第362話 ドラゴン師匠
クリスと話し合った2日後、聖騎士隊がレウキクロスへ帰還する日程が決まった。2週間後だ。
そして、その帰還に合わせて、リューキュリア側の使者をレウキクロスに派遣することも決まった。
メンバーは、リューキュリア騎士団100名、司祭陣から20名、そして国王のオレと妻たちだ。
ただ、こちらの件については、〈聖騎士隊に同行してもいいでしょうか?〉とアステピリゴス教国に書状を送った段階なので、許可が下りるかはまだわからない。
一冒険者が同行するのとはわけが違うのだ。
レウキクロスに向かいたいとオレが話したとき、マガティヌスは予想通り難しいそうな顔をした。しかし、これから隣国と交友関係を深めていくにはいつか必要なことだし、リューキュリア国王とアステピリゴス教国の聖剣が結婚したと大々的に広めれば両国間の関係が良くなるかも、なんて説得したらなんとか折れてくれた。
あとは、アステピリゴス側からの連絡待ちである。
♢
-翌日-
アステピリゴスからの書状を待たず、オレたちはカイリたちを迎えにいくことにした。クリスのやつもあと2週間はこっちにいるんだし、今のうちに迎えにいくのが得策だと判断したからだ。
「それでは雷龍様、お願いいたします」
「…ふぁぁぁ……うむ…」
眠そうにしている雷龍様がオレの背中からおりて、ドラゴンの姿に変身する。
今回も正門を出たところから、早朝に飛び立つつもりだ。
「何度見ても…圧巻ですね…」
サンディアは、変身した雷龍様のことをビビりながら見上げていた。圧巻というよりは恐怖心の方が強そうだ。
「そうか?おまえもそろそろ慣れた方がいいぞ?たぶんあの人、帰る気ないし、長い付き合いになる」
「なるほど…慣れる……慣れるのでしょうか?」
「知らんけど、じゃ、行ってきます」
「くれぐれもお気をつけて、あなたはもう正式な王なんです。町をうろつかないように」
「わかったわかった。子どもたちの家を引き払って、引き継ぎの人たちに挨拶したらすぐに帰ってくるから」
「お願いしますよ」
「へーい」
オレは、サンディアたち3人に手を振ってから、最後に雷龍様の背中に乗る。今回も家族全員での空の旅だ。
雷龍様が上昇し、あっという間にウチナシーレが見渡せる高度に達する。やっぱり、すごい迫力の景色で楽しくなってくる。
だから、〈さぁゆくのだ!雷龍!ドラゴン航空の超スピードを見せてくれ!〉とか心の中でつぶやいておく。
「……背中の上から、我のことを敬ってないやつの気配がするのだ」
「……気のせいですよ。あぁ雷龍様はカッコいいし!眷属思いで優しいなぁ!すごい!偉い!」
「…ふむ、悪くないな!」
鋭いわりに単純で助かる。
今回も長い道のりですが、よろしくお願いします。そう思いながら、オレが背中の鱗を感謝の意を込めてさすっていると、雷龍様はものすごいスピードで加速した。
だけど、オレたちはその超スピードの中でも快適に過ごせている。聖典を使ったリリィの結界のおかげだ。ウミウシまで約2日、往復で5日ほどの旅になる予定だ。
♢
ウチナシーレを飛び立ってから数時間が経ったころ、
「我腹減ったのだ」
はらぺこドラゴンが空腹を訴えた。
「了解です。休憩にしましょう」
「うむ」
フライトは順調に進んでいるので、要望どおり食事休憩のために着陸してもらう。人がいなそうな森の中の小高い丘に降り立った。
「ステラ!メシ!」
「はいはい」
「ステラ、いつもありがとうね」
「いえいえ♪」
「なんでライには優しいのだ!」
「旦那様なんだから当たり前でしょ?」
「でも我は!我はおねえちゃんなのだ!」
「……なによ、急に嫉妬して」
「そんなんじゃないのだ!我を敬え!」
「はいはい」
