があり純真な信徒たちが慎ましく生活を送っていた場所。いまはもう見る影もないが、ここはそういう場所だったと文献に記されていた。
「あった、文献で見た柱だ」
街の中央から真っ直ぐ伸びた道の向こうには4本の大きな柱に屋根を支えられた建物があった。他の建物とは違い、高い位置に作られた窓ガラスから光を取り込む設計となっている。ガラス部分はほとんど割れてしまっているが、外壁は当時のまま美しい形を保っていた。恐らくここが神殿だろう。文献によるとこの神殿の奥に勇者の眠る塔があるらしい。
入口の木製の扉を無理矢理開いて中に入った。神殿の中は薄暗くはあったが何も見えない程ではなかった。窓から太陽光が差し込んでいたからだ。念の為すぐに灯りを付けられるようランプを確認してから足を踏み出した。
入ってすぐの広間はかつて人々が祈りを捧げる場所として使っていたようだった。俺の住む村にあった教会と同じような作りをしている。広間の中央にはなにかの像があった。腰のあたりからボロボロに崩れてしまっていて性別の判別は難しい。恐らく人間の石像だ。この地のことを考えると勇者の像だと思われるが、何事か書かれたプレートは錆びてしまっていて読めそうになかった。
像の後ろにはまた木材でできている朽ちた扉があり、扉の奥には薄暗い通路のようなものが伸びていた。この通路から先はとりわけ頑丈にできているようで、今度こそランプに灯りを灯してから進むことにした。
通路の両側にはなにか絵が描かれていた。勇者の伝承のようなものに見えるが、劣化していてよくわからなかった。暗い中をランプの灯りだけで照らすのは正直無理がある。
「機材が必要だな」
独り言を言いながら、後ろ髪を引かれる思いで壁画の前を通り過ぎた。
どのくらい歩いただろうか。長い通路の先には小部屋があり、その小部屋の先にはまた長い通路があった。どの部屋も神殿の外観からは想像できないぐらい保存状態はよく、荒らされた形跡はない。それがこの神殿の先に塔がある可能性が高いことを示していた。王様の墓が荒らされることがあっても、神の御使いである勇者の眠る地が荒らされることはないからだ。
二つの小部屋を通り過ぎ、三つ目の通路の終点に着いた時、今までとは違うものが俺を出迎えた。
それは大きな金属でできた扉だった。これだけ様々なものが経年劣化で崩れている中で、ある意味この扉だけが異質だった。この扉だけが、まるで新品のような輝きを放っていたからだ。
「これは、紋章……か?」
息を整えながらランプを向けると、まるで鏡のような扉の表面になにかの絵が彫られていることに気付いた。じっくり見なくてもわかる。これは勇者の紋章だ。
ここまで来るまで俺は半信半疑だった。文献をどれだけ読み込んでも、各地の伝承をどれだけ調べても、おとぎ話を聞いているような雲をつかむような気持ちでいた。本当は勇者などいなくて、物語は物語でしかないのではないか。そんな不安が常に付きまとっていた。
「本当に、あるんだ」
勇者の眠る高き塔は、勇者の紋章の鏡扉の先にあり。文献の一文を思い出した俺は、自分が震えていることに気付いた。心臓が早鐘を打つ。震える手で扉を押せば、開いた扉の隙間から眩しいほどの光が飛び込んできた。
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