喉元の銃は何時撃たれる

10.敵の本拠地に突入せよ。

『脱走者め…絶対に殺してやる。そうしたら、私は、この"黄金の機界"で、この世界全てを染め上げてやる…!』


 ぽっと出の脱走者ごときに"黄金の機界"は渡さん。


(お姉さんは分かってないみたいだね。今の妬みに満ちた姿がとっても醜いってこと)




軍キャンプ


 1週間後の大規模攻勢に向け、今日からは小規模ながらも連続した攻撃を仕掛けていく。こうすることで敵の休息を妨げ、常時緊張状態にする。緊張によって生まれた不安感や休息が妨げられたことによって起こる不眠により、正常な判断が出来なくなる、というトリックだ。


(寝ないこと、感情を昂ぶらさせることは冷静な判断力を失うことに直結するからねぇ)


どんな智将でも感情に突き動かされれば隙が生じる。聞いたところによると"黄界"の教主は随分と聡明で的確な指示を下すという。


(どんな奴なんだろう、敵だけど気になるな)


まだ見ぬ敵のボスに対して興味を抱いた幸実ささねであった。




1週間後、敵は疲弊していた。昼も夜も繰り返される攻撃、希望の一筋も見えない戦況に心を破壊されていた。もう入ってくる情報を的確に処理できない。伝令兵ももはやただ叫ぶだけの兵と化していた。

 

 そうして生まれた隙に乗じて政府軍による大規模攻勢が始まった。


集中することも難しい敵を倒していくのは簡単だ。一般兵の隊が何度も突撃しては退くのを繰り返し、少ない犠牲で多くの敵を排除できた。


 とうとうその時は訪れた。敵の列に穴が空いた。そこを狙って軽装狙撃兵の隊と第いち隊が突き進む。敵の隊は総崩れになった。次々と白旗が上がる。


 しかし、私はキャンプにいた。


(……まだかな)


本部から出撃命令がくるのを待っている。私たち特殊狙撃兵には、ゴーストビルへの突入任務が課されているのだ。しかし、突入したくとも突入する入口がなければ突入できない。今は、その突入口確保の報をただ待っている。


「緊張する?」


咲蘭さくらが話しかけてきた。咲蘭が率いる隊も同じように突入任務を課されている。


「当然してるよ。私が緊張しないとでも思ってた?」


「うん、だってササといえば戦場でも全く動じなくてどっしり構えてる、っていう印象だからね」


「買いかぶり過ぎ」


今はまだ談笑できる余裕はあるが、任務開始の命が出たらもうこの雰囲気は殺伐としたものに変わるだろう。


「それにしても上層部もやるよね。今回の攻撃は絶対に成功するって一般兵士を煽動するなんて」


「脳が筋肉で出来てるような奴は煽動しとけば勝手にやってくれるからね、悪手ではないと思うよ」


一般兵の多くは義務教育を終えていない。もう内戦でそれどころではなかったからだ。給料が高い軍隊に志願する者は割と多かった。学がなくても働き次第で高い給料を手にできるから、満足な教育が受けられなかった人たちにとっては格好の就職先だった。


「戦争がこんなになってるのにまだ首都の景観復興が〜とか文化財の保護が優先〜とか言ってる政府よりはマシでしょ」


「足元の課題から解決すべきだよね。今最も大きな課題は内戦の解決。次に首都機能の復興、かな」


と話しているところにちょうど私たちが待ちわびていたことが起こった。


「突入任務遂行隊員に告ぐ!現在、ゴーストビル3番ゲート付近を我が軍が侵攻中!ただちに当該箇所へ向かい突入任務の準備を行え!」


「ようやっと私たちの出番だな」


「ええ、お互い頑張りましょう。平和を取り戻すために」




ゴーストビル 3番ゲート

 私たちが着いた頃には、そこかしこに政府軍の旗が立っていた。この場所が政府軍のものになった証だ。政府軍の拠点はゲートのゴーストビル側にある。拠点といってもテントのようなものだが、このテントには特殊な加工が施されており、ゴーストビル周辺に張られた異常磁場フィールドから人体を守る働きがある。 

 ゴーストビルは似たような構造の異常磁場防御壁で造られているため、異常磁場の影響を受けないらしい。だから、一度ビルのどこかを制圧してしまえばそこをそのまま拠点にできるとのことだ。


(まあ、制圧しなきゃ始まらないんだけどね)


 すぐにゴーストビル1階の制圧命令が出たため、私たち特殊狙撃兵はゴーストビル内部に向かった。




ゴーストビル 1階

 ゴーストビル自体は初めてではないが、1階から入っていくのは初めてだ。


(こんな感じになってたんだ…)


いかにも宗教らしい飾りや額が飾られている。


 すると奥の方から騒がしい足音が聞こえてきた。3番ゲートに最も近い部屋は確か講義室だったはずた。どうやって講義室に入ったかというと、窓をぶち壊した。そこには異常磁場防御フィルムを張って置いたから、近づかなければ害はない。


 講義室の仰々しい扉が開いた。中に入ってくる兵士は一様に疲れ切っていた。だからその隙を突くのは難しいことではない。


 隙を突かれてふらふらとしている兵士を尻目に次々と他の突入隊員が部屋を飛び出していく。私も、後処理を部下に任せて飛び出していく。


(獲物、獲物っと…あっ、はっけーん)


 そこは廊下の曲がり角になっていて尚且つ暗い。身を潜めてから急襲するにはうってつけの場所だ。


「「バンッ!!」」


銃声が2つして、兵士ふたりが倒れた。銃声のうち1つは私のもの。もう1つは…



『よお、ササ!会ったばっかで悪ぃけど、この手柄は俺のもんだぜ!!』

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