第369話 司書と漁師
翌日、カイリとユーカの新しい職については一旦待ってもらうことにして、クリスたち聖騎士隊の話をすることにした。
王城の会議室にて、サンディアたち、そして、聖騎士隊の数人と向かい合う。もちろん、聖騎士隊側には指揮官であるクリスもいた。
「この度は、長い間、ウチナシーレの復興作業を支援していただき、ありがとうございました」
サンディアがそう言うのを合図に、オレたちリューキュリア側の面々は頭を下げる。マガティヌスやジャン、司祭たち10名ほどが頭を下げていた。
「いえいえ、アステピリゴスとしても首都を守っていただいた恩義がありますので、そんなに畏まっていただかなくても大丈夫ですよ。それに、僕個人としては楽しく過ごさせてもらいましたし」
「そうですか。そう言っていただけると助かります」
頭を上げて、サンディアとクリスが笑い合う。
「それで、僕たちが帰国する日程なんですが、予定通り1週間後にウチナシーレを発つ予定です」
「承知しました。それでは、予定通り、我々も同行させていただきます」
「改めて、同行する人数を伺ってもいいですか?」
「はい、こちらからはリューキュリア騎士団から100名、ジャン騎士団長指揮の元、参列します。これに加えてエポナ教の司祭陣が20人、わたし指揮の元、参加します」
名前が上がっていないマガティヌスは留守番だ。オレたちの留守の間の国の運営をお願いしてある。
「そして、最後に、リューキュリア教国教皇ライ・ミカヅチ陛下とそのご家族も参列することになります」
「お世話になります」
ぺこり。
頭を下げておく。
「たしかに承りました。陛下にご無礼がないように努めます」
オレとクリスは笑いそうになるのを我慢して微笑み合う。
なんだか、国同士の行事を他人行儀にやりとりするのがおかしかったからだ。
こうして、1週間後の聖騎士隊の帰還について話し合い、詳細が決まることとなる。
クリスと離れることになるかもしれない、そんな不安はまだあったが、ノアールのおかげでその不安もだいぶ小さくなった。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせて、会議が終わるのを待つことにした。
♢
会議終了後、聖騎士隊の面々は退室し、リューキュリア側の人間だけが室内に残る。
「サンディア、ちょっといいか」
「はい、なんでしょう?」
「図書館の司書の話だけど、明日にでもユーカを連れて行っていいか?」
「大丈夫ですよ。では、わたしも同行します。その方が話が早いですし」
「わかった、頼む。あと、カイリの方は漁師のおっちゃんにオレから話してもいいよな?」
「んー……まぁ、首都内でのことだからいいんですけど……騎士は連れてってくださいよ?」
「えー?……」
「嫌そうにしない、王様なんだから」
「へいへい…」
ということで、2人の夢の職業については大丈夫そうだ。明日、2人が喜ぶ顔が目に浮かんだ。
♢
翌朝、カイリとユーカを連れて町に出ることにした。ティナもニコニコしながらついてきた。
4人で玄関を出ると、門の前にリューキュリア騎士団の騎士2人とサンディアが待っていたので、挨拶をしてから目的地に向けて歩き出す。
まずは図書館からだ。
-ウチナシーレ大図書館 前-
「へー、ここが図書館か、はじめてきた」
「ライお兄さん……図書館に来たことないって……もうちょっと勉強した方がいいんじゃない?」
「え?あ、すみません…」
「ふふ、ユーカさん、もっと言ってやってください」
「おまえさぁ、にいちゃんの立場のこと考えろよ」
笑うサンディアに呆れ顔のカイリ、カイリが両手を頭の後ろに置きながらユーカにツッコミを入れていた。
「はぁ?……あ!ごめんなさい…ライお兄さん、王様だもんね…恥をかかせるようなこと言っちゃって……」
「いやいや、ユーカはそのままでいいよ。カイリあんがとな」
オレは2人の肩をポンポン叩いて、笑いながら図書館の中に入った。
ウチナシーレ大図書館は、楕円形の建物で、二階建てのすごく大きい図書館だった。中に入ると、本、本、本、本の山だ。
図書館だから当たり前なのだが、見渡す限り本棚が並べられている。
「わぁ……すごい……」
ユーカは感動してるようだ。
図書館の中央には、建物と同じ形の楕円の吹き抜けがあって、その中央に受付らしき、円形のカウンターがある。そこから周りを見ると、2階の本棚も見渡せて、360°どこをみても本棚、みたいな空間になっていた。
吹き抜けの上部はガラス張りになっていて、太陽の光が差し込んでいる。整然としていて柔らかい印象を受ける空間だった。
オレたちが大図書館のカウンター付近でウロウロしていると、40代くらいのメガネをかけた女性が近づいてきた。カーディガンに膝丈くらいのスカート姿だったので、司書には制服とかないのかな?と考える。
「こんにちは、ウチナシーレ大図書館の司書長を務めています、アザリアと申します」
オレたちの前に来て、両手をお腹のあたりにおいてゆっくりと頭を下げてくれた。上品な女性だ。司書長、ということはやっぱり司書に制服はないらしい。
