第372話 レウキクロスへ向けて

 ミリアとのデートの翌日、オレたちは、家族全員で王城へと向かった。レウキクロスへ旅立つにあたって、オレたちは王城から隊列を組んで出発することになっているからだ。


 家族全員、とはいったが、カイリ、ユーカ、トト、キッカはお留守番だ。

 最初は連れて行こうと話したのだが、「新しい仕事を早く覚えたい」、という2人の熱い要望に応えることになったのだ。

 条件として、トトとキッカの面倒は、ユーカが見ることというのをお願いした。でも、ユーカには図書館の仕事があるのでずっと屋敷にいるわけにはいかない。そこで、司書長のアザリアさんに直接事情を話したら、2人がユーカの仕事中に図書館に滞在することを許してもらえた。それなら、トトとキッカだけになることもないね、と安心して任せることにしたのだ。


 だが、それでもティナは心配そうにしていた。そんなティナのことを「私たちはもう大人だから、お姉ちゃんは旦那さんについて行きなさい」、と逆にユーカから説得されている姿はなんだか愛らしかった。



「それでは、そろそろ行きましょうか」


 サンディアが立ち上がって、扉をあけようとする。


「ああ、でもさぁ……この王様衣装ってここから着てかないとダメなのか?」


 オレは自分の服装を見返して嫌になっていた。戴冠式のときほどではないが、王様っぽい服を着せられているからだ。


「当たり前じゃないですか。今回は、リューキュリア教国の教皇として、レウキクロスに赴くのですよ?」


「まぁ……そうなんだけど……」


「はいはい、それじゃ、行きますよ」


「うぃ……」


 オレは渋々ながらサンディアに従った。


 王城を出ると、城の敷地内にリューキュリア騎士団100名が隊列を組んで待っていた。全員騎馬に騎乗し、綺麗な正方形を作っている。

 騎士団の先頭にいるのは、ジャン・フメット騎士団長だ。


「我らが王よ!道中の警護は!我らリューキュリア騎士団にお任せください!」


 ザン!


 ジャンが大剣を抜き、天にかさずと、他の騎士たちも同じように抜剣した。


「あはは、なんか壮観だな。みんな、頼むよ」


 オレは片手を上げてみんなに挨拶する。


「はっ!!」


 騎士たちが訓練されたようにハモった声で答えてくれる。いや、軍隊なんだから訓練されてるのは当然か。そう思いながら、オレは豪華な王様用の馬車に乗り込んだ。


 妻たちも数人、オレと同じ馬車に乗り込んでいる。リリィにソフィアにステラの3人だ。

 他のメンツは、すぐ後ろについて、いつもの馬車でついてくることになっている。コハル、ティナ、ミリアがオニキスとアルテミスの馬車に乗り込んでいた。


 オレもあっちに乗りたいと言ってみたのだが、やはり却下された。「王様なのだから、自覚を持ってください」だそうだ。


 あと、ここにいないクリスは、ウチナシーレを出たところで聖騎士隊を引き連れて待っていることになっている。まずはクリスとの合流だ。


「それでは!出発だ!リューキュリア騎士団!前へ!」


 ジャンの掛け声と共にリューキュリア騎士団が30人ほど先陣を切って進み出した。そして、15人ほどが、オレの馬車の左右に展開する。それから、サンディアたち司祭20人を乗せた馬車が5台、オレたちの後ろに続き、殿に30人ちょっとの騎士団員が配置についた。

 ゆっくりと一団が前進する。


 馬車の窓から周りを見ると、どこを見ても騎士が囲んでいた。こうやって騎士団に囲まれてると、自分が重要人物であることを実感する。


「何キョロキョロしてるのよ?」


 窓の外を眺めていたら、ソフィアに突っ込まれた。


「え?あー、オレ、王様なんだなぁと思って……」


「ふふ、ライ様、ライ様は立派な王様ですよ?」


「そうですよ〜♪カッコいい王様です♪」


「そうかな……そうなれてるといいな……」


「あんたもなかなか王様の自覚が出てこないわねぇ」


「はは、たしかにそうかもね」


「でも、わたしはそういう普通なあんたも好きよ」


「え?え?なになに!今日はデレ期ですか!ソフィアたん!」


「デレ期とか言うな!ちょっと!はーなーせー!」


 お腹の辺りに抱き付いたらぐいぐいと押しのけられた。今日もツンデレのようだ。


「あ、クリスさんたちと合流しますよ」


 会話していたら、いつのまにか正門まで来ていたようだ。

 窓の外を見ると、アステピリゴス聖騎士隊50人がこちらも騎馬に乗って待っていた。


 もちろんクリスが先頭だ。手を振ると笑顔を返してくれて、オレたちの先頭に合流してくれる。


 これで、総勢170人ちょっと、大規模な集団となって、オレたちはレウキクロスへと向けて出発した。



 今回レウキクロスに出発した集団は全員が馬に乗っている。だから、以前のように1ヶ月もかかるなんてことはない。半分以下の期間で辿り着けるはずだ。


 そんなスケジュールでレウキクロスまでの道を進んでいくと、1週間も経たずに国境沿いの砦に到着した。


 先にジャンたちリューキュリア騎士団が砦に近づき開門を促す。


 そして、大きな石橋を渡り切ったらクリスたち聖騎士隊に交代だ。

 

