第9話 おっさん蹴りを練習する2

ローキック・・・下段蹴りとも呼ばれるが、フルコン空手では非常に使う頻度の多い技だ。映画などではハイキック(上段回し蹴り)やスピンキック(後ろ回し蹴り)といった大技がよく見られるが、実際に素人と打撃格闘技の経験者で最も違いが出るのは、ローキックだと個人的には思っている。


以前にも書いたが、伝統派にはローキックがないので、下段の攻防は中々苦戦している。ローキックの防御は膝で捌くのが基本だ。飛んでくるにけりに対して膝で迎撃する。


思いっきりローキックを打った場合、膝でブロックされると蹴った方の脛は死ぬほど痛い。また、防御せずにローキックを喰らうと、きれいに入った場合、2~3日はしゃがめないほど太腿の痛みに苦しむことになる。


組手の際はなるべくローの打ち合いは避けてはいるのだが、それでも限界はある。そこでヒロキ君に教えを乞うことに。


「ローキックは重心が乗っている足を蹴るのがセオリーです。重心が乗っていたら膝を上げられませんから。で、お父さんの場合、パンチが届かない間合いでローを蹴ってくることが多いので、受ける側はある程度フラットな重心の状態です。その状態だと簡単に足を上げられます。」


「ある程度相手の重心をコントロールしないといけないということですか?」


「そうなんです。例えばオーソドックスの構えなら、突きの打ち合いの時に左の下突きで相手の重心を左に行かせといて、左のローを打つのもありです。」


「なるほど。あとヒロキ先輩は奥足へのローも結構使いますよね。」


「そうですね。ただ、いきなり蹴ったんじゃモーションでバレますから、その前にへのインローを何度か打って相手がインローを警戒しだしたら、奥足へ入れたりします。」


「確かに言われてみれば、そのパターンは結構ありますね。」


「お父さんは足が長いので奥足へのローは届きやすいと思います。なので、先に布石を打っておくと結構決まると思いますよ。今は右のアウトローが多いので、インローで攻めたり、アウトローを何発か撃った後に、フェイントをで右足を上げておいて、奥足へのローなんかも良いと思います。」


文章だと分かりづらいかもしれないが、実際には実演してもらいながら教わったので、とても分かりやすかった。


後日、長谷部さん相手に試してみると、結構綺麗に決まった。まあ、私も結構もらったが・・・。

「ローが上手くなりましたね。これから相手するのが大変になりますね。」

笑いながら長谷部さんが声をかけてきた。


そうは言うもののまだ長谷部さんは余裕がありそうだ。


まあ、この歳になっても何かが上達するというのは嬉しいものだ。

喜ぶ私に次のミッションが迫っていた・・・。

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