第377話 聖剣との再会

「さっさと帰って修行するぞー!」


「おぉぉぉ!!」


 オレはジャンと競い合うように騎馬を走らせていた。オニキスが軽快にオレを運んでくれている。


 リューキュリア騎士団の面々が気合が入った顔でついてくる。


 〈さっさと帰って修行する〉その言葉には、雷龍様に鍛えられて強くなったというジャンに、対抗心を燃やしているのもある。


 あるが、本当の目的は、さっさと帰ってクリスに会いたい。それだけだった。


「ちょっと!王様が先頭なんて聞いたことありません!団長!そいつ止めて!」


「がはは!我らが王はやはり頼りになる!俺らも負けていられぬな!」


「おぉぉぉ!!」


「こ、こいつら!これだから脳筋は!」


 サンディアも必死でついてきていたが、頭を抱えているのは声から明らかだったでも、速度は緩めない。



 少し後方の馬車にて、


「おにいちゃん…げんきで、よかった…ね?」


「うふふ♪そうですね、でも、クリスにちょっと嫉妬しちゃいます♪」


「んー?なんでぇー?」

「ピー?」


「そりゃあ、あんなに急いで帰ってる理由は、クリスのためだから、ですよ?」


「そうなの?修行したいって言ってるけど?」


「コハルには、乙女心というのを教えないとですね」


「ノアはわかるよ!ママ!」


 オレの後方では、妻たちがそんな会話を馬車でしていたらしい。それは後日教えてもらったことだ。



-ウチナシーレ 自宅-


 オレたちは、行きの工程よりも2日も早くウチナシーレに戻ってきた。


 騎士団のやつらは平気そうだったが、サンディアたち司祭陣は疲れた顔をしていた。ま、そんなことどうでもいい。


「ただいま!」


 オレは勢いよく屋敷の扉を開けて中に入った。今は夜だ、だから――


「あ、おかえりなさい、ライお兄さん、クリスお姉さんならもう帰ってきてるよ」


「クリス!」


 オレはユーカに答えることも忘れてリビングに向かう。


 すると、そこには見知った金髪オッドアイの美人が立っていた。


「お、おかえり……ねぇ?この前の正門前でのあれってなんだよ?はずかし……」


「クリス!」


「むうっ!?」


 オレはクリスが何かいい終わる前に、抱きつき、唇を重ねた。子どもたちがいることも忘れて。


「ちゅーしてるー!」

「ちゅー!」


 トトとキッカが楽しそうに指差してくる。


「あわわわ……」


 カイリは赤い顔だ。


「ちょっと!2人とも!そういうのは私たちがいないときにしてよ!」


 ユーカに怒られてしまった。


「ぷはっ!落ち着け!僕はずっとそばにいるから!」


「愛してる!」


「もう!わかったから!落ち着け!バカ!」


「愛してるだってー!」

「カッコいいー!」


 子どもたちがオレのことを見て騒いでいたが、腕の中の温もりを感じることに必死で、全然気にならなかった。


 クリスはレウキクロスにいたって、オレのそばにいる。


 そう思えて、そう思えることを噛み締めて、しばらくクリスを離すことができなかった。


「……もう……キミってやつは……」


 そんなオレを見て、呆れたような声を出すクリスは、優しくオレの頭を撫で続けてくれるのだった。


♢♦♢


 数日後、オレはリューキュリア騎士団の訓練場に赴いていた。


 木刀を構え、騎士の相手をする。


「本気でこい」


「はっ!懐をお借りします!」


 武士にみたいなことを言うそいつは、大きな木刀を振り回しながら、斬りかかってくる。しかし、速度が足りない。当たる気がしなかった。


 6回ほど攻撃を避けてやり、背中に一撃を叩き込む。


「ぐはっ!?」


「はい、次」


 これで10人目だ。弱い、弱すぎる、話にならない。


「次は俺とどうだ?我らが王よ!」


 さっきから、ワクワクした顔をしていたジャンが声をかけてくる。


「もう我慢できなくなったのか?今日は騎士団の訓練が目的なんだが……」


「ならば!俺にも稽古をつけてくれ!我らが王!」


「いやだから……あんたとオレだと、互角なんじゃ……」


「わかった!手加減してやろう!」


「はい?」


「がはは!雷龍様に鍛えられた俺と戦うのがよっぽど怖いようだ!見損なったぞ!我らが王よ!」