「あはは」
オレはステラと並んで昼食の準備をする。そうしていると、ノアールが雷龍様に近づいていった。
「なんか納得いかないのだ、我のことおねえちゃん、おねえちゃんって言うくせに、ステラのやつ……」
「竜ねぇは、ステラねぇのおねえちゃんなの?」
「なんだその呼び方、ま……亜人の小娘」
雷龍様は、ノアールのことを魔族、と言おうとして、亜人と言い直してくれた。これは、オレとステラからお願いしたことだ。
雷龍様曰く、数百年前は亜人たちのことを魔族と呼んでいたらしいが、現代ではそんな呼び方はしないし、なんだか魔族って名前は怖いからやめてね、と話したのだ。
最初、雷龍様は不思議顔で拒否してきたけど、巨大パフェを人質にしたらすぐに了承してくれた。
「ノアはノアールだよ?小娘じゃないもん」
「そうか、ノアール」
あれ?随分あっさり名前を呼んだな。雷龍様って認めた人間しか名前呼ばなかった気がするんだけど……
「で?その竜ねぇというのはなんだ?」
「雷龍様はドラゴンで、ノアより年上の家族だから、竜ねぇ」
「ふむ?」
「ねぇねぇ、竜ねぇはステラねぇのおねぇちゃんなの?」
「そうだ!」
「違うでしょ」
「なんでそんなひどいことばっか言うのだ!キライになるぞ!」
「……わかったわよ。そうね、血は繋がってないし、種族も違うけど、おねぇちゃんはおねぇちゃんよ」
「むふー!そういうことだ!わかったか!ノアール!」
「へー!じゃあ!ステラねぇもドラゴンに変身できるの!?」
「できません」
「えー?」
「がはは!ステラはよわっちいから我みたいに変身できないのだ!」
「はぁ……」
ステラは、2人の会話に興味を失ったのか料理に集中することにしたらしい。オレの隣で呆れ顔で手を動かしている。
「へー?じゃあ、ノアは強くなったらドラゴンに変身できる?」
「うーむ……それは難しい気がするのだ。おまえにはおまえなりに強くなる方法がある」
「そうなの?」
「我が教えてやってもよいぞ!」
「ホントに!?竜ねぇいい人だね!」
おお?まさか、雷龍様がノアールに修行をつけてくれるのだろうか?
あー……そういえば、〈魔族は強くなるから久しぶりに教えたい〉、みたいなこと言ってたな。だから、最初からノアールのことを認めていたのか、と思い当たる。
「では、まずはおまえの力を見せてみろ、あの絵を描くやつをじっくり見たいのだ」
「わかった!ちょっと待ってね!えい!」
ノアールがなにもないところからスケッチブックを取り出し、絵を描き始める。
「ふむふむ、面白い魔法なのだ」
雷龍様は興味深そうにノアールが絵を描くのを眺めていた。
「チー君、出てきて!」
そして、チーターのチー君を召喚する。
スケッチブックの中からチーターが飛び出した。
そのチーターの周りをぐるぐると雷龍様が観察する。
「ふーむ、こいつは雑魚だな」
「そんなことないもん!チー君つよいよ!ねー?チー君!」
「くーん…」
ノアールに声をかけられたチー君は、雷龍様から逃げるようにノアールの後ろに隠れてしまった。本能的に、相手が化け物だと理解したのだろう。
「あれ?チー君?」
「雑魚猫だから我のことが怖いのだ」
「ひどい!なんでそんなこと言うの!竜ねぇのばーか!」
「なんだこいつ!我を敬え!」
「やだ!」
やばい、そう思い、すぐに仲裁に入ることにする。
「まぁまぁ2人とも、はい、雷龍様、お肉ですよ」
オレは骨つき肉を雷龍様の目の前に出す。
「ガブっ!美味い!」
すぐに食いついてきた、そしてオレの手から引ったくっていく。
「ノアール、雷龍様は偉いドラゴンなんだから、敬いなさい」
「えー?だって、チー君のことばかにするんだもん。やだ」
