第13話

 目が覚めた時、ボクは意識を失った時と同じ場所で、うつ伏せになって倒れていた。ずっと誰にも発見されなかったようだ。ボクは上体を起こして、埃をはたく。ボクは閑散とした、もの静かな道にひとりで残されていたようだ。

 頭はまだ痛むがこのぐらいは耐えられる。どっこいしょと、おじさんくさいセリフを吐きながら立ち上がり、現実だったんだなと物事を冷静に捉える。

 ボクはどこかに明るい場所はないかと探す。発見できたのは今にも消えそうな街灯だったが、そこの下に腰を下ろすことにした。そこでボクは地図を広げた。弥月から預かっていたものだ。ボクは膝元にそれを置く。ボクは殴られた時のことを思い返す。

 ボクの意識が消え失せる前に見た一輪の菊の花。あの花はどこにも落ちてはいない。

 見間違いか、でもそれはありえない。いくら記憶が混濁していたとしてもあったと自信を持って言える。弥月があんなものを持つ理由はない。今日持っていた花束には白い菊の花は一輪もなかった。

 では、何故落ちていて今はないのか。ボクが普通に起き上がったという事は、誰もここを通らなかったという事だ。だから、誰かに拾われたとは考えにくい。仮に風で飛ばされたとしても距離はたかが知れている。今日の風は弱いし。だから、花に足が生えて自らの意思で移動さえしない限り、消えるなんて不可能だ。

 つまりボクを殴り、弥月をさらっていった奴がそれを拾ったということ。つまりそいつこそが連続殺人事件の犯人。そう目星を立てるのが正しいだろう。もっとも、それだけで決め付けるのも時期尚早だけど。とりあえず、そう考えるのが妥当ではないか。

 しかし、一つだけ腑に落ちない。なぜ犯人は弥月を狙ったのだろうか。地図を見る限りでは残したかったであろう『K』の文字は完成しているというのに。これ以上被害者を増やす理由が見当たらない。

 そもそも図は関係がなかったのだろうか……。いや……。

 今までの犠牲者のイニシャルに必ず『K』がはいる。さらに地図上で浮上した『K』の文字。以上の二点を踏まえると、犯人はこの殺人を遊んでいるのではないか、ゲーム感覚なのではないかと思う。現実と空想が区別できずに、ゲームの度を越してしまった、そんな人。だから、図は関係ありそうに感じるが……。

 わからないから、別の話にうつるか。仮に犯人がボクたちを襲ったとして、なぜ、弥月なんだ? 狙われる理由は……?

 そういえば、弥月にも、『K』がつくではないか? 神谷弥月。そのイニシャルはY・K。「K」の文字が当てはまる。おまけに弥月はちょっとした有名人だ。犯人が彼女の名前ぐらい知っていてもおかしくはない。弥月が六番目の被害者になりうる材料は揃っている。

 なるほど。もしボクの考えている事が当たっていたとしたら。じゃあ、弥月はどこで殺害されるのか。つまり殺害現場を推理しなければならない。

 ボクは弥月と話し合ったことと新情報を基にこの事件の要点を纏めて、推察する。

 しかし何が出てくるわけでもない。推理が出ないのと、これ以上被害者を出してはいけないという気持ちがボクの苛立ちに拍車をかける。

 ボクはポケットからストラップを取り出す。それを見て久井今日子のことを考える。ボクは、これ以上身近な人を死なせたくない。

 ボクはストラップを眺める。「待てよ?」すると、何かが引っ掛かった。ボクは急いで地図を見る。そして、あの図とストラップの『K』を交互に何度も見た。そこでボクはピン、と閃くのだった。

 そこから生まれた発想を利用して細かい所を探る。一つの確証を得てからボクは携帯で、ある人物に連絡した。その人物と話しながら走った。暗い夜道を駆け出した。ボクは「あそこ」へ全力疾走していった。

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