第375話 転移魔法陣
3日後、オレたちは改めてルーナシア陛下と面会を行った。
主な議題は、レウキクロスに到着した時と同じだ。
オレとクリスの結婚を公表すること、これについては賛成の方針であること、大使館をそれぞれに作ることについても賛成と伝えた。しかし、クリスと交換する人材については検討中で、もしかしたら大使館が完成してしばらくはクリス以外との交換となるかもしれないとも伝えておいた。
ただし、これらは全て仮回答なので、国に戻ったら正式に書状にて回答します、という風に話す。
「承知しました。良い回答をお待ちしております」
「はい、それはもちろんです。両国の親交が深まるよう、私としても努めていくつもりです」
「ふふ、ありがとうございます。そう言ってもらえると心強い。ライ陛下とでしたら、きっと上手く付き合っていけると、思っております」
「ありがとうございます。ルーナシア陛下にそう言っていただけると、自信になります」
「それはもう、ライ陛下はレウキクロスの英雄でもありますし、なんといっても、私自身がライ陛下のお言葉で自分を見直せた1人なのですから、信頼しておりますとも」
ルーナシア陛下の笑顔をみて、リリィを助けにきた日のことを思い出した。あのときは、大声でルーナシア陛下に怒鳴り散らしたっけ……
「その節は……大変失礼致しました」
ペコリと頭を下げる。
「いえいえ、謝らないでください。本当に感謝しているのです。それと、私からのアドバイスですが、国王は頭を下げるのはほどほどにしましょう。親交が深まってない相手ですと、軽く見られたり、誤解されたりしますので」
「アドバイスありがとうございます。今後、気をつけようと思います」
そう言ってから、立ち上がり、片手を差し出す。
「これからも良好な関係を、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、末永く、良い国家を作っていきましょう」
ルーナシア陛下も手を差し出してくれた。
オレたちは固い握手を交わし、そしてリューキュリア側の面々から部屋を出る。
こうして、ルーナシア陛下と顔を合わせるのもあと一回、帰国するときだけだ。
オレたちは、これから3日間、レウキクロスに滞在させてもらって、ウチナシーレに戻ることになっているのだから。
クリスを、レウキクロスに残して。
♢
「ただいま〜」
「あ、おかえり、今日の話し合いも堂々としてたじゃん」
先に帰ってきていたクリスに迎え入れられる。
オレは、リューキュリア騎士団が滞在させてもらっている施設で打ち合わせしてきた後だったので、少し遅い時間になってしまった。
「……」
「どうかしたのか?」
オレが黙ってると、クリスが近づいてきて、首を傾げる。
「おまえのこと、抱きたい、今から」
「は?……え?なんだよ……急に……」
後ろに手を回し、もじもじするクリス。
「あと3日経つと、オレたちはレウキクロスを発つ」
「うん……」
「おまえはここに残る」
「そうだね……」
「だから、抱きたい、たくさん」
「……いいけど……ノアールちゃんの魔法で、いつだって会えるだろ?」
「そうだけど、そうなんだけど、でも抱きたい」
「やっぱり不安?」
「おまえもちょっとはあるだろ?」
「……うん……わかった……しよ?」
「ああ」
そして、クリスの手を引いて、2階のオレの部屋に向かった。
『夕ご飯はあとで食べる』、ステラに意識共有で伝えてから、自室の扉を閉めきった。
♢
「それじゃあ、ノアが寝てても、クリスねぇがノアたちのところに来れるようにしておくね」
「え?そんなことできるの?」
翌朝、オレとクリスが手を握り合ってリビングのソファに座っていたら、ノアールが近づいてきてそんなことを言った。
オレとクリスは顔を見合わせる。
「できるよー!あれ?パパには見せたことなかったっけ?」
「う、うん……ノアールが扉を召喚しないといけないと思ってた……」
「それだとノアの魔力使うから〜、転移魔法の使用者が魔力を使うように改造したんだ〜」
「か、改造?」
「ライよ、ノアールはなかなか面白いやつだ」
オレが首を傾げていると、雷龍様もやってきてドヤ顔をしている。
「こいつは我が育てた!がはは!」
「ほ、ほう?つまり?」
「我が教えたことを吸収するだけでなく、自分で応用するのだ。とても面白いやつだ」
「竜ねぇ!ノアすごいよね!」
「そうだな!おまえはすごいやつなのだ!」
「えへへ!ほらね!じゃあ!転移魔法の魔法陣を描いておくから!どこに描けばいい?クリスねぇ?」