「んー、雷龍様は誰よりも強いからさ、パパよりも何倍も、だからほとんどの人が弱く見えるんだよ」
「むー……」
「だからさ、雷龍様に教えてもらったら、ノアールはもっと強くなれるかもしれないよ?」
「ホントに?」
「うん」
「だから…んー……雷龍様」
「なんなのだ?」
「ノアールのこと眷属にしてくれるんですよね?」
「してやってもよいぞ!ま……亜人は強くなるからな!」
「だってさ、ノアール」
「むー……じゃあ!ノアが強くなったらチー君に謝って!」
「イヤなのだ!」
「なんで!ならノア教えてもらわないもん!」
「なんだこいつ!せっかく我が眷属にしてやろうと言ってるのに!キライなのだ!」
あぁ…上手いこと説得できなかった…
オレが頭を抱えていると、
「ノアール、こちらに来なさい」
「おねぇちゃん、こっち来て」
うちのママ2人が姿を現した。
「え?…ママ…なに怒ってるの?」
「なんだ!メシができたか!?」
そして、ノアールはリリィに、雷龍様はステラに連行されていく。
そして、2人がなんだかしょんぼりして帰ってきたと思ったら、
「竜ねぇ……失礼なこと言ってごめんなさい……」
「我も……雑魚猫とか言ってごめんなのだ…」
お、おぉぉ、まさかこの2人をこうも綺麗に仲直りさせるとは……
うちのママ2人はとても強いということがわかった1シーンであった。
♢
それから食事を食べながら、ノアールの魔法について雷龍様から解説してもらうことになった。
「ノアールの魔法は闇系統の空間魔法なのだ」
「空間魔法?なによそれ」
「あー、他にも転移魔法とか、そういう名前もあった気がするのだ」
「転移魔法だって!?」
「お?おぉ、そうなのだ」
オレの大声に雷龍様が、なんだこいつ?みたいな顔をする。
「なぁ、それって……」
クリスは驚いた顔、オレと同じだ。
「えっと……でも、転移魔法っていうと、ある場所とある場所を移動する魔法なんじゃないですか?ノアールの魔法は、どっちかというと召喚魔法?みたいな感じですけど」
「空間魔法というのがなにもないところから何かを生み出す魔法なのだ。その中の1つに転移魔法が位置する。ノアールは、絵に描くことによって、実在しないものを生み出すことができるのだ」
「ふむふむ…」
「パパ、ノアの魔法ってすごいの?」
「たぶん、すっごいよ、ちゃんと聞こうな?」
「うん!」
「それで雷龍様、その空間魔法を使いこなす方法をご存知なんですか?」
「うーむ、なんとなく知ってた気がするのだ」
「なによそれ、忘れたってこと?」
「何百年前のことだと思ってるのだ?これだからステラは、やれやれ」
「こっちのセリフなんだけど?」
「ステラ、ちょっと我慢しようね?」
オレは隣の水色髪を撫で撫でして落ち着かせる。
「竜ねぇ、ノア、もっと強くなりたい!」
「うむ!それは良い心がけなのだ!とりあえず覚えてることを教えてやるのだ!」
「ありがとー!」
「雷龍様、ありがとうございます。しかし移動もありますし、また次の休憩のときではいかがでしょうか?飛びながら思い出してもらっててもいいですし」
「そうか?そうだな、そうするとしよう」
ということで、ノアールの修行は、次の休憩まで、一旦お預けということになった。
それにしても、これは思わぬ収穫だ。まさか雷龍様が転移魔法のことを知っているなんて……やはり、長く生きているだけはある。ただのはらぺこドラコンではないようだ。
「……なんだか、また我のことを敬っていない気配がするのだ…」
「気のせいですよ!」
オレは食い気味で反論し、褐色幼女の肩を揉み揉みすることにした。
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