第374話 レウキクロスとウチナシーレを繋ごう
翌日、サンディアたち司祭陣とあらためて話し合い、クリスとの婚約を発表するのは問題ないのでは、と結論づけた。一応ウチナシーレに帰ってから回答しようということになったが、こっちはほぼほぼ確定だ。
「なんだか恥ずかしいね、婚約発表ってさ」
クリスがおどけて笑う。
「まぁちょっとな。でも、オレはおまえみたいな美人を嫁さんだって自慢できて気分がいい。それに有名人だしな」
「はは、なんだよそれ……ぼ、僕だって、キミみたいなカッコいい王様が旦那だって言えて、気分いいかも?」
「なんだよ、今日は素直だな……」
「たまにはね……」
「……あの、会議中にイチャつかないでもらっていいですか?」
サンディアが呆れ顔でこっちを見てきた。そりゃそうだ。屋敷のリビングで、みんないるところで話し合っているのだから。
「ああ、はいはい。で、あとは大使館の方ね」
「ええ、大使館建設、というアイディアは以前からいいと思っていたのですが、クリス殿に代わる戦力がこちらで用意できるかどうかが問題ですね……」
「だよなぁ、ちなみにジャンさんってどれくらい強いの?」
「俺か?俺としては、リューキュリア最強だ!と言いたいところだが、どうだろうか、我が王と同じくらいではないか?」
「え?そんなに強かったの?」
「ん?俺のことを頼りにしてくれていたのではなかったのか?我が王よ」
「いや、それはそうなんだけど……」
正直、自分の方が強いと思っていた。なんせ、オレってば神級冒険者なので。完全に天狗であった。
「こいつはもっと強くなるぞ、ライ。そろそろ眷属にしてやってもよいと思っておる」
「さようですか!雷龍様!」
ジャンさんが嬉しそうに雷龍様に跪く。
「うむ、おまえはなかなか見所がある。根性があるのが気に入った。あんなにボコボコにしておるのに、よく食らいついてきておる」
「ははっ!ありがたき幸せ!」
「へ、へー?」
「なに悔しそうにしてんのよ?」
「いや、ちょっと……オレもちゃんと修行しようかな……」
ジャンさんが雷龍様に認められているのを見て、なんか変な対抗心が芽生えてきた。最近はゆるい修行ばっかりで強くなった実感はない。
うん、なんか……なんか悔しい……
「そんなことより、問題は、ジャン団長がいくら強くなったからって、団長を大使にするのは無理だってことですよ。団長なんだから、国外になんて出張させれません」
「まぁ、そうだよな。じゃあ他には?副団長とか?他に強い人っていたっけ?」
「恥ずかしい話だが、俺以外は、クリス殿の足元にも及ばないだろう」
「んー……騎士団の育成を怠りすぎたってことか……」
「そうかもしれぬな……かたじけない……」
「いや、ジャンさんだけの責任とは思ってないよ。この件も国に持ち帰ってから話し合おう」
「御意!」
ということで、新たな課題を抱えたオレたちは、今後について頭を悩ませることになった。
♢
その日の夜、屋敷に家族しかいなくなった時間にみんなで集まった。
まずは夕食を食べ、お腹を満たしてから、例の実験を試みようとする。
「ご馳走様でした。今日もすごく美味しかったです。ありがとな、ステラ」
「いえいえ♪うふふ♪」
「よし、それじゃあ、さっそく、ノアール、あれ?」
ノアールの姿を探すが見当たらない。キョロキョロ探していると、
「にゃー……」
ユーシェスタさんに首根っこを掴まれたノアールがキッチンから現れた。デザートでも探していたのだろうか?
「ライ、リリィ、この子はなんなのですか?」
ユーシェスタさんは、なんだかプンプンしてる。
「パパぁ、ママぁ……」
ノアールはしょんぼりと捕まりながら、助けを求めてくる。
「さっきから、あなたたちのことをパパ、ママと呼んでいるのですが、リリィ、あなた、いつこんな大きい子を産んだのですか?」
あ、そうか、ユーシェスタさんはノアールと面識なかったな。ちゃんと自己紹介も済んでいなかった。
「お母さん、わたしが産んだわけではなくて……その、すごくわたしたちのことを好いていてくれて、そう呼んでるだけで……」
「しかし、この子は〈ノアもパパのお嫁さんだよ〉とか、〈ママのお母さんならおばあちゃんだね〉、とか訳の分からないことばかり言うのです。わたしに孫はまだいない認識です」
なるほど、〈おばあちゃん〉と言われてピキピキきているのか。
「ま、まぁまぁ、そう怒らずに、離してあげてくれませんか?」
「にゃー?……」
ノアールがユーシェスタさんのことを甘えた顔で見る。
「……ぶりっ子ですね」
「にゃ!?」
「まぁ、いいでしょう」
パッと離され、すぐにオレの膝に逃げてくるノアール。
「おばあちゃん怖いにゃ……」
「ピクピク……」
ユーシェスタさんの眉間がひくつく。
「ま、まぁまぁ……落ち着いて、お義母さん。ノアール、お義母さんに、失礼なこと言わない。ユーシェスタさん、と呼びなさい」
「でもぉ……ママのママなのに……」
納得してくれないようだ。
「で?ライ、その子はなんなのですか?」
「えっと……娘であり、嫁であるというか……」
「なんなのですかあなたは!次から次へと!レウキクロスを出て半年足らずでまた妻を増やしたのですか!節操なし!それにまた訳のわからないプレイを!」
「お母さん、プレイとかそういうのじゃ……」
「リリィ!あなたもあなたです!なんですか!ママなんて呼ばせて!どういうプレイなんですか!」
「だから、プレイとかじゃ……」
「パパ、プレイってなに?」
「ノアールは知らなくていいことだよ?」
結局、オレとリリィはユーシェスタさんに正座させられて、ノアールのことをしっかりと説明することになった。
♢
とりあえず、ユーシェスタさんをなだめて落ち着かせてから、本題に入る。
転移魔法の実験だ。
「じゃあ、このレウキクロスの屋敷とウチナシーレの屋敷を繋ぐ実験をしようか」
「うん!任せてパパ!」
言いながらスケッチブックを召喚し、扉の絵を描き始めるノアール。
「本当に転移魔法なんてもの、存在するのですか?」
「それは間違いないわ、なんども実験したもの」
「しかし、そのような魔法、軽はずみに使って良いのでしょうか?」
「そうじゃな、じゃから信頼できる者にしか教えておらぬ」
「ふむ……そうですか……」
信頼できる者、そう言われてユーシェスタさんが静かになる。たぶん、嬉しくて照れてるのがバレないように静かになったんだろう。
「できたよ!いくよー!」
そして、ノアールがスケッチブックをかざすと扉が顕現した。
「はい!ウチナシーレのお家まで繋がったよ!」
「おお!すごいぞ!」
「この扉がなんだというのですか?確かに、召喚魔法としては見たことがない術式ですが……」
「まぁまぁ、とにかく体験してくださいよ」
オレはドアノブに手をかけ、焦る気持ちを抑えて扉を引いた。そして、黒いモヤの中に顔を入れる。
「あ、ライにいちゃん、おかえり」
扉の先は、カイリたちがいるウチナシーレの屋敷だった。
リビングでちょうどご飯を食べ終わったところみたいで、食器を片付けている。事前にユーカに連絡しておいたので、子どもたちは驚いた様子はなかった。4人とも「おかえり~」と声をかけてくれた。
「やった!成功だ!」
オレたちはぞろぞろと、その扉をくぐる。寝ている雷龍様を置いて、それ以外は全員でウチナシーレの屋敷までやってきた。
「ここは?ここがウチナシーレだというのですか?そんな……だって……一瞬で……」
ユーシェスタさんは驚いた顔をしているが、まだ信じ切れていない様子だった。
「そうですよ、お母さん、こちらに」
リリィがユーシェスタさんを連れて2階に向かう。家の外には出ないようにと言ってあるので、窓から町並みを見せるのだろう。
「ティナ、一応認識阻害を」
「もうやっておる。レウキクロスにいるはずの国王がウチナシーレにおると知られれば大騒ぎになるからのう」
「ありがと、助かるよ」
「本当に……ウチナシーレと繋がった……」
「だな」
クリスは両手を合わせて、痛く感動しているようだった。それを見て、オレもなにかこみ上げてくるものがある。すごく、嬉しい。
「これでいつでもおまえと会えるな」
「うん……うん!ライ!」
「わっぷ」
突然抱きつかれて頭に腕を回される。
「ありがとう!諦めずに色々考えてくれて!」
「そんなの当たり前だろ?それに、お礼を言うなら、ノアールに、じゃないか?」
「あ!そうだね!ノアールちゃん!」
「なぁに!クリスねぇ!」
ノアールは鼻高々だ。腰に両手を当て、褒められる準備をしていた。
「ノアールちゃんありがとう!キミは天才だ!すごい!偉い!大好き!」
クリスがしゃがんで、抱きつきながら言う。
「えへへー!ノアすごい?」
「すごい!」
「ノアえらい?」
「えらい!」
「えへへ!もっと褒めて!」
「うん!ノアールちゃんは天才!すごい!」
「えへへ!」
しばらく、クリスによる語彙力皆無のノアール褒めちぎり選手権が続いた。
でも、気持ちはわかる。オレだって、語彙力がなくなるくらい嬉しい。
だって、これで、聖剣を辞めれないクリスといつでも会うことができるのだから。
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