第360話 旧友との再会
ディグルムと謁見の間で挨拶してから、ディグルム商会とサンディアたちが観光事業について打合せを行って、今後の方針がある程度決まった。
まず、温泉宿は、1店舗、海沿いの高台に作ることとなった。
これはウミウシのうちの宿を真似した形で、やはり、海を眺めながら温泉に入れるのが良いだろう、ということになったからだ。
好評であれば、店舗を増やす想定なので、近くの土地も確保しておくこととした。
次に釣り堀だが、今はまだ船が多くはないが、今後増えることを見込んで、港の中に作るのはやめておいた。船の係留スペースは潰したくないということだ。
なので、港からすぐ隣に新しい桟橋を建築して、そこを釣り堀とすることになった。
人員も資金も支援できないので、家賃というか土地の使用代は無料ということで合意できた。土地の所有権は、一応リューキュリア教国のままだが、半永久的に無料で土地を使用して良い、という契約を結ぶ。
その代わり、温泉宿や桟橋などの建築費用は全てディグルム商会で工面してくれることとなった。
最後に、ディグルム商会ウチナシーレ支店の場所だが、商店街の入り口に大きなスペースを確保し、そこに建築してもらうこととなった。
商店街はあまり復興が進んでいないが、これから町が栄えることを考えると一等地で間違いない。正門から続く大通りにも面しているし、すごく目立つ立地だと思う。
それが決まったとき、ディグルムは震えていたらしい。本人曰く、〈首都にここまでの一等地を持ったのは始めです〉とのことだ。
あ、それと支店の方の土地は無償で所有権を譲ることとした。ここまで国政といってよい事業に協力してもらうのだから、商店街の一等地くらいは譲るべきだろうと正式に決まったのだ。
ただ、裏でこっそりこういうことをやると後で不平等だとか言われそうなので、資金力があって国のためになる事業に取り組みたいという商会がいれば、ディグルム商会と同じように支援する、と大々的に告知することにした。
この告知により、他の商会もウチナシーレにやってきて、国が栄えることを期待している。そのあたりは今後どうなるか見ものであった。
ここまでがサンディア経由で聞いた話である。というのも、これらの話し合いにはオレは参加していない。
王が大っぴらに他国の者と関わるべきではない、とマガティヌスに言われたからだ。そのため、ディグルムとの話し合いは司祭たちに任せっきりであった。
少し寂しい気もしたが、オレの意見はサンディア経由で伝わるので、コミュニケーションには問題は生じなかった。
とにかくこれで、ディグルム商会のやるべきことは、ほぼほぼ決まったことになる。
ということで、「そろそろディグルムを屋敷に招いていいか?」とマガティヌスに許可を求めたところOKが出たので、彼を呼ぶことになった。
やっと、気軽に話ができる。楽しみだ。
♢
屋敷の呼び鈴が鳴ったので、オレとティナとノアールで屋敷の玄関に向かう。
扉を開けると、ディグルムと美人秘書が立っていた。
「これは陛下!お招きありがとうございます!」
「あはは、とりあえず中にどうぞ」
オレは、知り合いから陛下と呼ばれ、苦笑いで2人を屋敷の中に入れた。
「改めましてお久しぶりです、ディグルムさん」
「お久しぶりでございます!このディグルム!陛下にお会いするのを楽しみにしておりました!」
「はは、陛下はやめてください。前みたいに呼んでくださいよ」
「そ、そうですか?」
「ええ、ここでは無礼講でいいと部下からも許可をもらっています」
「それでは…ミカヅチ様!此度は我が商会に大きなチャンスを与えてくださり、ありがとうございます!」
「何かいい事あったの?ディグルムおじちゃん?」
隣のノアールがテンション高めのディグルムに話しかける。
「ええ!それはもう!……はて?なぜノアールちゃんがここに?」
ノアールのことを知っているディグルムは、ノアールの姿を確認し、首を傾げる。
2人は、ノアールがウミウシに滞在していたころからの知り合いだ。ディグルムは、オレたちが旅立ったあとも定期的にウミウシに子どもたちの様子を見にいってくれていたと聞く。
だから、ノアールがウミウシではなく、このウチナシーレにいることを不思議がっているのだろう。
「ノアはね!パパのお嫁さんになったの!だからここにいるんだよ!」
「それはどういう?前からそんなことを言ってたような気がしますが、おままごとの延長ですかな?」
「むー!おままごとじゃないもん!ノア!ちゃんと大人になったんだから!」
「ほう?」
「わしと同じ立場になったということじゃ」
「これはティナルビア殿、おひさしゅうございます……ティナルビア殿と同じ立場?」
ディグルムがオレとノアールを交互に見る。
「…なるほど…これは高度なことだ…ワタクシめも新しいことに挑戦するときが…」
ディグルムが顎に手を当てて、興味深そうな顔をしている。相手にパパとか呼ばせておいてお嫁さんに迎える、というのがなにか新境地のように思えたのかもしれない。
うーん、心外だね。だってオレは真剣にノアールのことを愛しているのだから!
