第368話 家族は一緒にいるものだから
帰りの空の旅でも、休憩時間には雷龍様の空間魔法講座が行われた。
それをソフィアとノアールが一生懸命聞いていて、ティナはトトとキッカと手を繋ぎながら、にこにこと聞いていた。
ノアールの空間魔法がどこまでのことができるようになるかはわからないが、人間が転移できるところまで上達することをひっそりと祈る。
クリスとも話したのだが、オレたちが離れたくないからといって、転移魔法の習得を急げ、とノアールを急かすのは違うと話し合って、黙って見守ることとした。
そんな気遣いをしていたオレたちだったのだが…
「わぁーい!ワープできたー!」
フライトの休憩時間中に、ノアールが自分で描いた扉の間を行ったり来たりしている。
2枚のドアの間にはなんの障害物もなく、実験という名目でソフィアが間を歩いたりもしていた。
それなのに、ノアールが一つ目の扉に入ると、ソフィアのいる空間にはいっさい姿を現さずに、10m先のもう一つの扉から姿を現す。
転移魔法のそれであった。
「おぉーー!!!」
オレは、興奮気味に扉の方に近づく。
「すごい!!転移魔法だ!!人間も通れてる!!」
クリスもすぐに走ってやってきた。オレの隣に並ぶ。
ガチャ。
扉が開き、モヤモヤとねじれた黒い空間の中から、ノアールがひょこっと出てくる。
「えへへ!すごいでしょ!これでいつでもクリスねぇと会えるね!」
ノアールがニコニコとそんなことを言う。
「ノアール…」
「ノアールちゃん……そんな、僕たちのために?」
「うん!だって家族は一緒にいるものだから!ねぇ!パパ!」
「う、うん……ありがとう。でも、オレたち、ノアールにそのことって話したっけ?」
「えー?ノアだって、それくらい言われなくてもわかるよー?ノア、大人だもん!」
「そ、そっか……うん、うん。本当にありがとう、すっごく嬉しいよ」
「僕も……まさかこんな解決方法があったなんて…」
隣のクリスはちょっとうるうるしていた。
「なんだよ…泣くくらいなら…いや、ちがうな…」
泣くくらいなら聖剣なんてやめろよ、そうふざけるつもりだった。でも、そんなことを言う場面じゃない。
「そんな葛藤があるのに、オレの嫁になってくれて、ありがとな」
「ライ……」
クリスがオレの手をぎゅっと握った。見つめ合う。
「あー!イチャイチャしてる!ノアともして!パパ!」
ノアールがオレのお腹に抱きついてきた。
「はは、ノアールともイチャイチャしたいな」
頭を撫でながら返す。
クリスも笑いながらノアールの頭を撫でてくれた。
これで、当初から課題だった、クリスとの遠距離恋愛問題が解決に向かいそうだ。
♢
「でもさー、ノアールの転移魔法って、ウチナシーレとレウキクロスくらい離れていても発動するものなの?」
雷龍様の背の上で、もうすぐウチナシーレに着くというタイミングで、ソフィアに質問する。
「んー、たぶん大丈夫だと思うけど、もうちょっと実験してみないとなんとも言えないわね」
「へー?なんで大丈夫だと思うの?」
「扉の間隔を広くしても、短くしても、消費する魔力量が変わらないから」
「ほほう?」
「つまり、長距離移動しても、近距離移動でもすごく少ない魔力で移動できるのよ。ホントにすごい魔法ね」
「へー、それはすごい。ソフィアも習得できそう?」
「んー……今はまだなんとも言えないわね。雷龍の説明は、ところどころは理解できるけど、いまいち原理が繋がらないのよ。なんでノアールが使いこなせてるのかわからないわ」
「それはね!ノアがすごいからだよ!ソフィアねぇ!」
ノアールが後ろから割り込んできて、ソフィアの肩越しに抱きついた。
「……」
抱き着かれたソフィアは渋い顔だ。ソフィアは自分より才能がある人にムスっとする傾向がある。たぶんそれだ。
「あれ?ねぇねぇ!ソフィアねぇ!いつもみたいに褒めて!」
「…なんか嫌」
「なんで!?ソフィアねぇってやっぱりいじわるだよね!」
「やっぱりってなによ!小さいころたくさん可愛がってあげたでしょ!」
「えー?そうだっけ?ソフィアねぇはなんかいつもモジモジしてたし、ツンツンしてた気がするけど?」
「そんなことないわよ!」
「あはは、ちょっと不器用だけど、頑張って子どもの相手をしてたソフィアもすごく可愛かったよ」
ガルガントナやウミウシにいたときのことを思い出す。
「な、なによ急に…」
隣のツンデレがしゅんと大人しくなった。顔は赤い。
「あー!これがツンデレだ!ねぇ!パパ!」
「違うわよ!」
「ははは、これはツンデレとは違うかな?いつもツンデレではあるけど」
「せっかくキュンとしてたのに!ムカつく!」
「なんかごめん」
そう言って、可愛いツンデレちゃんの頭を撫でる。
もちろんノアールにも要求されたので、撫で撫でさせてもらった。
オレたちが転移魔法について話している間に、ウチナシーレの上空に到着する。正午過ぎくらいの時間だった。
いつものようにティナに認識阻害の魔法を使ってもらい、サンディアたちに向かえられて、地上に降りる。
ノアールのときと同じように子どもたちを紹介し、サンディアたちにも挨拶してもらう。
マガティヌスやジャンのような、明らかに身分が高そうな人が挨拶しているのを見たユーカが、「ライお兄さん…ホントに王様なんだ…」と呟いていた。
ふふん、そうそう、オレ王様なんだよ。あれ?もしかして疑ってた?
そんな疑問が生まれたが黙っておいて、みんなを屋敷に案内する。もちろん、一緒に住むつもりだ。
「ひろーい!」
「ひろいねー!ティナおねぇちゃん!」
屋敷の扉を開けて中に入ると、トトとキッカが楽しそうに駆けて行った。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
ティナがニコニコと続く。
「俺たちも住んでいいの?にいちゃん」
「もちろんだ」
「ノアが案内してあげる!いこ!ユーカねぇ!」
ノアールがユーカの手をグイグイと引く。
「あ、ちょっと、もう…」
少し困り顔で笑いながら、大人しく手を引かれるユーカ。
オレはそれを笑ってみながら、後ろについていくことにした。
やっと、ウミウシの子どもたちを自分たちの家に迎え入れることができた瞬間だった。
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