11.進撃を止めるな。
『よお、ササ!会ったばっかで
「誰かと思ったら、お前か、ヒナ」
(…っと、軽口叩き合ってる余裕もないか)
やはり私も疲れているようだ。残っていた相手が銃を構えたのを見過ごした。幸い直前に気付いてなんとか避けられたが、腕に少し掠ってしまった。
「いてて、っと」
「お前の相手はこの俺だよ!」
後ろから
「危ない!こっちに向かって撃つな!死ぬところだったぞ!」
「しゃーねえだろ!挟んでるんだ、敵が避けたら当たるぞ」
今対峙している敵は、身長2m程の大男。その巨躯に似合わず動きが俊敏だ。また、その大きな腕から放たれるパワーは計り知れないほどのエネルギーを持っている。私もできることなら緋夏汰の側に周りたいが、通る道は相手の間合いだ。たぶん一発やられる。
「こっちも動けない!」
向こうへ周るために、相手に攻撃を仕掛けているがなかなか当たらない。遠距離攻撃は味方に当たる可能性があるため近距離での攻撃で。しかし、私の攻撃も緋夏汰の攻撃も当たらなかった。
(なんか舞うように避けられる…まさに蝶のように舞い、蜂のように刺すってやつだね)
一応2対1でこちらが数では優勢なのだが、相手が熟練しすぎている。つけいる隙がない。
(まだこんなのを隠し持っていたのか、"黄界"…!)
もちろん相手も避けてばかりではない。こちらに攻撃を入れてくる。体力に割と余裕がある今でさえ紙一重で避けられるくらいの正確無比な攻撃にゾクゾクする。
(いいじゃないいいじゃない、楽しい…♪)
次々と襲い掛かる強烈な攻撃に先に音を上げたのは緋夏汰だった。
「ぐあっっ…!」
「ヒナっ!!」
緋夏汰を殴り飛ばしても敵の表情は変わらない。いっそロボットのようだ。しかし、一瞬、ほんの僅かに笑った。それが初めてできた隙だった。
「どりゃっっ!」
一発相手に食らわせるがびくともしない。それどころか吹き飛ばされた。敵は受けた攻撃を気にせず緋夏汰の方へと歩いていく。わざわざ歩くのは勝者の余裕、というやつだろう。
「ヴィオリエッタ様に感謝を。悪しき叛逆者には死を」
呪文のように唱えられたそれは、重く重く響いた。
「ヒナっっっ!!」
いつの間にか取り出されたナイフが緋夏汰の心臓を貫くと思われた、その時。
「殺れると思ったか?残念。俺はこの機会を伺ってたんだよ!」
緋夏汰は屈んでいた相手の腕を力いっぱい握ると、そこに右手で隠し持っていた拳銃を当てて、引き金を引いた。
相手はそれに怯み、持っていたナイフを離した。その一瞬が、勝敗を分けた。
「ササ!!いっけぇぇぇーーーー!」
なんとか立ち上がって、拳銃を構え、引き金を引く。銃弾が相手の首に着弾すると同時に、緋夏汰が奪ったナイフを相手の鳩尾に刺す。もう一度同じことをする。10回ほど繰り返したところで敵は倒れ、動かなくなった。
「ふう、なんとか終わったね」
「ああ、何とかな。薄氷を踏む勝利とはこのことだな」
今回の戦闘は2人で協力したからこそ勝てたと思っている。たぶん緋夏汰がいなければ隙を作れず、私がいなければトドメを刺せなかっただろう。
「まあ、ありがとね。最初にあんたが出てきたときはどうなることかと思ったけど」
「どういう意味だよ」
「まあ、あとで言うから」
そういって、私たちはそれぞれの戦いへと身を投じていった。私には私に定められたルートがあり、緋夏汰には緋夏汰のルートがある。
その後の戦闘は、先程の巨人に比べれば遥かに簡単だった。他のところでもそんな混戦はなく、すんなりと1階が陥落した。
(……まさかこんなに上手くいくとは思ってなかった)
せめて2日かかって奇跡、だと思っていたが予想外すぎて未だに受け入れられない。少し拍子抜けした感じだ。
「本日はうまく行ったが、明日もそうとは限らん。気を抜かず、精進するように」
少将もそう言っている。きっとこの結末は誰も予想できなかっただろう。
「一体この好進撃もいつまで続くだろうな……」
ゴーストビル 20階
1階が陥落した。そんなことあるはずがない、幹部たちは次々と口にしたが、事実は事実だ。認めるしかない。
「ダイモンはどうしたダイモンは!あやつはこの"黄金の機界"でも上の階級に位置していたはず!」
「ダイモンは脱走者に殺られた。あの娘、見くびっておった。狙撃兵というからには近接戦闘に向かぬと思ったのだがな」
ダイモン。"黄金の機界"に初期から忠誠を誓っているメンバーの1人だ。巨体と俊敏さを活かし、門番として有能だったのだが、まさか狙撃兵ごときに敗れるとは。
「皆の者。まだここまでに19階もある。逃げる算段は17階が攻め落とされてからにしろ。それに、ヴィオリエッタ様が降るまで戦いは終わらん」
『全信者に告ぐ!現在ゴーストビル1階が攻め落とされた!だが負けてはならぬ!我らにはヴィオリエッタ様が付いておられる!恐れることなどない、進め!』
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