第7話 おっさん硬式空手に挑む

以前、伝統空手とフルコン空手に関して説明したことがあった。この二つが空手の主流ではあるのだが、この二つの中間のような競技ルールが存在する。それが硬式空手だ。


硬式空手は頭部と胴体に防具を着用して、顔面にも直接攻撃を当てられるルールだ。

ローキック・頭部への膝蹴りはなしで、勝敗はポイントによって決められる。


直接打撃だが試合の流れは伝統空手に近い。防具を着用することで痛みが大幅に軽減されるため、子供も恐怖心なく試合ができる上、ローキックもないので怪我のリスクも少ない。



私の通う道場は元々フルコンメインではあったが、硬式空手も行っており、たまに大会にも出ていたようだ。ただ、上記の理由により子供に関しては硬式の割合を増やしていく方向らしい。



普段の練習は基本的に中学生以上はフルコンでやっているのだが、中学生のうちの1人、シュウタ君は硬式とフルコン両方でやっている。ちなみに、彼は道場にいる黒帯女性の息子さんだ。


その日は硬式の試合が近いので、試合に出る子達は硬式の組手の練習。

普段、シュウタ君の硬式の相手は大学生のヒロキ君とサトシ君がしているのだが、

その日はヒロキ君が大学のテストが近い為お休みだった。


道場にはシュウタ君の他に二人中学生がいるが、硬式の経験はない。

そこで館長から私に声がかかる。


「お父さん、申し訳ないですがシュウタの相手をお願いして良いですか?」


黒帯のサトシ君は他の子の指導もあるから、シュウタ君につきっきりというわけにはいかないだろう。そういうわけで私が相手をすることに・・・。


寸止めするかしないかの違いで、ほとんど伝統空手に近いルール。対応はできるとは思うが、なにせ約30年ぶりだ。果たして館長の期待に応えられるかどうか・・・。


とりあえず、胴体の防具は付けず、顔面だけ道場の防具を借りてシュウタ君と対峙する。


上段の突きがあるのでフルコンの時よりガードを上げる。いつもの構えから少し右半身を後方に引き、縦長の構えになる。


まずは前後にステップを踏み様子を伺う。


とりあえず遠めの間合いからボクシングのジャブの要領で左手を前に突き出す。シュウタ君は170㎝ちょっとと中学2年生にしてはかなり背が高い。それでも180㎝以上ある私の方がリーチは長い。そのせいか、中々避けづらそうだ。


今度は飛び込みながら左の突きを放ち、シュウタ君が後ろに下がった所にさらに右のストレートで追い打ちをかける。


綺麗に決まった。



シュウタ君自体が硬式を本格的に始めて間もないので、上段の突きへの対応に慣れていないようだ(そういう私も対応できないが)。


今度はシュウタ君が間合いを詰めてきたので、前蹴りでけん制して入れさせない。

私はリーチが長いので、基本的に相手を懐に入らせないようにするのがセオリーだ。


逡巡しているシュウタ君に対し、再度左の突きを放つ。シュウタ君は顔を傾けて突きを避け、カウンターで迎撃態勢に入る。おそらくそう来るだろうと思っていた。


左の突きを引きながら体を沈めて、中段に突きを放つ。これも綺麗に決まった。

中学生、しかも今までフルコンメインでやっていたので、現段階では私の方が上手の様だ。まあ、慣れたらすぐに抜かれそうだが・・・。



その後は、ある程度受け身で相手をして、時間切れ。


「シュウタ、マサ(私の息子)のお父さん強いだろう?」

横で見ていたサトシ君がシュウタ君に声をかける。


「最初は何にもさせてもらえませんでした・・・。」

シュウタ君はやや意気消沈している様子だ。


「リーチ差もありますからね。多分1年もしたら私では手に負えなくなると思いますよ。」


シュウタ君には悪いが、こちらはどうにか面目を保てた形だ。

ほっとしたのも束の間、サトシ君から声がかかる。


「お父さん、自分ともやりましょうよ。」


というわけで、黒帯との対戦。不安しかないのだが・・・。


次回に続く




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