 アステピリゴス側の砦も開門し、オレたちは、無事、国境を越えることができた。


 ここまでは何のトラブルもなかった。


 しかし、国境を越えてから翌日、お昼休憩を取って、馬車を動かそうと乗り込んだとき、


「モンスターの襲撃だ!リューキュリア騎士団!前へ!」


 右側面の部隊がそんな声を上げる。


 そちらを見ると、森の中からカバのようなモンスターが20頭ほど突撃してくるのが見えた。リョクたちにご飯を与えに来てたときに倒しまくったモンスターだった。


「まぁ、あれくらいなら騎士団でもなんとかなるよね?」


 オレはキルクを抜きながらステラに質問する。突進力はあるけど、防御力はそんなにないモンスターだし、上級冒険者以上の実力があれば倒せると思う。


「さすがに余裕なんじゃないですか?」


 隣のステラも同意見のようだ。でも、一応、白雪を抜きながら答えてくれる。


 オレたちは、騎士団に任せて静観する構えだった。立場が立場だし、前線に立つのも憚られるだろう。しかし、それを理解していないものが一人。


「ワクワク……ボク!ちょっと行ってくるね!」

「ピ〜」


 コハルが双剣を構えて駆け出した。ピーちゃんも頭上を飛びながら続いていく。


「は?え!?待ってコハル!」


 オレが駆け出そうとすると、


「陛下はこちらにて!動かないでください!」


 騎士たちに阻まれた。


「いやでも!あれは妻だから!」


 ぐいぐいと押しのけようとするが、2人がかりで止められて動けない。


「ライさん、コハルならあんなのに負けませんよ?」


「そうだけど!心配だから!オレも行く!」


「いけません!陛下!陛下はここに!」


「うるせー!!」


「ボクが行くから!キミはここにいて!」


「クリス!」


 オレが騎士の一人をしばこうとしていたところ、クリスが馬上から声をかけてくれた。そのまま、コハルのことを追いかけて馬で駆けていく。



「わっほーい!」


「奥方様!?」


 コハルが双剣を舞うように使い、くるくると回転しながら斬り込んだ。


 カバモンスターはズタズタだ。ズドンと地面に沈む。


 カバモンスターの対応をしていた騎士は目を丸くする。なぜ国王の奥さんが前線に?そう思っているのだろう。


「お、奥方様は後方にて待機を!」


「えー?イヤだよー。ボクは特級冒険者だぞ?」


「しかし!」


「コハルさん!」


「あ!クリス!やっほー!」


「やっほーじゃないよ!乗って!」


 クリスが騎馬に乗ったまま、走りがけにコハルの手をとって持ち上げた。


 ひらりとクリスの後ろに跨るコハル。


「ごーごー!」


「何でそんな楽しそうなのさ!」


「だってボクは冒険者だから!」


「……はは!まぁいいよ!久しぶりにやろうか!」


「うん!」

「ピー!」


 そして、聖剣クリスタル・オーハライズと、双剣コハル・カグラザカは、ほぼ2人だけでカバモンスターを壊滅させた。



「2人ともなにしてんの?特にコハル」


「だって……」


「だってじゃありません」


 戦いの後、オレはコハルをひっとらえて、自分の馬車に乗せて説教していた。クリスは馬上で笑っている。


「僕は仕事しただけだから、べつにいいよね?」


「そのわりに楽しそうだったが?」


「気のせいでは?それじゃまたあとで」


「おい!」


 ひらひらと手を振りながら先頭の方に戻っていってしまった。


「コハルたん」


「はい……」


「おにいちゃん…コハルちゃんのこと…いぢめないで?」


「い、いじめてるわけじゃないよ?」


「ミリア、おぬしは少し黙っておれ、今回はコハルが悪いのじゃ」


「そう…かな…コハルちゃんなら…余裕だよ…強いもん…」


「だよねだよね!」

「ピーピー」


 仲間を見つけて、笑顔を見せるコハル、同調するピーちゃん。


 これはよくない。オレの手が届かない範囲で危ないことをされるのは心臓に悪いからだ。だから、ちょっと強めに言うことにした。


「でも1人で突っ込むのはダメでしょ!コハルたん!」


「むー……ライのバーカ!」


「何で逆ギレ!?」


「だって!3食冒険付きって言ったのに!ぜんぜん冒険しないんだもん!」


「そ、そんなことオレ言ったっけ?」


「言ってたのはコハル自身じゃぞ?」


「コハルたん?」


「……ぷいっ!」


 なぜか逆ギレをかまして、全く反省の色を見せないコハル。


 まぁでも、冒険を半年もお預けされ、剣の修行だけじゃあフラストレーションが溜まっていたのかもしれない。それは申し訳ないなぁ、と考える。


 でも、それはそれ、これはこれだ。


 オレは馬車を動かしてもらいつつ、道中、ただ心配なだけだったのだと、オレの気持ちを説明することにした。

 そしたら、一応「わかった……ごめんね……」と謝ってくれるコハル。


 しかし、コハルのフラストレーションに触れて、「正直、オレも冒険したいよ……とほほ……」、と思うオレなのであった。

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