「え?え?えーっと、その魔法陣を使えば、僕が好きなタイミングで転移魔法を使えるの?」
「そうだよ!」
「どこに繋がるのかな?」
「えっとね、ウチナシーレのお屋敷にも同じ魔法陣を描いてあるから、そこに繋がるようにしてあるよ」
「そ、そうなんだ……すごいね……」
「うん!で!どこに魔法陣描く?」
「その魔法陣って大きいの?」
「えーっと、いつも出す扉と同じだよ」
「なるほど……だとすると、2階の僕の部屋がいいかな?それとも鍵がかかるような部屋とか?」
クリスがオレのことを見る。
「んー、そうだな。ある程度、隠せる場所にしておかないと物騒だよな」
「うん、僕もそう思う」
「にゃー?なんで?」
「だって、クリス以外の人が魔法陣を使ってウチナシーレの屋敷に現れたら怖いだろ?」
「そんなことできないよ?クリスねぇの魔力にしか反応しないように描いてあるから」
「そ、そうなんだ……」
「うん!」
「がはは!ほれ!面白いやつだろう!」
本当に面白い、というか凄すぎる。セキュリティもバッチリな転移魔法らしい。
「ちなみに、ウチナシーレの屋敷には、どこに魔法陣描いてきたの?」
「クリスねぇのお部屋!」
「ええ?いつの間に?」
「向こうを出発した日の前の日!」
「なるほど……」
あの日の晩、クリスはオレの部屋にいた。その間に描いたということか。
「じゃあ、こっちの屋敷でも、おまえの部屋でいいんじゃないか?」
「そうだね。今の話なら、下手に隠すのも怪しいし、僕の部屋の壁に描いてもらおうか」
「うん、それがいいと思う」
「わかった!ノアに任せて!」
タタターっと走り出し、階段に向かうノアール。
「クリスねぇの部屋どこだっけー?」
大きな声で呼ばれた。
「すぐ行くよー!」
オレたちは2人して立ち上がって、ノアールの後を追った。
ソフィアとティナもついてきて、ノアールがクリスの部屋の壁に魔法陣を描くのを見学するらしい。
クリスの部屋に着き、ノアールが壁に魔法陣を描き始めたので、高いところはオレが腰を掴んで持ち上げてやる。
それをロリ魔法使い2人が驚嘆しながら眺めていた。
「なによこれ……どうなってるの……」
「さっぱりわからんのじゃ……」
ノアールが描いているのは、いつも転移魔法に使っている扉を更に複雑に描いたようなものだった。ぱっと見は扉のような形だが、細かい模様が追加されているように思う。
「はい!出来上がりー!」
15分足らずで魔法陣は完成した。
ノアールが完成!と言うと、扉全体がやんわりと光り、壁に馴染む。魔法に詳しくない人からしたら、すごくうまい落書き、というか、こういうアートなのかな?という出来栄えだった。
「クリスねぇ!このドアノブに手のひらを当てて、魔力をちょっと注いでみて!」
「わ、わかった……」
クリスが壁に近づいて、魔法陣に手のひらを重ねる。
すると、また柔らかく魔法陣が光って、ドアノブがニョキッと壁から現れた。光っていて透明なドアノブだ。
「それをひねって引っ張ればドアが開くから!」
「う、うん……」
そして、ドアノブを引く。すると、いつもの黒いモヤが現れて、クリスは顔をそこに突っ込んだ。
すぐに戻ってくる。
「僕の……ウチナシーレの僕の部屋だった……」
「良かった!成功だね!」
「うん……うん……ノアールちゃん!」
「なぁに!」
「大好き!」
ノアールの脇を持って、くるくると抱きかかえるクリス。
「えへへー!喜んでもらえてノアも嬉しい!」
「ノアールちゃんは天才で優しくって可愛い!好き!」
「ノアもクリスねぇのこと好きだよ!」
なんだか、2人がイチャイチャしてるのを見ると、ほんの少しだけ嫉妬してしまったが、そんなことより、クリスの意志で簡単に転移できることになった喜びの方が大きかった。
こいつはきっとノアールに遠慮したり、オレに遠慮したりで、気軽に転移魔法を使えないのでは?と懸念してたからだ。
もちろん、事前に話し合って、「遠慮なんてするな」って言ってあったけど、人の性格はなかなか変わらない。だから、クリスはすごく喜んでると思う。オレも自分のことのように嬉しい。
「なんで……なんでこの魔法陣が成立するのよ……ティナ?」
「……わからぬ……やはり、もう一度、あの雷龍に教えを乞わねばならぬのか……屈辱じゃ……」
オレの後ろで、壁に描かれた魔法陣を見て、ロリ魔法使いたちが議論していた。
ティナさん?そろそろ雷龍様に敬意を払おうね?
そう思いながら、オレはクリスとノアールのことをニコニコと眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます