第373話 王様としての初の外交
それから5日間ほど馬車を走らせると、レウキクロスへと到着した。
先にクリスたちに正門に向かってもらい、通行許可を取ってきてもらう。
ほどなくして聖騎士隊の1人が戻ってきたので、そいつに付き従って入場した。
町の中に入ると、
「わぁぁぁ!おかえりー!英雄ライ様ー!」
「陛下ー!おかえりー!」
「王様になったんだってなー!おめでとー!」
大勢の人たちが迎え入れてくれた。オレは、窓を開けて手を振る。みんな笑顔を返してくれた。
「さすが英雄ね、カッコいいじゃない」
一度窓から引っ込み、反対側の窓に行って手を振ろうとしたとき、そんなことをソフィアが言ってくれる。
「やっぱりデレ期だね、ソフィアたん」
言いながら手を振る。
「そんなんじゃないけど、普通にカッコいいわよ」
「ふふ、ソフィアはたまに素直なこともあるんです」
「リリィ?たまにってなによ?」
「だって、たまにじゃないですか?」
「うふふ♪平和ですね〜」
「ほんとだね~」
オレたちは笑い合って、クロノス神殿の前まで馬車で移動する。
そこで両国の騎士たちに囲まれて、周りを警護された状態で馬車の扉が開けられた。
このあとは、リューキュリア教国の教皇として、はじめて、ルーナシア陛下と面会することになっている。
正直めちゃくちゃ緊張するが、練習通り、上品な振る舞いを心がけよう。そう気を引き締めて、クロノス神殿に踏み入れた。
クロノス神殿に入ると、すぐにユーシェスタさんが出迎えてくれた。リリィの母親としてでなく、クロノス教の枢機卿としての顔でそこに立っていた。
「ようこそお越しくださいました。ライ・ミカヅチ教皇陛下」
「あ、えー……お出迎え、ありがとうございます。ユーシェスタ枢機卿」
最初に声をかけられたのが妻のお母さんだったので、気が緩みそうになった。丁寧に回答する。
「長旅でお疲れでしょう。まずはこちらへ。ご休憩できる場所を用意させていただいております」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
ユーシェスタさんの案内に従い、オレたちは、クロノス神殿のエレベーターに乗り込んだ。妻たち、そしてジャンと騎士が数名、サンディアも一緒なので、エレベーターの中は満員だ。
それでも、エレベーターは上昇し、来たことがない階に止まった。
「こちらです」
ユーシェスタさんに案内されたのは、来賓用の豪華な待合室という感じの部屋だった。ソファが数台あり、食事が取れるように10人くらいが座れるダイニングテーブルもある。
「こちらで1時間ほど、ご休憩ください。のちほど、ルーナシア・レウ・アステピリゴス陛下との面会を取り行わせていただきます」
「わかりました。ご案内、ありがとうございます」
部屋を出るとき、ユーシェスタさんはリリィに優しい笑顔を見せていた。リリィもそれに気づき微笑み返す。
「それでは、ライはお白直しですね」
アステピリゴス側の人間がいなくなった途端、サンディアと司祭が2人がかりで近づいてきた。
「なんでだよ!休憩だって言ったじゃん!」
「王様なんだから!ほらそこ座って!」
「へい……」
抵抗虚しく、身だしなみのチェック、修正が行われる。今日の朝もなんか色々もみくちゃにされたのに、またやるらしい。
ルーナシア陛下に失礼があってはいけないのはわかるけど、王様って大変だね……
♢
1時間後、またユーシェスタさんが迎えに来てくれて、別室に案内された。
以前、栄誉授与式をしてもらった謁見の間とは違う部屋だ。おそらくだが、対等の相手と面会するには、謁見の間は使わないのだろう。
聖騎士2人が大きな扉を開けてくれる。その扉の奥には、ルーナシア陛下とシンラ枢機卿、それに聖剣のクリスが立っていた。
室内には、あと3人ほど聖騎士隊が立っている。随分少ない警護のようにも思えるが、彼らが腕利きなのは明らかであった。
こちらはジャンとサンディア、妻の中からリリィとステラがついてきてくれた。全員だと多すぎるとのことだったので、仕方がない。他のみんなは待合室で待機してもらっている。
「ようこそお越しくださいました。ライ・ミカヅチ教皇陛下」
「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます。ルーナシア陛下」
オレの方から近づいて、2人して頭を下げる。
「どうぞお掛けください」
促されて、着席する。
長いテーブルを挟んで、アステピリゴス側、リューキュリア側に分かれ、向かい合って腰掛けた。
「長旅お疲れ様でした。道中、モンスターに襲われたとか。大丈夫でしたか?」
「ええ、聖剣様と私の妻のおかげで、1人も怪我人を出さずに済みました」
「それは良かったです。それにしても、我が国の聖剣様もライ陛下の奥方様ですよね?そこは、妻2人のおかげ、と言っていただかなくては」
ルーナシア陛下が少しおどけたことを言う。
「あはは、いいんでしょうか、聖剣様のことをそんなふうに呼んでしまい」
「もちろんです。2人の間に愛があるならば」
「そこははい。もちろん。間違いなく、私はそこのクリスタル・オーハライズを愛しております」
オレの言葉に、少し恥ずかしそうにするクリス。
「ふふ、いつか、私のところにきて、〈聖剣様をください〉と言ったライ陛下のことを思い出しますね」
「あのときは……勘違いしてしまい、すみませんでした」
「いえいえ、今となっては、あのときのことも良い思い出ですし、ある意味、今から話すことの伏線だったのかもな、と思ったりしています」
「ほほう?と、言いますと?」
「以前、私からの書状にて、聖剣様のことについては直接話しませんか?とお伝えしましたよね?」
「ええ……」
「もし、お2人がよろしければ、ライ・ミカヅチ陛下とクリスタル・オーハライズ様の婚約を大々的に発表しませんか?」
「え?ええ?それはまたなぜ?」
オレとクリスは顔を見合わせて驚いた顔をする。オレとクリスが一緒にいる方法は色々と考えてはいたが、婚約を公表する、という考えはなかったからだ。
「理由としてはですね、2つあります。1つは、アステピリゴスとリューキュリアが深い信頼関係にあることを他国にアピールすること、もう1つは、お2人がなるべく一緒に過ごせるようにするため、この2つが目的です」
「……詳しく伺っても?」
「ええ、まず1つ目についてですが、我が国とリューキュリア教国は長い間戦争状態にありました。そんな2国が国の窮地を救ってもらったとはいえ、突然国交を結びはじめたというのは、他国からしたら疑いの目が強いのです」
「つまり、私たちの関係を崩そうとか、今の弱い関係のうちに悪いことをしようと企む国が出てくるかもしれない、と?」
「ええ、その通りです。ですので、リューキュリア教国教皇のライ・ミカヅチ陛下と、アステピリゴスの聖剣であるクリス様がご結婚されたと発表すれば、我らの国がより強い絆で結びついていると各国にアピールできます」
「なるほど……サンディア、どう思う?」
「陛下、良き提案かと、詳しくは後ほど、今はルーナシア陛下と……」
「あ、すまん。
いえ、失礼しました、ルーナシア陛下、国王としての振る舞いが不慣れなもので……」
他国の王様と話している途中に、部下に声をかけるのは非礼だったと気づき、すぐに謝罪する。
シンラ枢機卿は眉をひそめていて、ユーシェスタさんはやれやれ顔だ。ルーナシア陛下だけが笑ってくれて救われる。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それとですね、もう1つの、お2人がなるべく一緒にいれるように、というほうがライ陛下はご興味があるのでは?」
「たしかに、そちらについては大変興味があります」
「では、そちらについても説明を。もう1つの提案については、ライ陛下のご提案を受ける形となるのですが、我が国とウチナシーレにそれぞれの国の大使館を作る、というご提案を前向きに検討しているのです。その大使として、クリスタル様を就任させれば、年間の半分ほどはウチナシーレで過ごしていただいてもよいのではないか、と話がまとまりつつあります」
「なるほど」
「しかしですね、その代わりと言っては恐縮ですが、レウキクロスの大使館に派遣いただくリューキュリア騎士団の方は、クリスタル様と同等以上の実力者でなければ、とも考えております」
「なるほど……」
まぁ、それはそうだろう。アステピリゴスの最大戦力といっても過言ではない聖剣という強力な戦力を国外に出すのだ。交換する戦力として、雑魚を寄越されても敵わないのだろう。
しかし……こちらに、クリスと同等の戦力なんているのか?
ジャンさんはそこそこ強そうだけど、強かったとしても、騎士団長が国外に行くわけにはいかない。
クリスと同等の戦力を差し出す。
これは新しい課題だった。
「承知しました。今のお話、我が国としても、持ち帰って議論させていただきます」
「よろしくお願いいたします」
それからオレたちは、ウチナシーレの復興作業を支援してくれたことに関して、改めてお礼を言い、今のウチナシーレの様子をルーナシア陛下に伝えた。
ルーナシア陛下は興味深そうに話を聞いてくれて、最後には「これからも協力していきましょう」、と言って手を握ってくれた。
オレたちは固い握手を交わしてから、部屋を後にする。
控室に戻り、「はぁ……緊張した……」とため息をつくと、「屋敷に着くまではしゃきっとしててください」とサンディアに説教される。「へいへい……」と返して、その日の面会は終了となった。
オレたちは、以前報償としてもらった屋敷に向かい、家族と数名の騎士が護衛に残って、大半の騎士たちは来賓用の施設に入れてもらう。
レウキクロスについて1日目、ひとまず、上手いこと王様業務はこなせなのではないだろうか。
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