第361話 アステピリゴスからの手紙
翌日、王城に出勤したら、ユーカたちのことをすぐに相談した。サンディアたちがオレの話を聞いてスケジュールを確認してくれる。
「5日間お休みが欲しい?あー、例の子どもたちを迎えに行くんでしたっけ?」
「そうそう、ウミウシに残してきた子たち、お店の引き継ぎ体制が整ったから、いつでもいいよって連絡が来てさ」
「そうですか、なるほど。マガティヌス大司祭、今なら大きな行事もありませんし、復興も順調に進んでます。4日間ならライがお休みしても大丈夫ですよね?」
「……まぁ、よいだろう…」
「ありがとう。じゃあ、3日後、みんなで迎えに行ってくるよ」
「承知しました。また出発と帰還の時間は教えてくださいね」
「わかった」
ということで、カイリたちを迎えにいく日取りが決まった。
「あ、そうだ。それはそれとしてアステピリゴスのルーナシア陛下からお手紙が届いていますよ」
「ルーナシア陛下から?」
「ええ。そろそろ、聖騎士隊を戻してもらえるでしょうか、といった内容でした」
「……なるほど……」
オレは、クリスと離ればなれになることを想像して嫌な気持ちになる。
でも、聖騎士隊がウチナシーレに派遣されてから半年近くはたっている。むしろ、こんな長い期間派遣し続けてくれて感謝すべきなのだろう。それは理解できる。
だからといって、嫁と離ればなれになるのは嫌なのだ…
「〈聖剣様のことは直接相談できれば〉、と記載がありましたよ?」
サンディアがオレの顔を見て、すぐに察して補足をいれる。
「そっか……ありがと…」
「いえ、一応手紙は渡しておきますね。おそらく聖騎士隊の方にも同じようなものが届いているかと思います。自宅に帰ったらクリスさんとも話してみてください」
「うん……そうするよ…」
♢
「ただいま……」
オレは、クリスのことを聞いて、しょんぼりと帰宅した。
「おかえりなさい!パパ!あれ?どうかしたの?」
元気がない様子のオレに気づき、ノアールが手を握ってくれる。
「ん~?いや、クリスのやつが国に帰らないといけないかもって言われてさ…」
「クリスねぇが?なんで?」
「えっとな、クリスはアステピリゴス教国ってところで、偉い身分の人だから、他国にずっとい続けるのは難しいんだ…」
「そうなんだ……そのお仕事は辞めれないの?」
「そうみたい…」
「難しいね…」
「うん…」
「ごめんなさい……ノア、なんにもできなくって…」
「え?ノアは悪くないよ?こっちこそごめん。しょんぼりしてて、ご飯一緒に食べよっか」
「うん!…あ!でも、クリスねぇ帰ってきてからにする!」
「そうだな!あいつとも話さないとだし!もう少し待とっか!」
「うん!」
ということで、しばしあいつが帰ってくるのを待つことにした。
♢
「ただいま~」
「おかえり…」
「おかえり!クリスねぇ!」
少ししたらクリスが聖騎士隊の仕事を終えて帰ってきた。オレは落ち着かなくって玄関に椅子を持ってきて待っていたのだが、それにノアールも付き合ってくれていたのだ。
クリスのやつの顔は、ぱっと見はいつも通りに見える。
「あれ?なんでこんなところで座ってるの?それに随分元気ないじゃないか?」
「だって……」
「あー……そっちにもルーナシア陛下から手紙きた?」
「ああ……」
「クリスねぇ!パパずっと元気ないから慰めてあげて!」
「わかったよ。ありがとね。ノアールちゃん」
「うん!あのね!ステラねぇに話したら、クリスねぇのお部屋にご飯用意しておくって言ってたから、2人で話してきて!」
「え?でも、ノアールは?一緒に食べようって」
「ノアはティナねぇねと食べるから大丈夫!パパはちゃんとクリスねぇとお話しないと!」
「そっか…ありがと」
「ううん!」
「じゃあ、クリス、ちょっと時間いいか?」
「もちろん」