「こんにちは、アザリア司書長、こちらが紹介したい司書候補の方です」
サンディアがユーカの方に片手を向ける。
「あ!は、はじめまして!ユーカ!ユーカと申します!よろしくお願いします!」
紹介されたユーカは緊張した様子で挨拶を口にする。アザリア司書長の所作を真似て、両手をお腹のあたりにおいてお辞儀をしていた。
「ふふ、そんなに緊張しないで大丈夫ですよ、ユーカさん。ユーカさんは本が好きですか?」
「はい!大好きで!毎日読んでます!」
「あら、それは素晴らしいわ。サンディア司祭様、素敵な子を紹介していただき、ありがとうございます」
「いえいえ」
「それにしても、なぜ陛下がここに?」
「あはは、ユーカは血は繋がってないけど、子どもみたいなもんなので、保護者としてついてきました」
「わしもじゃ!わしは母親代わりじゃな!」
「あら?陛下とエポナ様のお子様となると……司書長の地位をユーカさんに譲った方がいいかしら?」
「そそ!そんなのだめです!」
「ふふ、冗談ですよ」
あわてるユーカと、笑ってるアザリアさん、ちょっとお茶目なところがある人物のようだ。ユーカを任せるのが優しそうな人物で良かったな、と安心する。
それから、ユーカたちに手を振って、次に向かうことにした。
次は港だ。
「おーい、おっちゃーん!」
漁船で作業してる漁師たちに声をかける。すると、
「ああーん?おう!ライの坊主じゃねーか!ちょっと待ってな!」
50代のハチマキを巻いたおっちゃんが返事をしてくれた。長靴に防水性のつなぎを着ていて、まさに漁師という風貌だ。
「大将!陛下ですよ!ライさんはもう王様なんですから!」
「ああん?うるせぇ!ライの坊主も友達みたいな王になりてーって言ってただろうが!黙って手ェ動かせ!」
「へ、へぇ…大将にはかなわねぇや…」
そんな会話が聞こえてくる。オレたちは笑いながら、おっちゃんがやってくるのを待った。
カイリだけは緊張した顔だけども。
「おう!待たせたな!」
しばらくしたら、作業をおえたおっちゃんが漁船からおりてこちらにやってきた。オレたちはそのまま、漁船の前で話すことにする。
「作業中に悪いね、おっちゃん」
「いいってことよ!ライの坊主は俺たちを助けてくれた恩人だしよ!お!そいつが例の小僧かい!」
「そうそう。はい、カイリ、挨拶して」
カイリの背中を押して前に出す。
「はじめまして!カイリといいます!漁師になりたくて来ました!」
「おう!元気のいいガキは好きだぜ!よろしくな!」
おっちゃんが片手を前に出す。
「よろしくお願いします!」
カイリがその手をとって固い握手をした。
「それにしてもおめぇ!もっと鍛えないと漁師はやってけねぇぞ〜!」
おっちゃんがカイリの肩を叩いて言う。おっちゃんからしたらカイリの身体はひょろいようだ。
「俺!立派な漁師になります!父ちゃんみたいな!」
「ははは!気合いはありそうだな!王様の身内だからってぇ、容赦はしねーぞ?」
「はい!その方が嬉しいんで!」
「ははは!じゃあ今日からよろしくな!カイリ!」
「はい!大将!」
「大将とやら!わしの子どもを頼むのじゃ!」
「おお?え、エポナ様?……おっちゃん、エポナ様には敵わねぇや……や、優してやろうかねぇ…」
「ちょ!?ティナねぇちゃん!やめてよ!変なこと言うの!俺は立派な漁師になりたいんだ!甘やかされたくなんてない!」
「なんでじゃ!?わしのこと嫌いなのかのう!?」
「違うってば!大将!この人エポナ様じゃないです!」
「なんだぁおめぇ!失礼だろうが!」
「わしの子どもを怒らんでほしいのじゃ!」
「へ、へい……エポナ様……」
「ああもう!」
「ははは」
カイリの方も大丈夫そうだ。これで2人の夢の一歩を手伝うことができた。
オレは満足感を覚えながらカイリたちに手を振って王城に向かうことにした。
♢
王城で王様業務を行い、夕方には屋敷に戻る。
そのころには、カイリとユーカも戻ってきていて、ティナと楽しそうに会話していた。オレもそれに混ざる。2人ともやりがいを感じてくれてるようで安心した。
「でもさ、嫌なことがあったらなんでも相談しろよ?」
「ライにいちゃんは心配性だな〜」
「私たち、もう大人なんですから大丈夫ですよ」
「いやいや、まだまだ未成年だろ?オレにはおまえたちを育てる義務がある」
「ウミウシに置き去りにしたくせに…」
「はは!たしかに!」
「ぐぬぅ……それはごめんよぉ……」
「あれ?からかったつもりだったのに凹んじゃった」
「ライにいちゃんはおまえと違って繊細なんだよ」
「はぁ?」
「なんだよ?」
「はい、ケンカしない、カイリ」
「な、なんだよ…」
「オレと約束しただろ?」
「…わ、わかった…」
「約束ってなによ?」
「おまえには関係ないだろ!」
「カイリ?」
「わ、わかったよ…」
「なんなのよ?2人して…」
ユーカがオレとカイリを交互に見て訝しむ。
この2人の仲を取り持つのは大変そうだが、ユーカの方が気付けばすんなり上手くいくような気もする。のんびり行く末を見守ることにしよう。
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