第359話 ディグルム商会の大規模行商隊
親子丼を楽しむ毎日を過ごしていると、以前手紙を出しておいた商人が、大規模な行商隊を引き連れてウチナシーレに来訪した。
ディグルム商会だ。
どれくらい大規模かというと、馬車の数は20台を超えていたらしい。ウチナシーレの町民たちは、なんだなんだとざわざわしたと聞く。
その話を聞いて、オレはすぐに挨拶に向かおうと思ったのだが、マガティヌスに止められた。
〈こちらから王として手紙を出したのだから、国賓として招き、正式に王城で挨拶すべきだ〉とのことだ。
なるほど、わかりました、と素直に従うことにする。
本音で言えば、顔見知りだし普通に挨拶したいところだが、オレの立場上、もうそうはいかない。なんだか、こういう窮屈さを感じると、オレは王様なんだと再び実感する機会となる。うん、気を引き締めないといけないな。
♢
ということで、ディグルムが到着した翌日、オレはリューキュリア教国国王として、王城の謁見の間にて、ディグルムのことを待ち構えていた。
「ディグルム商会代表!バナーム・ディグルム殿!ご到着です!」
司祭の1人が大きな声を出し、それに続き、騎士団の2人が扉を開けてくれる。
謁見の間の大きな扉が開き、レッドカーペットの向こう側に見知った男が立っていた。
ディグルムさんだ。てか、あの人、バナームって名前だったんだ。初めて知った。
ディグルムが、秘書のような女性を1人引き連れて、こちらに向かって歩いてくる。ずいぶん緊張してるようで、硬い顔をしていた。
オレのことを見るとさらに緊張したのか、なんだか汗ばんでいってるように見える。大丈夫だろうか。
まぁ、オレのこの王様っぽい格好をみたら、恐縮してしまうのもわからなくはない。立派な王冠に豪華な服装、煌びやかな椅子に座って偉そうにしているのだ。
周りには騎士団もいるし、無礼を働いたら斬られるかも、とか思っているのかもしれない。
ディグルムからしたら、「あいつホンマに王様になっとるやん…」みたいな感想をいただいていそうだ。だってオレは、ついこの前まで、ただの商売相手だった人間だ。
そんなやつから〈王様になったから来てや〉と言われたら半信半疑だっただろう。それでも、あんなに大規模な行商隊を引き連れてやってきてくれたディグルムには感謝しかなかった。
そんなガチガチのディグルムに対して、隣の秘書は落ち着いた様子だ。クールビューティーという感じで、面食い仲間のディグルムらしい美人秘書であった。
2人がある程度までオレに近づいてくると、司祭の一人が「ここで止まってください」というジェスチャーをして、2人を制止させる。オレとの距離は10mはあいてないが、それなりに離れていた。
「こ、ここ!この度は!このディグルムをお招きいただき!誠にありがとうございます!」
ディグルムさんが膝をついて、オレに頭を下げた。秘書も同じようにする。
「いえ、こちらこそ、お越しいただき、ありがとうございました。どうぞ、頭を上げて、楽にしてください」
オレは王様モードの声色と話し方で対応する。
「こ、これは!恐れ入りまする!」
ガチガチすぎて少し笑ってしまいそうになる。
オレは、マガティーの監視もあるので、王様っぽくしなければならないのに。
「…んん、あー…この度は、リューキュリア教国の申し出に対して、大規模な行商隊を派遣していただき、ありがとうございます。あらためて、国王としてお礼を言わせてください」
「め、めめ!滅相もございません!ライ・ミカヅチ陛下には!以前から良くしていただいておりました!此度のご要請!誠に嬉しく!そして光栄に思っております!」
うーむ、どちらかというとオレの方がお世話になってた気もするが、そう言ってもらえるのはありがたい。
今度、別の場所でしっかりお礼を言おう。
「…では、改めて確認させていただきたいのですが、書状にて記載した〈ディグルム商会のウチナシーレへの出店依頼〉は、進めていただけるのでしょうか?」
「はい!もちろんでございます!」
「ありがとうございます。それと、実はですね、もう1つ、いや2つ頼みたいことがありまして、相談に乗っていただけるでしょうか?」
「なんなりと!」
「ありがとうございます。2つというのは、温泉宿と釣り堀を新規事業として取り組んでいただきたい、という相談になります。
ディグルム殿には、ウミウシにて温泉宿と食堂の建築時にご協力いただきましたが、モデル事業としては、あれとほとんど同じものになると想定しています。
このウチナシーレでも、温泉宿と釣り堀を流行らせたいと思っていまして、その事業にご協力いただきたい。いかがでしょうか?」
「それは…当商会にお任せいただいてよろしいのでしょうか…
おそらく、莫大な利益を生む事業かと思いますが…」
「そこは大丈夫です。お恥ずかしい話、我が国は現在厳しい国政でして、娯楽事業に手を回す余裕がないのです。
ディグルム殿の手腕で、ウチナシーレを観光都市として栄させていただきたい」
「おぉぉ…ワタクシが都市開発に関われると…」
なんだか、ディグルムがわなわな震えている。こういったことに関心があったのだろうか。
「はっ!陛下の!リューキュリア教国の力になることをここに誓います!」
また、ディグルムが膝をついた。震えながら、なにか闘志のようなものがメラメラしているように見える。商売人魂に火がついたようだ。
「ありがとうございます。それでは、サンディア」
「はっ!」
「ディグルム殿に店舗の位置などをご案内してください」
「かしこまりました!」
「バーナム・ディグルム殿!ご退出ー!」
司祭の声とともに、ディグルムが一礼し、そして謁見の間を出ていった。
扉が閉まる向こうで、再度一礼してくれている。
そして、扉が閉まりきった。
「…ふぅ、どうだった?マガティー?」
オレは緊張を解いて、左後ろに控えていたマガティヌスに話しかけた。
「…途中、笑いそうになっていたのを除けば、及第点だろう」
「そっか、ありがと、じゃあ、具体的な打合せがディグルムさんと済んだら、うちの屋敷に招待しておいてくれるか?屋敷の中なら普通に話していいだろ?」
「屋敷内ならば、いいだろう…招待の件、こちらで調整するので、しばし待たれよ」
「ん、頼む」
ということで、オレとディグルムの再会は、それはもう仰々しいものになってしまった。
屋敷にて、彼と普通に話すのが楽しみである。
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