そして、オレとクリスは2人でクリスの部屋に向かう。
部屋の扉をあけると、オレの部屋と同様、私物があまり置いていない色どりの少ない部屋が現れた。今まではあまり気にならなかったが、私物を増やさない理由がいつか祖国に戻るためなのではと勘ぐって寂しくなってしまう。
「……」
だからオレは話かけることができなかった。
「…はぁ、しょんぼりしすぎだぞ?」
「だって……」
「とりあえずさ、ステラさんのご飯食べながら話そうよ?」
テーブルを見ると、2人分の夕食が用意されていた。
「わかった…」
2人してテーブルに近づき、クリスはベッドに腰かけながらお皿を持って食べ始め、オレはテーブル付属のイスを使わせてもらう。
あまり箸は進まないが、愛する嫁のご飯だからあきがたく食べさせてもらった。
「それで?キミがしょんぼりしてるのは、僕が大好きすぎて離れるのがイヤだってことでいいかい?」
「そうだけど?」
「……なんか照れるな…」
「自分で言っといてなんなんだ?オレはおまえが大好きだ。離れたくない」
「わ、わかったって……ふざけてごめん…」
「いや…謝らせる気はなかったんだ…ごめん…」
「……あのさ、もし離れることになっても、定期的にこっちに来れるようにはしてもらえると思うよ?きっとさ」
「そうかな…でも、数か月に一度とか…だろ…」
それはイヤだ、と言いたいが一旦我慢する。
「うん…」
クリスのやつもオレの気持ちはわかるのだろう。一緒の気持ちだと思う。
「……転移魔法があればなぁ…」
「だね……」
2人してしんみりしてしまう。
久しぶりに転移魔法のことを口走ったが、もともとオレは転移魔法の使い手を探してノアールと再会した。
攻略スキルの検索条件によれば、ノアールは〈転移魔法を使えるようになる可能性がある人物〉であるのは間違いないのだが、今のところ使えるようになる気配はない。
どうすれば習得できるのかわからなくて、ソフィアやティナにもノアールの魔法を見てもらったのだが、〈見たことがない魔法〉という評価しか得られずに前進していなかった。
「あのさ、おまえが帰るときって、オレも同行できるかな?」
「キミが?もう国王だから難しいんじゃないか?あ、でも、手紙には〈今後の聖騎士隊の派遣についてはライ陛下と直接話したい〉て書いてあったよね?」
「ああ、だからさ、おまえをくださいって、本気でお願いしたいと思ってる。国王の力を使ってでも」
「いや……僕には聖剣としての務めが…」
「そう…だよな…」
改めて、こいつの意思を聞いて、またしょんぼりする。こいつは聖剣としての職務に責任を感じているし、レウキクロスを守りたいという気持ちが強いのだろう。それは尊重したい。
「……実は、僕も……レウキクロスを守ることよりも……キミの傍にいたいって思ってる…」
「ホントか!?」
以前とは優先順位が変わったように聞こえて顔を上げる。
「でも……やっぱり、大切な故郷は守っていきたい…」
「あ……だよな…」
気のせい、いや、2つの気持ちがぶつかっているのだろう。クリス自身も苦しそうだった。
「…2人で、たくさん考えよう。なるべく一緒にいられるように」
「うん。ありがと…僕のワガママを聞いてくれて…」
「いや、お互い様だろ。オレもいつもワガママ言ってるし」
「はは、そうだな」
「そこは謙遜しろや」
「なんだぁ?」
「おまえこそ、なんだぁ?」
「……ぷっ」
「はは……」
オレたちはクスクスと笑い合った。結論はでなかったけど、気持ちは確認し合えた。
オレたちは2人とも離れたくないと思っている。2人の立場上、ずっと一緒にいるのは難しいかもしれない。
だけど、なるべく一緒にいれる道を探していきたいね。そう話してから、オレたちは唇を重ねたのだった。
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