 安い挑発だ。現にあいつは笑っている。


「……いいぜぇ……やってやろうじゃねぇか……リューキュリア教国教皇の力!見せてやるよ!」


 オレはあっさりその挑発にのってしまった。


 騎士たちが「わぁわぁ!」とはやし立てる。オレたちの戦いは大盛り上がりだった。


 そして――


「ぜぇ……ぜぇ……参ったか……この筋肉バカめ……」


「はぁ……はぁ……やはり、我らが王はお強い……」


 オレの辛勝であった。ジャンはめちゃくちゃ強かったのだ。


 オレはキルクを使っていないし、雷を纏った状態ではない。でも、瞬光はガンガン使ったし、チートなしで全力を出した。それでも、辛勝だ。


 ジャンは、剛剣というのがしっくりくる力任せの剣技を繰り出してきて、正面から受けようものなら吹き飛ばされ、踏み潰されていただろう。コハルに剣の受け流しを習っていなかったら危なかったと思う。


「ねぇねぇ!次はボクとやろうよ!団長!」


「お、おぉ……コハル殿……ふぅー……よし!よろしくお願い申す!」


「うん!」


コハルが楽しそうにジャンと相対した。短い木刀を二本持って、軽やかなステップを踏んでいる。

 オレは一旦下がることにした。


「お疲れ様です♪」


「ありがと」


 ベンチに座るとステラが冷たいお茶を渡してくれた。


「ライ様、ヒールはよろしいですか?」


「うん、大丈夫、いつもありがとね」


「いえいえ」


「それで、ライさん、クリスさんと交換できるくらい強い人はいましたか?」


「いないね」


「ですよねぇ、私の目からしても同じ意見です。団長さんはすごく強いですけど」


「そうなんだよなぁ……」


 今日の訓練の目的は、騎士団を鍛えることもそうだが、大使館が完成した後の出張部隊についての検討も含まれていた。


 クリスがウチナシーレの大使館にくるためには、こちらも同等以上の戦力をレウキクロスに差し出さないといけない。


 今のところ、ウチナシーレの剣士陣の最大戦力は、オレ、ジャン、コハル、ステラの4人だった。全員クリスと交換することができない人材だ。


「あ、勝負アリか」


 考えているうちに、目の前の試合が終わり、コハルが木刀を掲げていた。ジャンは膝をついている。

 体力を使い果たしていたのもあるだろうが、素早く手数が多いコハルと、ジャンは相性が悪いようだった。


「お疲れ〜」


 こちらに走ってきたコハルに声をかける。


「へっへーん!ボクの勝ちー!」


 Vサインをして満面の笑顔だった。可愛い。


「ふぅ……やはり、我らが王も、奥方様たちもお強い。騎士として恥ずかしいばかりだ」


 ジャンさんもやってきた。


「いやいや、ジャンさんは十分強いよ。問題は他のメンツだな」


「だろうな、俺の方でもビシビシしごいていくつもりだ。しかし、人はすぐには育たぬ」


「ま、そうだよね。リューキュリアの地方都市に強い騎士っていないの?」


「境沿いに数人、心当たりがあるが、国境を守る騎士なので、首都に呼ぶのは難しいだろう」


「なるほどねぇ……」


「それよりも!コハル殿とステラ殿が騎士団に入ってくれれば万事解決なのだがな!」


「ん?いやいや、騎士団は強くなっても、クリスと交換はできないから、意味ないんだが?」


「そうか!これは失礼した!

 おまえら!我らが王に無様を見せたんだ!今日は夜まで訓練だぞ!」


「ぉ、おぉぉぉ!!」


 ジャンの号令と共に、騎士たちがランニングに出かけていった。それを見送りつつ会話を続ける。


「……んー、悩ましいね〜」


「そうですね。国民の中から腕に自信がある人材を募集するとかはどうでしょう?エルネスタでも、平民出の腕利きは何人もいましたよ?」


「なるほど、それはいいアイデアだ。明日サンディアに提案してみるよ。ありがとね、ステラ」


「いえいえ♪」


 ということで、人材問題は保留にして、王城に戻ることにした。


 クリスは、いつでも屋敷にくることができるので、大使館に来れなくても問題は少ないのだが、大手を振って町を歩けないのは不便だ。

 なので、騎士団の戦力拡大については、引き続き考えていこうと思う。

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