そんな特殊プレイみたいなものじゃないよ!
…まぁ、そう思われてもしょうがないとは思うけど…
「ロクでもないことを考えないでください、ディグルム様」
オレたちが黙っていると、美人秘書からツッコミが入る。
「あはは、とりあえずリビングに行きますか」
話がおかしな方にいきそうだったので、2人を連れてリビングに移動した。
2人をソファに座らせて、オレとティナが正面に座る。リリィがお茶を淹れてくれて、それを飲みながら、落ち着いて会話を再開した。
ノアールは飽きたらしく、カーペットの上で寝転んでいる。ぽかへいとピーちゃんと遊ぶことにしたらしい。
他の妻たちもディグルムに一言だけ挨拶して、それぞれ好きに動くことになった。
「これはまた…美しい奥方様が増えましたな…」
「あはは、そうですね、みんな自慢の妻です」
「節操がないやつじゃからな、好みの女はみな自分のものにするのじゃ」
「あの…そんな言い方はひどくない?ティナ」
「そうかのう?」
オレとティナの夫婦漫才を無視して、ディグルムがぶつぶつと話す。
「なるほど、やはり、ミカヅチ様のような方が王になるのですな…
あなた様はなにかすごいことを成し遂げると思いましたが、王になるとは想像もできませんでした…」
「ですよね、オレ自身もそうですよ」
「そんな!ご謙遜を!王を目指して動いていたのでしょう!?是非、それまで武勇伝を聞かせていただきたい!」
「いやいや、全然!王になるなんて思ってもみませんでしたよ。
だってですよ?王様になるまでに――」
そしてオレは、これまでの経緯をディグルムに話し出した。
オレの冒険譚を楽しそうに聴いてくれる。久しぶりに旧友に会ったような感じで話に花が咲いた。
そういえばこれまでは商談ばかりで、世間話はじっくり話したことなかったな、と思い、夕食も共にすることにした。
夕食のときには、ステラの料理を大層ほめてくれて、「これなら大人気レストランを作れますぞ!」と言ってくれた。
「それもいいかもしれませんね♪」
とステラも乗り気だ。
そして、楽しい晩餐の後、笑顔で見送ることとなる。
「それじゃあ、これからウチナシーレでもよろしくお願いします」
「こちらこそでございます!数ヶ月は滞在しますので!よろしくお願いいたします!もちろん!外では陛下とお呼び致しますのでご心配なく!」
「はは、ホントは外でも普通に話したいんですけどね。それではまた」
「はい!またお会いしましょう!」
ディグルムはぺこぺこ頭を下げ、美人秘書は綺麗に一礼だけして帰っていった。
帰り際、なんかディグルムがスケベ顔で美人秘書の尻を見ていたのは気のせいだろうか。
オレに触発されて、色々燃え上がっているのかもしれない。ま、そんなことどうでもいいか。
「パパー!ユーカねぇからお電話きてるよ!」
「お?」
玄関の戸締りをして、リビングへと戻るとノアールから声がかかった。
ユーカから連絡?ということは、ついに準備が整ったのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます