第13話 おっさん指導する
空手の帯は道着を固定する役割があるが、それ以外に色によってその人の習熟度を示すという意味合いもある。私の通う道場では白から始まり黄色→青→緑→茶と帯の色が変わっていく。そして初段になって黒帯となる。道場によって順番の違いはあるが、初心者が白で有段者が黒というのはどこの流派でも共通だ(ちなみに柔道も似たような感じ)。
経験者ということもあり、私は黄色をすっ飛ばして最初の試験で青帯に上がったわけだが、それにより先に入った子供達を何人か追い抜くという状態になる。
級が上がることで、後輩たちに指導を任される場面が少しづつ増えてきた。
主に夏井さんに教えることが多いのだが、たまに黄色帯の子達に基本動作を教えたりもする。
ある日の組手の時間。黒帯をはじめとする上級者が横一列に並び、後輩が順番に組手をしていく。元立ちという稽古だ。組手後に後輩達は上級者からアドバイスを頂く
私と夏井さんも小学生に交じって稽古をつけてもらう。といっても相手はヒロキ君・サトシ君・長谷部さんの誰かになるのだが・・・。
硬式の大会が近いこともあり、上級者は相手に合わせてフェイスガードを付けたりする(体の防具もあるのだが、フルコンをする人もいるので上級者は付けない)。
いつものごとくヒロキ君にズタボロにされて組手終了。
「基本的に特にいうことないんですよね。敢えて言うなら身体を柔らかくしてください(笑)。お父さんが上段蹴りが出来るようになったら、かなりやり辛くなると思います。」
「頑張ります・・・。」
そう、私は身体が硬いのでハイキックはできない。頑張れば何とか届くかもしれないが、モーションが大きいので実用性はないに等しい。
一旦下がって、夏井さんの組手を見る。夏井さんは元々器用なのだろう。初心者から始めたにも関わらず、ある程度形になっている。
そうこうしているうちに、夏井さんの組手が終了。休んだことだし、今度は長谷部さんにお願いしようかな?と思っていたら、館長から声がかかる。
「お父さん、シュウタの硬式の相手をしてもらっても良いですか?ヒロキは審判をしてくれるかな?」
シュウタ君も小学生相手に指導していたのだが、本人も硬式の試合に出るので組手の練習が必要なのだろう。私が相手をし、ヒロキ君が横からみてアドバイスをするようだ。
フェイスガードを借りて、シュウタ君と対峙する。前回は初めての硬式(まあ、伝統
派とやり方はさほど変わらないが)だったので、自分の得意な構えで組手をしたが、シュウタ君も試合が近いので、標準的な構えで良いだろう。
左手を顔の少し前に上げ、右手は中段に置く。ちなみに本来なら私はリーチを生かすため、左手を下にさげてふらふらさせている。
仮想中学生なので、遠間から飛び込まず、中間距離での攻防をメインに組手を行う。
やはりシュウタ君、ずっとフルコンでやってきていたので、上段突きの攻防が今一つ苦手の様だ。
ある程度攻防を行った所で、今度は両手を下げてみた。フットワークを使い、突きを避けながら上段突きのフェイク、そのまま懐に飛び込んで中段突きを決める。
結局4-1で私の勝ちとなった。
組手後、シュウタ君はヒロキ君から指導してもらう。
私がお役御免とばかりに下がろうとするが・・・
「お父さんからもシュウタにアドバイスをお願いします。」
館長から思いもよらぬ一声。
いやいや、青帯が黒帯にアドバイスというのは・・・。私が面食らっていると、
「なんだかんだいってお父さんの方が硬式に関しては技術があります。シュウタは中学生の中では背は高い方ですし、気づいたことがあったら教えてあげてください。」
中々やりにくいが仕方ない。シュウタ君のところへ行き、声をかける。
「自分が気づいた点は2点です。」
シュウタ君は中学生だが、私の方が後輩なので敬語で話す。
「1つ目は、飛び込んで突きを打つ際に頭が下がっていること。上段の突きへの対処に慣れていないとは思いますが、顔を下げたら思うつぼです。どうせ当たっても痛くないので、相打ち覚悟で顔を上げて攻撃しましょう。」
「2つ目は、自分の間合いを把握することです。シュウタ先輩は私と同様背が高いので、相手を懐に入れないという意識を持ったほうが良いです。そして自分のリーチを正確に把握して、相手の攻撃は当たらないけど自分の攻撃は当たる間合いで常に勝負すると良いかと思います。」
「はい。ありがとうございます」
後輩からのアドバイスもシュウタ君は素直に聞いている。
「こんな感じで良いですか?」
館長に聞いてみる。
「完璧です。」
館長は微笑みながら続ける。
「とても分かりやすいアドバイスをありがとうございます。お父さん、指導員に向いてますね。」
「ははは・・・」
結局その日は元立ちで上級者側に回り、小学生の指導をして終了となった。
中途半端に経験者なので、立ち位置が微妙ではあるが、私程度の知識や技術でも何かの足しなれば良いが・・・。
その後の硬式の大会を見に行くのだが(わが子も出るので)、それは次回に・・・。
次回「おっさん応援に行く。」
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